◆戦略的価値高まるグアム
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●米軍の太平洋の「基点」に
西太平洋に浮かぶ米国領最西端の島、グアムの戦略的重要性が高まっている。昨年10月の在日米軍再編の中間報告では、在沖海兵隊約7000人を削減することが盛り込まれたが、その大半が移転するのもグアムだ。
米国防総省はグアムを太平洋地域の「ピボット・ポイント(基点)」とみなしており、その背後には軍備増強を続ける中国に対する抑止力を強化する狙いがあるのは間違いない。(ワシントン・早川俊行)
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●中国の軍事的台頭を予防
米国がグアムを重視する大きな理由は、米本土やハワイに比べて、台湾海峡や韓半島、対テロ戦争の「第2戦線」ともいわれる東南アジアに近いというロケーションの良さだ。
米軍が世界的規模で進めるトランスフォーメーション(変革・再編)は、「柔軟性」がキーワード。有事やテロ対策、自然災害などアジア・太平洋地域で発生した緊急事態に速やかに展開する上で、グアムの地理的メリットは大きい。日本、イギリス、インド洋のディエゴガルシア(イギリス領)とともに、グアムを「戦略展開拠点」(PPH)に位置付けている。
ベトナム戦争時、グアムはB52爆撃機の発進拠点だったが、冷戦後、攻撃戦力を撤退させるなど、基地の整理縮小が進められた。だが、グアムの戦略的価値が再び見直されたのは、中国の軍事的台頭が顕著になってきたことが大きい。
米政府は先月発表した国家安全保障戦略で、「中国が国民のために正しい戦略的選択を行うよう促す」とする一方で、「それ以外の可能性をヘッジ(予防)していく」ことを明確にした。
つまり、米政府は中国に対して、国際社会の「責任あるステークホルダー(利害関係者)」としての行動を取るよう要求していくものの、不確実な中国の将来への備えを怠らないということだ。
国防総省が2月に発表した「4年ごとの国防計画見直し」(QDR)報告は、太平洋地域に空母を11隻中、少なくとも6隻を、潜水艦も約6割を配備する方針を打ち出したが、これは海空軍力の増強を進める中国を念頭に置いていることは明らかだ。
●最大の利点は「自国領」
グアム重視の動きもこの延長線上にある。米軍は2004年からグアムに爆撃機のローテーション配備を始めているが、これについて先月16日に上下両院合同の米中経済安全保障見直し諮問委員会で証言したジェームズ・トーマス国防副次官補は、「ヘッジ戦略の一環だ」と指摘した。
グアムでは爆撃機のほか、既に攻撃型潜水艦を3隻配備。今後さらに2隻を追加する計画だ。また、沖縄の海兵隊が移駐してくれば、グアムの基地増強は一層進むことになる。
グアムが持つもう1つの利点は、「米国領であること」(ファロン太平洋軍司令官)だ。外国の軍事基地はロケーションが良くても、政治的な制約を受ける恐れがある。韓国の盧武鉉政権が在韓米軍を域外に展開するときは韓国の許可を得るよう主張したのは、その一例だ。在日米軍基地についても、沖縄などでは地域住民との摩擦が続いている。グアムではこうしたリスクが存在しないことが、最大のメリットの1つといえるだろう。
グアムには、3000メートル以上の滑走路が2本あるアンダーセン空軍基地や、潜水艦の基地であり、空母の接岸も可能なアブラ港がある。ただ、グアムの軍事インフラは荒廃しており、大幅な修復が必要な状況だ。アンダーセン空軍基地の滑走路も一本は現在、改修のために取り壊されている。
沖縄から新たに数1000人規模の海兵隊員を受け入れるための施設はこれから整備しなければならず、その移転経費は百億ドル(約1兆1800億円)に達するとされる。