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◆「潜在主権」の確認から切り込めばプーチン在任中に北方四島は取り戻せる


佐藤 優 (起訴休職外務事務官)


●≪国交回復だけを先行させた日ソ共同宣言 ≫

 歯舞(はぼまい)群島、色丹(しこたん)島、国後(くなしり)島、択捉(えとろふ)島はわが国固有の領土である。

 その理由は簡単で、一九四五年(昭和二〇年)八月に、ソ連が当時有効だった日ソ中立条約を侵犯して占領するまで、北方四島は日本によって合法的に統治されていたからだ。

 実は南樺太(サハリン)と千島列島(ウルップ島からシュムシュ島までの一八島)も国際条約によって日本領になったので、わが国固有の領土と言ってよいのであるが、日本政府は一九五一年にサンフランシスコ平和条約でアメリカ、イギリスなどと国交を回復した際に南樺太と千島列島を放棄してしまった。

 筋論から言えば、この妥協は間違いだが、当時、日本の国力は弱かった。東西冷戦構造下で日本国家が生き残るために西側陣営との国交正常化を急ぐという政府の判断は、歴史に照らせば間違いではない。

 ソ連はサンフランシスコ平和条約に署名しなかった。したがって、日本とソ連の国交正常化は二国間交渉で行われることになった。

 通常、平和条約を締結するためには、戦争状態の終結、外交関係の回復などについて定めるとともに、領土・国境問題がある場合には、それについても解決することが明記される。

 日ソ間で平和条約が締結されなかったのは、領土問題について双方の見解が一致しなかったからだ。

 そこで国交回復だけを先行させる日ソ共同宣言が一九五六年一〇月に締結された。

 日ソ共同宣言は「宣言」という名称であるが、両国国会で批准された法的拘束力をもつ条約だ。北方領土問題がらみでは、第九項で合意した以下の文言がとりわけ重要だ。

 「日本国及びソ連邦は、両国間に正常な外交関係が回復された後、平和条約の締結に関する交渉を継続することに同意する。

 ソ連邦は、日本国の要望にこたえかつ日本国の利益を考慮して、歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する。

 ただしこれらの諸島は、日本国とソ連邦との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする。」


●≪日本は歯舞・色丹の潜在主権を確認できる ≫

 領土は日本国家の原理原則問題だ。日本の立場としては四島に対する日本の主権(もしくは潜在主権)が確認されないかぎり、平和条約は締結できない。

 日ソ共同宣言では、平和条約締結後に歯舞群島と色丹島を「引き渡す」ことしか合意されていない。

 日本の主権を確認し、領土を返還するという論理構成ではなく、ソ連が日本に贈与するとの説明が可能になる「引き渡し」という言葉が用いられている。

 日本としては満足できる内容ではなかったが、当時のわが国の国力ではここで妥協する以外の方策がなかったのだ。

 日ソ共同宣言の文言は、平和条約が締結されれば歯舞群島、色丹島は日本に引き渡されるのだから、日本の立場からすれば、これら二島の潜在主権は日本にあると解することができる。

 一九九一年にソ連は崩壊したが、ロシアは旧ソ連の法的継承国なので、日ソ共同宣言の約束は今も有効だ。日ソ共同宣言を足掛かりにして、いかにして北方四島返還に結びつけていくかというのが外交上の知恵なのだ。

 なお、潜在主権については沖縄の例が参考になる。

 先に述べたように、日本とアメリカの戦争状態は一九五一年のサンフランシスコ平和条約で終結した。しかし、沖縄は米国の施政権下に置かれた。

 通貨として米ドルが用いられ、裁判権も米国がもった。だが、沖縄が米国領になったのではない。この状況を日米両国は、沖縄は米国の施政権下に置かれているが、潜在主権は日本にあると整理した。この知恵が北方領土交渉にも応用できる。


●≪四島の日本帰属を曖昧にした東京宣言の限界 ≫

 さて、小泉政権登場後、日本外務省の一部に「東京宣言至上主義」という病理現象が生まれている。

 一九九三年一〇月の東京宣言は、領土問題が四島の帰属を巡る係争であるという土俵を定めた点では重要だが、平和条約締結により北方四島がどの国に帰属するかについては何も規定していない。関連箇所を正確に引用しておく。

 「日本国総理大臣およびロシア連邦大統領は、両国関係における困難な過去の遺産は克服されなければならないとの認識を共有し、択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島の帰属に関する問題について真剣な交渉を行った。

 双方は、この問題を歴史的・法的事実に立脚し、両国の間で合意の上作成された諸文書及び法と正義の原則を基礎として解決することにより平和条約を早期に締結するよう交渉を継続し、もって両国間の関係を完全に正常化することに同意する。」

 日本の立場からすれば、帰属問題の解決は北方四島の日本への帰属を解決することだ。しかし、東京宣言の文言からは四島の帰属について五通り(日4露0、日3露1、日2露2、日1露3、日0露4)の可能性を読むことができる。

 日本としては、日ソ共同宣言で歯舞群島、色丹島のわが国の潜在主権が認められているとの解釈を強く打ち出し、東京宣言に「択捉島、国後島の二島の帰属問題を解決し、平和条約を締結する」との内容を盛り込むように粘り腰で交渉すべきだった。

 歯舞群島、色丹島の帰属問題があたかも未定であるがごとき文言を東京宣言に残したのは、日本の大きな譲歩なのだ。


●≪現実的北方四島返還のための二つの道 ≫

 ここで重要になるのが二〇〇一年三月に森喜朗前総理とプーチン露大統領が署名したイルクーツク声明だ。

 ここでは一九五六年の日ソ共同宣言と一九九三年の東京宣言の双方に基づいて、「平和条約に関する更なる交渉」が行われることが明記されている。北方領土交渉で日本にとって有利な要素がイルクーツク声明にすべて盛り込まれているのである。

 北方領土交渉は過去四年間に閉塞状況に陥ってしまったが、イルクーツク声明から再度仕切り直せば光は見えてくる。

 ロシアでは領土問題の解決は国家元首にしかできない。これは帝政ロシア、共産ソ連、現下ロシアを貫く国柄だ。

 プーチン大統領以外に北方領土問題の突破口を拓くことができる人物はいない。小泉総理がプーチンと真剣勝負をすれば、北方領土を取り戻すことができる。

 その場合、まず外務官僚が北方領土交渉の真実を総理に説明しなくてはならない。

 特に「東京宣言至上主義」では、「四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結することで双方は合意した」が、実際に島がどちらのものになるかわからないという状況が延々と続いてしまう。

 この不毛な状況に終止符を打つための知恵を、日本側から出していくことだ。小泉総理が自分の頭で戦略を組み立てれば、北方領土問題は動く。現実的北方四島返還論として考えられるのは以下の二つだ。

 一つは沖縄方式だ。まず北方四島に対する日本の潜在主権を確認し、平和条約を締結する。しかし、北方四島に対する施政権はロシアがもつ。そして、時間をかけて日本が施政権を取り戻す。

 もう一つは、車の両輪論だ。日ソ共同宣言で平和条約締結後に日本への引き渡しが約束されている歯舞群島と色丹島については、返還の時期や、返還後のロシア人に対する処遇についての具体的な協議をする。

 まだどちらに帰属するかが明らかになってない国後島、択捉島については日本の主権(もしくは潜在主権)を求める協議をする。この二つの協議を車の両輪のように進めていく。

 日露の反テロ協力、北方四島周辺水域での漁業、知床と国後島の環境や景観の共同保全、そしてサハリン北東部大陸棚の石油・天然ガス資源をパイプラインで北海道と結ぶ事業について、小泉総理とプーチン大統領が戦略的意義を本気で認めるならば、北方四島をプーチン大統領の任期中に取り戻すことも現実性をもつ。
by sakura4987 | 2006-06-23 11:17

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