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◆【正論】半鐘は鳴りつづけている (産経 07/12/21)




 文芸批評家 都留文科大学教授・新保祐司


 ■「戦後レジーム」の眠りから目覚めよ


 ≪「亡びるね」という声≫


 勤務先の大学へ向かう電車の車窓から、よく晴れた日には、雪を冠った富士山が見えるようになった。たしかに美しい。



 しかし、その白い優美な姿を眺めながら、私の頭に浮かんでくるのは、「亡(ほろ)びるね」という意想外な言葉である。それは、夏目漱石が明治41(1908)年、今からちょうど100年前に書いた名作『三四郎』の中に出てくる。



 熊本から東京の大学に入るために上京する主人公三四郎が、東海道線の浜松駅で停車中に、たまたま乗りあわせた広田先生と話を交わす。広田先生は、後に東京で親友になる与次郎によって「偉大なる暗闇」と評されるような人物である。



 先生は、「こんな顔をして、こんなに弱っていては、いくら日露戦争に勝って、一等国になっても駄目ですね。尤(もっと)も建物を見ても、庭園を見ても、いずれも顔相応の所だが、--あなたは東京が始めてなら、まだ富士山を見た事がないでしょう。今に見えるから御覧(ごらん)なさい。あれが日本一の名物だ。あれより外に自慢するものは何もない。ところがその富士山は天然自然に昔からあったものなんだから仕方がない。我々が拵(こしら)えたものじゃない」と言う。



 三四郎が「然(しか)しこれから日本も段々発展するでしょう」と弁護すると、先生は「亡びるね」と言い放つ。まさに、日本の近代の「暗闇」からもれてきたような声である。



 漱石が、近代日本の文明を鋭く批判した講演「現代日本の開化」の中で、「内発的」「外発的」という重要な用語を使ったことはよく知られている。



 西洋の開化は「内発的」であるのに対して、黒船渡来以来の日本の開化は西洋の圧迫によって強いられた「外発的」なものである。結果、皮相上滑りの開化であり、「涙を呑(の)んで上滑りに滑って行かなければならない」と言った。



 ≪漱石の近代日本批判≫


 漱石のこの見方は、1世紀たった今日においても本質的には正しいのであり、その後の歴史は日本人の精神から「内発性」がどんどん揮発していった過程に他ならない。



 特に敗戦から7年間の長きにわたった「占領下」とは、決定的に「外発的」な時代であった。その間に生じた習性は、今日までますます根深く蔓延(まんえん)し、「内発性」は加速度的に希薄になっている。



 文化の状況を見渡すと、精神の「内」から湧(わ)きあがってくるようなエネルギーが感じられない。老若男女を問わず、真に若々しいところがない。子供までが小賢(こざか)しくなっている。



 道徳の崩壊や学力の低下も、起因するところは結局、この精神の「内発性」の衰弱であろう。



 政治・外交の面でも、「戦後レジームからの脱却」の意志とは、わずかにのこっていた「内発性」の発現であったが、それも潰(つい)えて米国、あるいは国連といった「外」のものに依存する習性の中に、再び眠りこもうとしている。



 ≪今や、覚醒の秋≫


 漱石が、「現代日本の開化」に見られるような日本の近代への批判を抱くに至ったのは、英国留学の経験によるところが大きい。明治34(1901)年3月16日の日記に「日本は三十年前に覚めたりという。しかれども半鐘の声で急に飛び起きたるなり。その覚めたるは本当の覚めたるにあらず。狼狽(ろうばい)しつつあるなり。ただ西洋から吸収するに急にして消化するに暇なきなり。文学も政治も商業も皆然(しか)らん。日本は真に目が醒(さ)めねばだめだ」と書いた。



 恐らく夜中にロンドンの下宿の寒い部屋で、「覚めたる」思索の中から呻(うめ)くように誌(しる)したのであろう。



 「三十年前に」明治維新によって、日本の近代は「外発的」に始まったが、そこには「真」の覚醒(かくせい)はなかったと漱石は言う。特に、戦後六十余年とは、「占領期」を経て、日本が深々と眠った時代に他ならなかった。「戦後レジーム」とは、そのような惰眠のことである。



 たしかに、時々、火災を知らせる半鐘が鳴るような事件はあったに違いないが、しかし「本当」の覚醒に至ることはなかった。



 21世紀になってからは、9・11やイラク戦争、あるいは北朝鮮の核問題など、まさに半鐘は激しく鳴りつづけているのだが、そのときそのときに「狼狽」して急場しのぎの対応をするばかりで「内発的」に決断する気力は乏しい。



 今日ほど「亡びるね」という声が真に迫って聞こえてくる時代はない。今や、「日本は真に目が醒めねば」ならない秋(とき)である。
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by sakura4987 | 2007-12-29 15:58

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