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◆急がれる生命の出発に関する論議

◆【正論】山野美容芸術短大教授・中原英臣 

≪判決は根本問題に触れず≫

 生命科学をめぐって二つの大きな出来事があった。一つは高松高裁が凍結保存精子を利用した体外受精で誕生した子供の認知を日本で初めて認める判決を下したことであり、もう一つは小泉首相を議長とする総合科学技術会議の生命倫理専門調査会が、再生医療の実現に向けて条件付きながらもヒトクローン胚の研究を容認する最終報告書案を提出したことである。この報告書案の元になった同調査会の決定については、年金改正法と同じように強行採決されたことから意思決定のプロセスに対する批判が起きた。

 人間の生命は出産した瞬間からスタートするという自然の法則に支配されてきた。いくら動物と違って社会や文化を持っているといっても、この自然のおきてを変えることはできないと信じられてきた。ところが、生命科学と医学の急速な進歩によって、これまで絶対と思われてきた生命のスタートに関する時間軸が大きく揺らいでいる。

 人類初の体外受精によってイギリスでルイーズ・ブラウンが誕生したのは一九七八年のことだった。不妊症の治療として開発された体外受精は、女性の卵巣から取り出した卵子を男性の精子と受精させたうえで子宮に戻すという医療技術で、いまでは冷凍保存した凍結受精卵や凍結保存精子が利用されている。

 今回、高松高裁は、父子間に血縁の事実があり懐胎には父親の同意があったことから認知を認めたが、凍結保存精子を使って体外受精を行ったことの是非については判断を避けた。裁判所が死後生殖を認めた今回の判決は、生まれてきた子供に不利益が生じないよう福祉を優先した半面、凍結保存精子の所有権や遺産相続といった問題が残されたことも事実である。

≪一歩違えば道具や資源に≫

 そのため、「体外受精を婚姻関係のある夫婦間に限る」とする日本産科婦人科学会は、判決が出たその日に凍結保存精子を使って体外受精を行った産婦人科医を厳重注意処分としている。今回の判決はまた、昨年九月に日本不妊学会が出した「本人が死亡した場合はただちに凍結保存精子を廃棄する」という会告とも対立する。日本には死後生殖に関する法律がない以上、学会の会告と裁判所の判決のいずれが正当なのか判断することができない。

 一方、そのまま育てば人間になるヒトクローン胚の作成と利用については、二〇〇一年に施行されたクローン技術規制法で当面は禁止としてきた。胚というのは分割を始めた受精卵のことである。クローン人間の誕生につながるヒトクローン胚の研究は、専門家の間でも論議が大きく分かれる一方、ヒトクローン胚を使って自分の細胞からつくった組織や臓器を利用すると拒否反応が起きない再生医療が実現することから、臓器移植に頼る患者にとっては福音に違いない。

 凍結保存精子を利用した体外受精とヒトクローン胚の研究は「生命のスタート」という糸で結ばれている。前者は女性の胎内でしか起こりえなかった受精が体外受精という医療技術で人工的に行えるようになったために起きた問題であり、後者は組織や臓器を人工的につくれるES細胞をクローン胚を使ってつくられたことによって発生した問題である。人間の生命の萌芽(ほうが)である凍結受精卵やヒトクローン胚の利用は、一つ間違えると人間の生命を道具や資源にしてしまいかねない。凍結受精卵やヒトクローン胚は生命なのかという問いかけがまず必要となろう。

≪対応の遅れが目立つ日本≫

 これまで出産によって生命がスタートするという「自然法則の壁」が、生命科学の進歩で消滅したわけである。生命のスタートについての問題が曖昧(あいまい)にされたまま医療技術だけが進歩していく日本の対応には問題がある。死後生殖については、米英は法律で認めているが、独仏は認めていない。ヒトクローン胚の研究は、仏独は法律で禁止され、条件付きで認めている英中韓でも厳しく規制がある。米国でも研究費を出さないという形で規制している。

 日本でも生命のスタートに関する論議を本気で行い、死後生殖やヒトクローン胚の研究に関する法律をつくる時期がきていると思われるが、年金制度については選挙で国民の意思が問えるのに、生命のスタートについては国民の意思が一切無視されている。科学者や法律家といった一部の専門家に任せてきた生命のスタートについて、国会の場で国民も参加できる形で納得できるまで論議し、日本の社会や文化に合った法律をつくっていく必要がある。(なかはら ひでおみ)

平成 16年 (2004) 7月23日[金] 産経新聞
by sakura4987 | 2006-06-20 14:01

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