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◆【詳説・戦後】第2回 「靖国」…百家争鳴 追悼あり方めぐり(4-3) (産経 06/8/11)


 約6000もの戦没者の遺影が展示されている靖国神社の軍事博物館「遊就館」。来館者が記入した感想ノートには、戦争の悲惨さを実感し、感動したという意見と、戦争を美化しているとする意見の双方が書き込まれている(撮影・飯田英男)


【遊就館行ってみた】

 ■戦争美化 感ぜず

 明治15年にわが国最初の軍事博物館として開館し、戦前は陸軍省管轄の国立施設だった遊就館。現在は靖国神社が運営しているが、中国や韓国からは「日本軍国主義を美化している」と批判を浴びせられている。果たしてその言い分は当たっているのか。実際に遊就館に行って確かめてみた。(比護義則)

 玄関ホールに足を踏み入れると、全長9メートルの旧日本軍「零式艦上戦闘機(零戦)」が目に飛び込んでくる。実際に戦闘で使われた複数の零戦の部品を集めて組み立てたものだ。同館は約3000点の兵器や遺品を展示しているが、遺族による遺品提供が続いているため、今では所蔵品が10万点を突破した。

 遊就館のパンフレットを読むと、展示目的は「戦没者顕彰」と「近代史の真実の明示」。

 館名は中国の古典「荀子」の「遊必就士」(高潔な人に就いて交わり学ぶ)から2文字を取った。

 展示は、「明治維新」「日清戦争」「日露戦争」など時代ごとに部屋が分かれ、カラフルな年表やビデオ映像がふんだんに使われている。学校の授業では断片的にしか教えられない近現代史を学び直すのにもよさそうだ。実際、遊就館は今年、都内の公立小中学校に宣伝ポスターを初めて配布するなど歴史教育に力を入れているという。

 「戦後の一時期、皇族妃殿下方が神社に出向かれ、合祀(ごうし)される戦没者の霊爾簿浄書の御奉仕をされた」などと、皇室と靖国神社の深いつながりを示す一文もある。

 焦点の「大東亜戦争」に関係する展示室は5つ。「マレー作戦」「ビルマ作戦」…。作戦の内容をパネルを使って詳しく説明している。

 日中戦争については、「支那事変」という一室があった。「南支作戦」「武漢攻略作戦」「北支作戦」など個別の作戦について地図などを使って説明していたが、中国や韓国が戦争美化だと批判するような展示は見当たらなかった。

 一方、「ルーズベルトの大戦略」と題されたパネルは、先の大戦での米国の戦略は「資源に乏しい日本を禁輸で追い詰め開戦を強要することであった。そして、参戦によってアメリカ経済は完全に復興した」と説明している。一つの見方に偏ってはいるかもしれないが、軍国主義や戦争を美化したと断言できるほどのものではないだろう。

 近代史の展示を見終えると最後に「靖国の神々」と題する展示室が控えている。靖国神社に祭られた戦没者の顔写真が遺族の希望で約6000枚も並べてある。いわゆるA級戦犯として処刑された東条英機元首相の顔も見つけることができた。

 ここでは、戦死した特攻隊員が家族にあてた手紙などの“遺品”の前で足を止め、長く見入る拝観者が目立つ。静かに涙を流す人も珍しくない。戦死者の母親が独身で逝った息子に贈った「花嫁人形」の展示もあり、じっくり見て回れば半日はかかる。ただ、A級戦犯を説明する展示は全くない。年表に「戦犯裁判開始」「極東国際軍事裁判の開廷」と記載があるぐらいだった。靖国神社のA級戦犯合祀が問題とされているだけに、A級戦犯に対する考え方を説明する展示があってもいいだろう。

                   ◇

【A級戦犯合祀】


 ■神社側「分祀不可能」

 靖国神社は平成16年4月の社報で、中曽根康弘元首相が主張する「A級戦犯分祀論」について「神道の信仰上、このような分祀はありえない」として、不可能との見解を示した。さらに、すべてのA級戦犯遺族が中曽根案に賛成しても、従うことはできないとの考えを明らかにしている。

 神道上、一座に祭られて混然一体となった神霊を「分霊」(コピー)することはできても、分離することはできない。仮に政府が一宗教法人である靖国神社に対し、「分離」を強制すれば、憲法20条が定める政教分離原則に違反することになる。

 靖国神社の場合、合祀は祭神対象の名前を和紙に記し、そこに魂を呼び寄せる招魂式を境内で行い「霊爾簿」を作成する。さらに霊爾簿を本殿に移して合祀。御霊として本殿に祭ることで、A級戦犯とほかの戦没者の御霊が一つの「座」に祭られている。「魂の抜けた」後の霊爾簿は、本殿とは別の奉安殿に保管される。

 また、「分祀」は「分霊」に伴う具体的な行為のことで、ある神社の御霊が集まった鎮座を、“コピー”して別の神社にも増やす祭祀を意味する。

 A級戦犯の御霊は、砂粒のように分離可能な状態ではなく、「他の御霊と合わさり、一つの炎になったイメージ」(靖国神社)だという。


 ■「中韓外交への妨げ」 分祀論者

 A級戦犯「分祀論」は、これまでにも中曽根康弘元首相や自民党の野中広務元幹事長、山崎拓元副総裁らが提唱し、靖国神社側に働きかけては断られてきた。「分祀論」が何度も浮上するのはなぜなのか。

 最も大きな理由は、極東国際軍事裁判(東京裁判)によって戦争責任者と認定されたA級戦犯が靖国神社に祭られていることが、中国、韓国などとの外交上の妨げになるという認識からだ。実際、中韓両国は、小泉純一郎首相の靖国神社参拝を批判し、日本との首脳会談を拒否している。

 今年3月、日中友好7団体が中国の胡錦濤国家主席と会談した際にも、胡主席は首相の参拝中止を条件に首脳会談に応じる考えを示した。韓国の盧武鉉大統領も、首相の参拝中止がない限り、会談を再開する意思のないことを明確にしている。

 中国は、昭和47年の日中国交正常化に際して、国内の反対論を「日中戦争は一部の戦争指導者が悪いのであり、日本人民も被害者だ」と説得した経緯もある。対外的な配慮を前面に出さずに、「赤紙一枚で召集された人と、(東条英機元首相ら)戦争指導者は違う」という論理を展開するのが、自民党の古賀誠元幹事長や民主党の小沢一郎代表らだ。「東京裁判以前に、一国の指導者として(先の大戦に対する)結果責任はある」(古賀氏)として、政権中枢にあった政治家や軍人の敗戦責任は問うべきだとする意見もある。


 ■厚生省協力指示 宮内庁にも上奏簿提出

 政府は昭和28年以降、遺族援護法、恩給法など関係法を改正して戦犯処刑者を「公務死者」と位置づけ、戦犯の遺族にも一般戦死者と同様に遺族年金や弔慰金が支給されるようにした。

 一方、厚生省(現厚生労働省)は31年、援護局長名で「靖国神社合祀事務に対する協力について」との通知を各都道府県に出し、靖国の合祀事務への協力を指示。厚生省は都道府県から集まる名簿を「御祭神名票」(戦没者身分等調査票)として靖国側に送り、靖国はこれに基づき合祀を行っていった。

 靖国が53年に14人のA級戦犯を合祀したのも、41年に届いた御祭神名票に基づくものだ。この間の事情について靖国関係者は「だれを合祀するかは靖国が決めることではなく、官民一体で合祀したことだ。A級戦犯だけ合祀しなかったら、手続き上おかしい」と語る。

 また、合祀に当たっては、新たに祭る人を紙に記した「霊爾簿(れいじぼ)」と同じものを「上奏簿」として宮内庁に届けている。関係者は「だから、宮内庁もそのときに誰が祭られるか知っていて、何も言わなかったのではないか」との疑問を示す。

 昭和天皇の発言だとされる富田朝彦元宮内庁長官のメモには、「筑波は慎重に対処してくれたと聞いたが」「松平の子の今の宮司がどう考えたのか 易々と」とある。

 ただ、靖国神社前宮司の湯澤貞氏によると、筑波藤麿元宮司も靖国神社崇敬者総代会に何度かA級戦犯合祀を諮っている。

 45年の議事録には、筑波氏が「合祀はするが、時期は宮司預かりとする」と述べた記録が出ているという。その流れの中で、次の松平永芳元宮司が再び総代会に諮り、A級戦犯は合祀された。

                   ◇

【合祀された14人のA級戦犯】

東条英機(首相、陸軍大将、絞首刑)

板垣征四郎(陸軍大将、同)

土肥原賢二(同)

松井石根(同)

木村兵太郎(同)

武藤章(陸軍中将、絞首刑)

広田弘毅(首相、同)

小磯国昭(首相、陸軍大将、服役中死亡)

白鳥敏夫(駐イタリア大使、同)

梅津美治郎(陸軍大将、同)

平沼騏一郎(首相、保釈直後死亡)

東郷茂徳(外相、服役中死亡)

松岡洋右(外相、拘禁中死亡)

永野修身(海相、海軍大将、同)

                   ◇

【用語解説】A級戦犯

 A、B、Cの区別は罪の重さによるランク付けではなく、連合国軍総司令部(GHQ)が戦犯を選定する際に用いた便宜的な犯罪のカテゴリーを示す。Aは侵略戦争を遂行した「平和に対する罪」、Bは戦争法規・慣例に違反した「(通常の)戦争犯罪」、Cは民間人に対する迫害や殲滅(せんめつ)を実行した「人道に対する罪」-という区分けだが、明確な法的根拠はなく、「A級戦犯」という呼称は「通称」にすぎない。



◆【詳説・戦後】第2回 「靖国」…百家争鳴 追悼あり方めぐり(4-4)

 (産経 06/8/11)

人間魚雷「回天(一型)」などが展示されている靖国神社・遊就館の大展示室=東京・九段北 (撮影・飯田英男)


湯澤貞・靖国神社前宮司

【靖国Q&A】祭神名簿 データベース化

 靖国神社に関する基礎知識をQ&Aでまとめた。

 Q 神社の由来は

 A 明治維新時の新政府軍と旧幕府軍による戊辰戦争で亡くなった官軍兵士を祭るため、明治政府が明治2年に「東京招魂社」として東京・九段に建てたのが始まり。その10年後に明治天皇が国を平安にするという意味の「靖国神社」の社号に改めた。

 Q 祭られているのは

 A 戊辰戦争戦死者をはじめ、西南戦争、日清戦争、日露戦争、第二次世界大戦など、幕末と明治・大正・昭和の各時代に戦争で亡くなった軍人・軍属など246万6000余柱が合祀されている。生前の階級などにかかわらず、将官も兵卒も同じように扱われている。

 靖国神社は墓地ではないため、遺骨も位牌(いはい)も存在しない。祭神名簿はパソコンのデータベースで管理され、合祀されているかどうか遺族が神社に照会することもできる。

 Q 日露戦争で活躍した東郷平八郎元帥は祭られているの

 A 戦闘で亡くなったのではなく戦後、病気で亡くなったため祭られていない。明治天皇崩御の際、自決した乃木希典大将も同様だ。明治維新の立役者で、西南戦争で官軍と戦った西郷隆盛や会津白虎隊の藩士らは「賊軍」扱いをされているため、祭られていない。

 また、沖縄戦で没した「ひめゆり部隊」の女学生や、撃沈された疎開船「対馬丸」の児童は合祀されているが、空襲や原爆の被害者である一般人は除外されている。政府や軍の命令に従っていて、その場を離れることができなかったことが、合祀の基準のようだ。

 Q ほかに祭られているのは

 A 境内には、本殿に祭ることのできない氏名不詳の戦没者と、世界中で起きた戦争で亡くなったすべての人を祭る「鎮霊社」がある。イラク戦争で亡くなった米軍兵士らも対象だ。また、戦場で倒れた軍馬や軍犬、通信用の伝書バトの慰霊像もある。

 Q 首相の参拝は「憲法違反」なのか

 A 小泉純一郎首相が平成13年から毎年続けている参拝に対し、政教分離を定めた憲法に違反するとして、大阪や福岡など各地で提訴が相次いでいる。

 これまで最高裁、高裁、地裁で計13件の判決と、最高裁決定2件があった。うち参拝を「違憲」と判断したのは福岡地裁と大阪高裁の2判決だけ。これは主文と無関係の「傍論」の中での判断であり、拘束力はない。日韓の戦没者遺族が提訴した今年6月の最高裁判決では、原告の上告が棄却され、憲法判断はなされていない。

 Q 神社の組織は

 A 9代目の南部利昭宮司以下、職員は約100人。うち神職は約40人、巫女(みこ)約10人。その他の職員が約50人。巫女は大学などに求人票を出して募集している。運営費は戦没者遺族や戦友などからの奉納金、遊就館の拝観料などでまかなっている。

 Q 神社の主な行事は

 A 神社が重視しているのは春と秋にそれぞれ開かれる「例大祭」だ。祭神の安らかな鎮まりと世界の平和を祈る祭典で、前者が4月21~23日、後者が10月17~20日。天皇陛下の使いが神社にさしむけられ、皇族方も参拝されている。

 また、元日の新年祭、2月11日の建国記念祭、昭和天皇の誕生日である4月29日の昭和祭、靖国神社が建てられた6月29日の創立記念祭、明治天皇の誕生日である11月3日の明治祭、今上天皇の誕生日である12月23日の天皇御誕辰奉祝祭など皇室にゆかりのある祭りが多い。

 このほか、毎月3回行う「月次祭」をはじめ、神様にお食事を供える祭事は毎日朝夕、行われている。

 Q 結婚式はできるの

 A できる。年間数組のカップルが挙式を行っている。七五三の参拝もできる。いずれも申し込めば原則的にだれでも挙げることが可能だが、戦没者の遺族が行うケースが多い。平成14年には音楽プロデューサー、小室哲哉さんとglobeのボーカル、KEIKOさんも同神社で結婚式を行った。

                   ◇

【靖国神社前宮司 湯澤貞氏】

 ■分祀強要は“宗教弾圧”

 靖国神社前宮司の湯澤貞氏は10日までに産経新聞のインタビューに応じ、一宗教法人である靖国の祭祀のあり方について、政治家が過度に干渉するのは憲法の定める政教分離の原則に違反するほか、行き過ぎると“宗教弾圧”になるとの見解を示した。また、一部政治家が唱える靖国の「国家護持案」について「それが非宗教化をいうのであれば、できない相談だ」と否定した。

 --昭和天皇が靖国のA級戦犯合祀をきっかけに参拝をやめたとする元宮内庁長官のメモが出てきたが

 「こういう内々の話が世間に出ていいものか。昭和天皇は相撲好きで知られたが、ご自分のひいきの力士の名前すら明かされなかった。また、松平永芳元宮司が悪者になっているが、そんな人物ではない。松平元宮司のお父さんで最後の宮内大臣だった慶民氏も日記を残していたが、『こういうものは公にすべきではない』と処分している」

 --メモを追い風に、A級戦犯分祀論が高まりを見せている

 「靖国神社の場合は、246万余柱の英霊全体が、大将も一兵卒もなく一つの神になっている。靖国では毎日、神様に慰霊の誠を尽くしており、その一部を取り外すなどの例はこれまでにないし、できない」

 --一部の政治家からは、「神道はもっと融通無碍(むげ)だからできるはずだ」との声も出ている

 「それは弾圧して神道をつぶせばできる、ということだ。仏教の寺院から本尊を外せというようなもので、ありえない。もしそれを政治が強要するとなると、宗教弾圧になる。第一、政教分離の原則を定めた憲法上、できないはずだ。首相が靖国に参拝するだけで『政教分離に反する』と騒ぐ人が、一方で宗教の内部にまで踏み込んでA級戦犯を外せというのは、僭越(せんえつ)すぎる。人として言うべきことではないだろう」

 --日本遺族会の中でも、秋以降、分祀論が議論されるという

 「たとえ遺族会の中に、靖国神社のあり方に賛成してくれる人がいなくなっても、神社としては粛々として現状のままでいく。それだけの覚悟をしてやっていかなければならない」

 --靖国を非宗教化して国家で護持すべきだとする政治家もいる

 「非宗教化でいこうというのなら、受け入れることはできない。はじめからできない相談だ。非宗教ならば、戦没者は御霊ではなくなってしまい、戦没者に対しても失礼な話だ。今まで神様として丁重に祭られてきたのに、物のように扱われることになる。靖国神社という名前が残り、社のたたずまいが今のような形で残り、神道に基づくお祭りができるならば、国家護持でもいい。一宗教法人が国のために亡くなった方をお祭りするのは、考え方によっては出すぎたことだろう」

 --今日のように靖国問題が深刻化した原因は何だと考えるか

 「首相の靖国参拝が外国から外交カードに利用された時点で、国がきちんと対応して『日本の国内問題だ』と言っておくべきだった。それを日本人的になあなあで妥協してきたから、こうなったのではないか。中国共産党は原則的に宗教を認めておらず、神道のことなど知らない。知らずにA級戦犯がどうこうと言っているのに対し、日本があたふたするから、向こうも外交カードとして使えるぞと考える」

                   ◇

【プロフィル】湯澤貞

 ゆざわ・ただし 昭和4年、栃木県生まれ。国学院大文学部宗教学科を卒業し、明治神宮に32年間奉職。平成2年に靖国神社に移り、同9年5月から16年9月まで宮司を務める。
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by sakura4987 | 2006-08-12 15:19

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