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◆経済と倫理は一体 (世界日報 07/1/27)



上武大学教授 菅野英機氏に聞く


≪■日本的資本主義の再生を≫

 近年、経済のグローバル化が進み、あらゆる分野に競争原理が導入されるに伴い、金銭を唯一の価値とするような風潮が広がっている。しかし本来、資本主義は倫理的な裏付けがあったからこそ発展してきた。

 民俗経済学を提唱し、経済と倫理のかかわりを研究している菅野英機・上武大学教授に、日本経済のあるべき姿を聞いた。


≪■限界ある「私益」追求/共同体に包まれた個人≫

○――――○

 すがの・ひでき 昭和17(1942)年生まれ。国学院大学大学院経済学研究科博士課程修了。天理大学、秋田経済法科大学、新潟産業大学などを経て現在、上武大学教授。日本民俗経済学会理事長。専攻は理論経済学。主著は『新ケインズ派の経済学』『民俗経済学への招待〓フォークロア・エコノミーをめざして』『おもしろ秋田人考』『文化とレジャーの経済学』『ポスト・ケインズ派の経済成長論』『韓国経済の半世紀』(監訳)など。


 ――日本社会に「カネがすべて」という風潮が蔓延(まんえん)している。

 勤勉や節約、正直、家族愛、忠誠心などは、つい近年まで日本人の特性と見られていた。それが失われたのは高度経済成長のころからだろう。

 資本主義の祖とされるアダム・スミスは、『国富論』と共に『道徳情操論』を著している。十八世紀後半にイギリスにおいて産業革命が始まると、酪農中心の農業経済から織物産業中心の工業杜会へと急速に変貌(へんぼう)した。

 それに伴って封建社会が崩壊し、市民社会が到来する。新しい市場経済の理念と時代精神を示したスミスの思想は、市場万能主義やエゴイズムの容認と思われがちだが、同時に倫理も強調した。

 スミスの主張する市民社会は、封建社会における地主と農夫に代わって、資本家と労働者を中心に営まれる市場経済の社会で、白由で平等な自立した個人によって構成され、各人が自己の利益を追い求めることが可能である。

 スミスは、利己心の発揮が社会を発展させる原動力だと見ていた。利己心を発揮できない北朝鮮のような社会主義国は発展から取り残される。

 スミスは、競争的で自由な市場では、各人が自己の境遇を改善しようとする努力が「神の見えざる手」に導かれて、社会全体の厚生の増加をもたらすと見ていた。しかし、同時にスミスは共同体の重要性も認識していた。

 市場で売買する人と人の間接的な関係は、市場を取り巻く家族や地域社会、国家などのコミュニティーにおける直接的な人々の結び付きによって支えられ、またそこから生まれる倫理道徳によって規定されている、と。

 市場は単なる交換システムで、そこからは愛や倫理道徳は生まれない。

 何が正しいかという価値観や倫理道徳は、ボールディングも言うように、愛のシステム、統合のシステムである家族や地域社会、国家などの共同体からしか生まれてこない。

 スミスは、キリスト教と英国の伝統文化に基づいて、個人を単位とする個人主義を理論の基礎に置いているが、その個人は、さまざまなコミュニティーに包み込まれ、伝統的な文化や宗教倫理規範に従って行動するものと考えていた。

 コミュニティーの成員からの評価は、個人の利己心の追求を外から規制し、人を押しのけてまで自分の利益を追求すればコミュニティーから排除されるという「内なる自己」ないしは「内なる神」の声が個人を制約していたからだ。

 利益の追求は、エゴイズムとしての利己心の追求ではなく、同時に他人の利己心の尊重を必要としており、社会全体の厚生や他人の利益との調和ある発展でなければならない。

 スミスはそれが成立する条件を、伝統的なコミュニティーに包み込まれて存在する市民社会と自由で競争的な市場に求めた。残念ながら近年、エゴイズムを個人主義と混同している日本人が多く見られる。

 個人主義はもともとキリスト教から生まれた思想だ。キリスト教の教えがそうであるように、個人主義も決してエゴイズムを意味しない。

 経済における独占や談合など、不正な手段による過大な利益の追求は、スミスの言うように、社会全体の厚生の増加に反する方法で自分の利益を求めるものであり、認められないものだ。

 スミスは、宇宙における天体が、月は月の軌道を地球は地球の軌道を回っていながら、宇宙全体は神の見えざる手に導かれて調和しているのと同じように、地上でも自然の調和思想に基づいて、自立した個人による自由経済と自由貿易、民主主義を進める小さな政府を標榜(ひょうぼう)していた。


 ――日本の資本主義の理念にも同じような倫理はあるのか。

 戦前から戦後にかけて、政治家や財界人の精神的指導者として活躍した陽明学者の安岡正篤(まさひろ)は、『論語』の「利は義の和なり」を自らの思想としていた。

 市場を取り巻く共同体の利益を増加する善き行いの合計として、個人や企業に利益がおのずからもたらされる、と。

 松下電器産業の創業者・松下幸之助は水道理論を唱え実践した。製品を水道の水のように安く大量に供給すれば貧困はなくなるという考えで、日本が豊かになれたのはそんな先人たちのおかげだ。

 悪い行いによってもたらされる私益の追求は、自分さえ良ければいいというエゴイズムとしての利己心の発揮で、自減への道でしかない。近年、多くの起業家がこの道をたどって自減していったのは記憶に新しい。


≪■二宮尊徳の勤労の思想/日本近代化の礎に≫


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 ――安倍政権は経済成長を持続させるためイノベーション(技術革新)を重要政策課題に掲げている。

 シュンペーターの言うイノベーションは単なる技術革新だけでなく、新しい経営方式や社会改革など社会全体の利益を生み出す事柄全体を指している。

 日本でも中世から近世の激動期にかけてイノベーションを行った人物に、京都の豪商・角倉了以(すみのくら・りょうい)とその子・素庵がいる。

 角倉親子は、保津川疎通や高瀬川の開削など公共事業に当たるものを自前で行い、社会に大きな利益をもたらした。

 通行料で工事費を回収し、貿易で収益を上げたのは、スミスの言う小さな政府と自由貿易の実践である。素庵は「利は義の嘉会(かがい)なり」と述べている。

 トヨタの源流である豊田自動織機の創業者・豊田佐吉が尊敬していたのは、江戸時代の農民思想家・二宮尊徳だ。

 農業の振興から藩財政の改革にまで手腕を発揮した尊徳は「いかなる人もこの世に生を受け、生を保っていられるのは天と地のおかげである。その宏大な恩に報いる手段として、人は生ある間、勤勉これ務めねばならぬ」と言っている。

 さらに尊徳は、これらの規範は、単に自分の利已心を満たすためでなく、「神仏への奉仕」であるとした。

 興味深いことに尊徳は、仏陀の言葉とされる「天上天下唯我独尊」の意味を、

 「天下の人ことごとく、いや犬猫に至るまで、みな自分を何よりも尊いとする権利を持っている。我というものを除いて、天地の間に一物もあり得ない」と説いている。

 自分の我を尊ぶためには、同時に他人の我を尊ばなければならず、そこにスミスにも通じる日本型民主主義の調和と平等の精神を見いだせる。

 その平等は、仏教の本覚思想に基づく生けるものすべての平等であり、キリスト教的平等よりもはるかに徹底したものであった。

 マックス・ウェーバーは、欧米の資本主義を発展させた精神がプロテスタンティズムの倫理にあることを発見した。

 世俗の労働が「神への奉仕」であり、日々の実践によって自分が天国へ召されるべく神に選別された者であることを示さなければならないというのが、宗教改革によって始まったプロテスタントの信仰と生活を結ぶ世俗倫理だ。

 そうした倫理に突き動かされた労働者の勤勉と企業家の禁欲主義が、欧米社会に経済発展と富の増加をもたらしたのである。

 尊徳の勤勉の思想は、そのプロテスタンティズムの倫理に酷似している。当時、人口の八割を占めた農民がしっかりした道徳規範を持っていたことが、日本の近代化、資本主義化の大きな礎となったことは論をまたない。


 ――日本的資本主義の原点に帰る必要がありそうだ。

 日本資本主義の産みの親とされる渋沢栄一は、官業、実業から家庭生活までのすべてを儒教倫理に基づいて実践していた。

 渋沢は「日常生活の困り事の答えはすべて論語にあり」と言い、「道徳経済合一論」を唱え、「義利合一論」を実践した。そこには「知行一致」を説く陽明学の教えも垣間見られる。

 渋沢にとって、道徳と経済は別々ではなく統一されたものであった。自分の利益だけの追求は一時的なあぶく銭を得るにすぎず、長期的な利益を得るためには、義を追求することでおのずから利を生むべきだと考えていた。

 渋沢の求めた経営者像は、土光敏夫元経団連会長に見いだせる。まさに勤勉に働き、企業においても、旧国鉄の民営化などにおいてもイノベーションを率先して行った。

 私生活では、メザシを好んで食する質素な生活を実践し、蓄えた財は夫人が経営する私立高校の運営に有効に使っていた。

 米国では、パソコンのOSを作り、普及させることで世界を変えるイノベーションを行い、個人資産世界一となったマイクロソフト社会長のビル・ゲイツが、二〇〇八年に経営の一線から完全引退し、自身の資産を投じて設立した慈善団体の活動に専念すると発表した。

 まさに、ここに経済発展の原理が示されており、また経済と道徳倫理のあるべき姿が示されている。
by sakura4987 | 2007-01-30 09:34

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