◆【書評】『中国は日本を併合する』平松茂雄著
(産経 06/3/19)
十九世紀の後半、明治維新の日本は近代国家建設という明確な目標をもった国であった。それによって日本は非白人国家として唯一の近代国家になった。
そのころシナ(清)は「眠れる獅子」といわれていたが、そのうち「眠れる豚」にすぎないことがわかり、国土は諸外国に食い荒らされ、シナ人は世界中で蔑視(べっし)される民族となっていた。日本との差はあまりにも大きかった。
ところが二十世紀の半ば、毛沢東がシナ大陸に現れると、清朝の最盛期(康煕帝・乾隆帝)の領土を取りもどすという国家目標を立てた。この中には満洲・朝鮮・カザフスタン・キルギス・パミール高原・ネパール・ミャンマー・ベトナム・ラオス・カンボジア・台湾・沖縄・樺太・ハバロフスク・沿海州一帯が入る。
この領土獲得の手段として、毛沢東は「核・海洋・宇宙」の三領域の開発・征服を目標とした。
その後、大躍進・人民公社・文化大革命などといろいろあり、そのたびに千万人単位の人民が殺されたり餓死した。しかし中国共産党政権が、この毛沢東の三目標からブレることはなかったのである。核弾頭もミサイルも、有人宇宙船も開発した。そして今や東シナ海への進出は実質上終わり、西太平洋に出てきている。
この中国の政策の発展は、はじめのうちは中国の貧困にかくされてそれほど脅威と見なされなかった。しかし平松茂雄氏だけは、五十年近く、コツコツと地味な研究を重ね、この中国の野心についてただ一人警告を発し続けてきた。
それに対して、日本政府・議員・学者、特にチャイナスクールと言われている人たちが何をやってきたか。清朝末期の宦官(かんがん)たちみたいなことをやって日本を裏切り続けてきたのではないか。二十世紀の元寇(げんこう)がせまっている。
平松氏の著書は平成の立正安国論である。(講談社インターナショナル・一六八〇円)
上智大学名誉教授 渡部昇一