◆俳優・森田健作氏 おじいちゃんの日本はどこへ行った?
(産経 07/9/20)
気力が失(う)せたのだろうか。安倍総理が辞任した。出処進退についての批判はやむを得まいが、安倍さんが掲げた「美しい国」には共感を覚えた。日本人は、一体いつころから美しくなくなったのか、を考えたい。
私事だが、高校1年の息子がこの夏、カナダに3週間のホームステイをした。彼が自ら望んだもので、外国から日本を見るという経験を若いうちにさせたいと思っていた私に反対する理由はなく、費用もほとんど彼が自弁した。私は成田空港で旅立つ彼を見送ったきり、こまごましたサポートはしなかった。
帰国後、息子の開口一番は「お父さん、日本人はマナーとモラルに欠けているね」だった。日本ではいわゆるチーマーのように見える若者でも、カナダではバスの優先席に座っている姿を見なかった。降車のサインを出し遅れた乗客がいたら、それを運転手に伝えるのに迷惑そうな顔ひとつしない。日本人は何もトラブルがないときには親切そうに見えるけれど、何か起こったときには知らん顔が多い。
私は「そんなことはない。もともと日本人は…」と言いかけて口ごもってしまった。たしかに今、電車やバスに乗れば息子の“異国体験”と同じ感懐を抱くことが少なくない。特急電車の車中で女性が暴行を受けていても、居合わせた乗客だれひとりとして車掌や警察に通報すらしなかったという報道があった。日本人なら「義を見てせざるは勇無きなり」ではないのかと憤っても、それが今の日本の現実なのだ。
昨年、「I am 日本人」という映画を製作した。今の日本人を、“かつての日本人”の教育、しつけを受けた在米三世の女の子が見たらどう思うかをテーマにした青春ドラマだが、その中で彼女は日本人の叔父に向かってこう叫ぶ。
「おじいちゃんの日本はどこへ行った?」
礼の国、和の国、美しい国…これを単なるノスタルジーの世界に置き忘れてはならない。戦後日本の大人たち(団塊世代)の自省と覚悟が問われている。