◆靖国論争 安倍氏も土俵にあがれ
自民党総裁選の告示まであと1カ月。ポスト小泉に意欲を示す候補者の間で、靖国神社のあり方や首相の参拝をめぐる立場の違いがくっきりしてきた。
麻生太郎外相が「私見」を発表した。宗教法人としての靖国神社に自ら解散してもらい、特殊法人にして国立の追悼施設に衣替えするという。
国が関与するには、政教分離の原則から宗教色をぬぐい去らねばならないが、どのように儀式などを変えるのか、合祀(ごうし)されているA級戦犯をどう扱うのか、そもそも神社側が解散に応じるのかなど、大事なところで疑問は少なくない。
結局、戦没者を追悼する場はあくまで靖国であるべきだとし、しかし天皇や首相を含めてだれもが支障なくお参りできるよう抜本的に組織を組み替えるというのがポイントだ。
それが実現されるまでは、首相や閣僚として参拝はしない考えのようだ。
その意味では、谷垣禎一財務相がA級戦犯の分祀を期待し、当面は参拝を控えると明言したのと通じるところがある。首相の参拝を凍結する、一種のモラトリアムと言えるかもしれない。
谷垣氏の理由は明快だ。小泉首相が中国や韓国と首脳会談ができない現状は異常だとし、まずは近隣国との関係を修復するのを優先すべきだと主張している。
さすがに小泉政権で外交の責任者をつとめる麻生氏としては、外交の行き詰まりを認めるわけにはいかないのだろう。慎重に言葉を選び、靖国をながらえさせるため、天皇が参拝できるようにするためなどと理由を語っている。
だが、首相らが参拝するには、いまの靖国神社のあり方では問題が多いと麻生氏が考えているのは間違いなかろう。
私たちはこの問題で「総裁候補は明確に考えを語れ」と求めてきた。小泉時代にこじれにこじれ、政治や外交の焦点になってしまった靖国問題をどう解きほぐすか。ポスト小泉の総裁候補が逃げるわけにはいかない論点だと考えるからだ。
麻生、谷垣両氏が所信を語ったのは、その点で歓迎したい。問題は、打開策に実現性があるのかどうかということだ。
特殊法人化論は、30年以上も前に論議され、結局は葬られた国家護持法案と似た考え方だ。政教分離をどう確保するかは難しい問題だし、神社側が宗教色を抜く決断をできるとも考えにくい。
分祀論にしても、神社側は「教義上、できない」と突っぱね続けている。
結局、政治が自らの決断でできる打開策としては、新たな国立追悼施設をつくることしかないのではないか。
一方、最有力候補の安倍晋三官房長官は、4月にひそかに参拝していたことが明らかになった。本人は「言うつもりはない」と口を閉ざすが、首相になっても参拝を続けるだろうとの観測が専らだ。
このまま黙して語らずで逃げ切ろうということなのか。麻生氏と谷垣氏がつくった土俵に安倍氏もあがり、堂々と四つに組んだ論戦に臨むべきだ。