◆【正論】鳥取環境大学名誉学長・加藤尚武 石油、金属、食糧は並行して枯渇する
(産経 07/1/12)
■食糧のエネルギー資源転用を侮るな
≪増加する金属泥棒≫
最近のニュースでは、世界中で金属ドロボーが発生している。
銅や亜鉛、ニッケルが盗まれる事件がフランスをはじめ欧州各地で頻発している。教会の亜鉛板の屋根をはぎ取ったドロボーが現れた。
英国では、アルミニウム製のビールだるや鋼鉄製のマンホールのふたの盗難が急増して、ふたが盗まれたマンホールに子供が落ちてけがをする事故も起きた。
ブルガリアでレールや架線の盗難が頻発して、鉄道建設事業が滞っていると伝えた。日本では高圧線の銅線が盗まれるという事件も起こっている。
世界的な金属の値上がりの原因は、中国、インド、ブラジルの経済開発が盛んになっているためだといわれる。しかし、一時的な現象では終わらないかもしれない。
金属の枯渇が燃料の枯渇よりも早く到来するという予測は、現在国連大学の副学長をしている安井至氏が東京大学生産技術研究所教授だったときに、すでに示している。
「エネルギー資源と鉱物・金属資源がもっとも異なるのは、代替可能性である。エネルギー資源の場合には、確かに石油・天然ガスといった順序で枯渇の可能性が高いが、実際には、より使いにくく高価な他のエネルギー資源に供給源が移動し、それにしたがって、石油・天然ガスも採掘コストの高いところの資源へと対象が移るだけである。
したがって、石油・天然ガスも、枯渇状況になった後でも、他の化石燃料が完全に枯渇するまで細々と生産が継続するものと思われる」(安井至『21世紀の環境予測と対策』丸善、2000年)
主要な金属の地球上の枯渇年限は、銀19年▽金20年▽鉛24年▽亜鉛26年▽銅30年▽マンガン30年▽スズ37年▽ニッケル40年▽水銀48年▽鉄71年-というデータが資源・素材学会資源経済部門委員会編『世界鉱物資源データブック』(オーム社、1998年)に記載されている。
≪穀物相場の高騰も≫
金属と石油の値上がりと並んで穀物相場の高騰も伝えられている。
世界の穀物相場の指標である米シカゴ商品取引所の主要穀物価格は軒並み急騰。
米農務省(USDA)が2006年10月に発表した世界の穀物等需給動向によると、2006~07年度の世界の穀物生産量は19億6735万トンだそうである。
世界の総人口を65億人と想定すると、1人当たりでは303キログラムになる。1984年の1人当たり342キログラムという数字が地球の歴史上最大の1人当たり穀物産出量になってしまうかもしれない。
穀物の値上がりには天候上の理由もあるが、無視できないのは、食料品の一部が燃料に使われはじめたということである。
菜種を例に取ると、世界の総生産量は約4800万トン(05年)。欧州連合(EU)は03年の政令で植物油を原料とするバイオディーゼルの利用を促しており、05年は菜種油の食用と燃料用がほぼ均衡した。
アメリカでも菜種需要に占める燃料の割合が、1984年で10%程度であったのに最近では30%になっている。2010年にはEUのバイオディーゼル利用だけで4400万トン分の菜種が必要になるとの見通しもある。
≪食糧とエネルギー≫
資源についての現在の世界の状況は、次のように要約できる。
(1)金属の枯渇が燃料の枯渇よりも早く到来する。
(2)金属を再生利用するのでますますエネルギー資源が不足する。
(3)自然エネルギーの開発が叫ばれているが、食糧がエネルギー資源に転用されると、食糧不足になる。
(4)遺伝子組み換え植物の利用が不可避になる。
食糧問題とエネルギー問題のつながりがはっきりと見えてきたというのが2006年の特徴ではないだろうか。
日本は食料の自給率が低い(40%)国であるが、食糧の確保のためのシナリオに、エネルギー資源に転用される割合を組み込んでおかないと、とんでもないことになりかねない。
資源問題の長期的な計画を、数字の上できびしい方向に修正することが避けられない。
1人当たり穀物生産の歴史上のピークが1984年であったように、埋蔵石油の年間新発見の最近のピークが1964年で、今後それを超える新発見はないだろうという予言が的中する可能性がますます高くなってきている。
年間の石油産出量のピークも、2015年前後になる可能性が高い。総合的な対策が急務である。