◆【風を読む】論説委員長・千野境子
「やっぱり」だった。東シナ海のガス田開発をめぐって、二階俊博経
済産業相が地元和歌山で「私はその道(試掘)を取らない。中国側と粘
り強く交渉しなければならない」と述べたこと。
江沢民前国家主席の銅像を建てようかというくらいの政治家だから、
案の定、懸念は的中した。
試掘せよと言うのではない。交渉中のいま日本が取るべきは曖昧(あ
いまい)戦略であって、「試掘しない」と断言して失うものはあっても
得るものはないと言いたいのだ。
そもそも二階氏の「(中国側と)いきなり衝突することを考えても、
ことは解決しない」とする現状認識が解せない。日本は別に衝突しよう
などと考えてはいない。試掘の主張はもとより仮に試掘に着手したとし
ても、国際的に何ら違法でない。
もしそれを言うなら、相手は周辺海域に駆逐艦や軍艦を派遣してきた
中国の方だろう。
国境画定をめぐる中越(ベトナム)、中印交渉や香港返還をめぐる中
英交渉など対中外交に関(かか)わった各国外交官たちが異口同音に強
調することは、対中交渉が
(1)稀(まれ)に見る耐久レースになる
(2)これほどタフな(手ごわい)相手はいない
-ということである。
そんな名だたる相手に「粘り強く交渉」する。それ自体は間違いで
はないが当然で、大臣には失礼ながら、これでは「無策です」と言っ
ているようなものだ。
それにしても東シナ海、ひいては海洋資源への日本人の関心は低す
ぎる。元駐米大使の村田良平氏は著書『海が日本の将来を決める』で、
日本の海洋政策の問題点として現状維持的な法思想や総合海洋政策の
欠如とともに、他の海洋国と比べて国民の海への関心や知識のなさを
指摘している。
同感だ。いまや強靭(きょうじん)な外交力に世論は不可欠な時代
である。