◆伊勢のヒロイン、女神も祝福
平成16年9月5日(日)産経新聞
【学習院長・田島義博の子育て改革】
アテネ五輪女子マラソンで優勝した野口みずき選手は、両親から贈られた伊勢神宮のお守りを身につけていたそうです。ゴール直後の野口選手は「すごくうれしいです。応援感謝します」と語っていましたが、その「感謝」の中には「神様」も入っていたのではないでしょうか。
それは人間の限界に挑戦して勝利した者のみが感じ得る「サムシング・グレート」であったかもしれません。
皇室の祖先神、天照大神(あまてらすおおみかみ)を祭る伊勢神宮がある三重県伊勢市は野口選手の地元です。私も今年四月、お参りしてきましたが、宮域にそびえる巨木に圧倒される思いでした。さらに五十鈴川に沿って下ると日の出の名所、二見浦があります。
日本書紀には「是の神風の伊勢國は、常世(とこよ)の浪の重浪歸(しきなみよ)する國なり」と天照大神が託宣を下したとあります。
海の向こうの不老不死の国から幸せを運ぶ波が次々と打ち寄せる伊勢の国。その水平線のかなたから昇る太陽-天照大神は太陽を神格化した存在-は五十鈴川を通って神々しい巨木の森に至る。
こういう所に神話が生まれるのもむべなるかなと、納得させられる思いでした。いつの世も、人は偉大な自然の前に立つと、人間の力を超えた大きな存在を感じるものだと言い換えてもいいかもしれません。
そして子供たちの中にそんな存在を恐れ、畏(かしこ)む気持ちをはぐくむことが必要なのではないかと、私は考えています。
ローマ神話の勝利の女神「ビクトリア」はギリシャ神話では「ニケ」になります。日本の神話の国、伊勢が生んだ女性アスリートがギリシャの勝利の女神に祝福された。そんな思いにひたった野口選手の勝利でした。