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◆中高一貫に何のメリットがあるのか

【正論】東京大学名誉教授 辻村明 
[2003年07月24日 東京朝刊]

 ■旧七年制高校に見る反省と教訓
 ≪受験省略の安易さ助長も≫

 最近、教育改革の一環として、中高一貫制設立の動きが出始めている。中部地方では、トヨタ、JR東海、中部電力の有力三社が共同して、その設立を推進していくようである。また、それに対抗してかどうか、東京都も同じような構想を持っているようである(六月十六日付産経新聞)。しかし私には既に三月十七日付本欄および雑誌『諸君!』の本年七月号で一部論じたように、中高一貫教育制度は、高校受験を省略してしまう安易な傾向を助長するものとしか思えない。

 中高一貫制というと、何か全く新しい制度で、教育改革の一環のように見られやすいが、実は昭和二十三年以前の旧教育制度にもあったことを忘れてはならない。それは大正七年公布の「高等学校令」において、「高等学校ハ官立ト公立、又ハ私立トス」と定め、「高等学校ノ修業年限ハ七年トシ、高等科三年、尋常科四年トス。高等学校ハ高等科ノミヲ置クコトヲ得」と規定された。

 これ以前にできた旧制高校は一高から八高までのナンバー・スクールは明治時代創立ですべて官立校。また新潟、松江などに設立された地名スクール九校もいずれも官立で修業年限はすべて高等科のみの三年であった。それが旧制中学の充実とともに、その卒業生の進学を受容する上級学校が不足してきたため、大正七年の改革となったのである。

 その結果、旧制高校は官立に限定されることなく、公立、私立にも開放されると同時に、七年制高等学校が誕生したのである。七年制高等学校というのは高等科の三年と旧制中学の四年を一貫させたもので、最近話題の中高一貫教育の旧版ともいえる。

 ≪旧一貫校はお坊ちゃん校≫

 しかし、旧制高校といえば、既に全寮制度とバンカラの独特の文化を形成していたので、大正中期の新設七年制高校は、官立一校(東京)、公立三校(富山、浪速=大阪府、府立=東京府)、私立四校(武蔵、甲南、成蹊、成城)のみにとどまった。結局、これらの新設校に共通してみられることは、(1)富山を除いては東京、大阪、神戸の大都会に偏在(2)旧制高校三年が基軸になって、それに旧制中学四年が加わって七年制を構成-ということである。

 言い換えれば、七年制高等学校は、大都会の裕福な家庭の子弟、いわゆる“お坊ちゃん”に上級学校進学の易しい道を開くためのものであったともいえる。浪人までして、悪戦苦闘の末、官立の旧制高校に入らなくても、旧制中学の四年修了で高校に進学し、そのまま帝大に進み得る道を開いたのである。

 ここで富山が独特であったことにも注意しておきたい。富山高校は大正十二年に、最初、公立(県立)の七年制高等学校として、資産家の寄付によって設立されたもので、昭和十八年になって官立に移管された。

 明治時代に設立されたナンバー・スクールの場合、設立費用は約十万円であったが、大正初期から中期にかけて設立された地名スクールは、設立に約五十万円がかかっている。そうした中で、富山では一資産家が百万円をポンと寄付したのである。富山であるから、さては製薬会社の資産家ではと思われそうだが、それが何と北前船による回船問屋経営の齢(よわい)三十八歳の未亡人、馬場はる女史であった。女史は子息の受験勉強の苛烈(かれつ)さを傍らで見ていられず、時あたかも昭和天皇(当時皇太子)ご成婚の慶事に当たり、受験競争の緩和に役立てればと、寄付したのであった。開校後も約五十万円の寄付を続けた。

 前述の中部地方の有力三社が共同すれば、これに値する位の資金援助と素晴らしい設備の建設は可能であろう。

 ≪なぜ復活させぬ旧制高校≫

 しかし、私が不思議に思うのは、なぜ国が乗り出して国立の高校(要するに旧制高校)を復活させないのかということである。新しく構想されている中高一貫制でも、高校部分が旧制高校のような一般教養(古典の読書と思索)を軽視して、IT(情報技術)などの技術教育に傾斜すれば、ロボットコンテストに明け暮れる技術的な専門学校と変わりがなくなってしまう。

 『論語』研究の専門家、加地伸行氏が六月十八日付本欄で書いていらしたように、「育成すべきは知識人ではなく教養人」である。台湾の前総統、李登輝氏は旧制台北高校の出身で、日本の旧制高校の素晴らしさを懐古しているが、その近著に刺激されて、私も改めて『出家とその弟子』(倉田百三著)を再読したが、こういう感動の書を読むのが高校時代でなければならない。(つじむら あきら)
by sakura4987 | 2006-06-20 17:05

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