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◆【正論】先人たちの無念さ生かせない憲法草案

 (産経1・3)

東京工業大学名誉教授・芳賀綏 無色無味な前文など必要ない

≪味気ない文嘆いた犬養健≫

 昨秋、自民党の結党五十年に際し、久しい懸案の新憲法草案が発表さ
れた。議論百出すべき年明けだ。冒頭の「前文」を読むうち、敗戦の翌
年の議場がよみがえった。

 第一次吉田内閣のもとで現憲法案が衆議院を通過した昭和二十一年八
月二十四日、本会議で賛成討論に立った議員の一人、犬養健(日本進歩
党)は、演説の冒頭部分で憲法前文に言及して述べた。

 「これを一読致しますにつけ、われわれは、口語体としてのわが日本
語が、殊に法律に関して用いらるる場合、いかに未(いま)だ成熟の途
にあるかを痛感致したのでありまして、将来とも幾多の文学の天才が出
現致し、あらゆる形において縦横の表現を試み、これによってわれらの
日本語に、さらに多角的にして豊富なる魅力を加えんことを期待致すの
であります(拍手)」

 憲法原案が日本製でないことを言外に言い、味気ない、魅力のない日
本文であることを嘆いたものだ。

 そして貴族院本会議でいよいよ憲法が成立する十月五日、改正案特別
委の委員長報告に立った安倍能成(哲学者、元文相)の発言は一段と率
直だった。「前文については、特にその文章の生硬未熟なことが指摘せ
られまして、また内容としては、さらに積極的な雄健明朗な、これから
の日本国民を立たしめるような、そういう性格を与えるための内容の改
正や充実も提案されましたが、これは政府の容るるところとはならなか
ったのでありました」

≪素案無視した自民党の愚≫

 このように、急ごしらえ憲法の底の浅さと生煮え加減を、とりわけ前
文について批判した良識の声が、改正の機会には当然生かされるはずだ
った。前文は「雄健明朗」な内容になって国民の高朗な志が表明され、
「英文直訳体としては文句なしの模範文」などと皮肉られた現行前文と
違って、豊かに蓄積された日本語の伝統の粋が示されるかと思った。

 今度の自民党案ではその期待がかなえられたか。否。「象徴天皇制は、
これを維持する」などと、現憲法からの事務引き継ぎ風の投げやりな文
言を含んで、依然として総体にぎこちなく、生気がない。起草者たちの
声が響かず、国づくりの感激が伝わらない。各章各条の要点を掃き寄せ
た“ご用とお急ぎ”向け便覧を、コンピューターの作った声が伝えるよ
うな無感動なものだ。六十年昔の先人の批判に応える英知の重みや味わ
いを感じない。

 新憲法起草委員会の素案では、前文で日本の国土、自然、歴史、文化
など国の生成発展に言及し、格調ある文章にすると目指していたはずだ
が、聞けば党大会での発表前に排除されてしまったという。前文が無色
無味化したことの苦しい弁明か、「各国に共通の普遍の原理を掲げるの
だから日本的な色合いは不要」といった説明も聞かれた。“普遍の原理”
の根本議論に立ち入る紙幅はないが、仮に普遍の原理にせよ日本人が日
本語で謳(うた)うのである。

 国際人・新渡戸稲造の表現を借りるなら“民族の音色(ねいろ)”が、
静かな裡(うち)にも凛(りん)として響き、みずみずしい日本文にな
るのが自然である。

≪民族の個性白眼視する気風≫

 昭和三十年代のテレビで宮沢喜一氏(当時参議院議員)がいみじくも
「英語で話すことは英語で考えることですから、英語で話していると日
本がはみ出してしまいます」と語った通りの“日本はみ出し文体”の残
像を引きずる粗雑な文章で新憲法とは無理だ。

 日本はみ出し様式を安易に踏襲したことについて、“日本人らしさ”
におごるのは不要(不可?)という意味の説明もあったが、日本人らし
さはことさら誇示されるのではない。背伸びし、ふんぞり返った自己顕
示ではなく、民族の心のヒダの深みからおのずとにじみ出るものだ。
“国柄”の自然の流露である。「文は人なり」なのだ。

 戦後の教育では、二言目には“個性的な人間”を育てるというくせに、
民族や国の個性を白眼視し、ユニークな国語の持ち味への鈍感さを放置
するのは、ひどい矛盾撞着(どうちゃく)ではないか。素案にありなが
ら否定された重要部分は、憲法の根本原理や個々の条章が実践される舞
台としての国土と、国民の人となりが育んだ伝統を一言に語るもので、
どんな人間たちがどんな環境で憲法を生み、担うかを、潤いのある文体
で表明することは危険でも過激でもない。

 内外各方面に対する政治的配慮から、それすら抑制するというのなら、
いっそ前文のない憲法で出直したらどうだ。明治憲法は、表現は簡潔雄
渾、前文など付いていなかった。
by sakura4987 | 2006-03-21 11:02

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