◆【正論】ストレスへの反発が家族に (産経 2008/3/13)
犯罪心理学者 聖学院大学客員教授・作田明
≪家族の孤立にも要因≫
以上のように日本の親族殺人は仲が悪くとも良くとも発生する可能性があるわけである。これら親族間の犯罪の基盤には強い自己中心性と支配欲があるだろう。自分の利己的感情をコントロールできないまま、家族や近親者への殺害に至っているわけで、こうした身勝手な行動はいかなる意味でも正当化することはできないであろう。
こうした事件の続発を防ぐためにはどういう方策が必要なのだろうか。
日本で心中事件にみられるような親族殺の比率が高いのは自他の境界が明らかでなく、家族を自己の一部あるいは運命共同体のように思っていることから生じてくるものであろう。家族であろうとなかろうと、互いに人格を持った一人の人間であることを認め合い尊重することが何よりも大切なことであろう。
犯人や家族が孤立した状況で親族間の殺人事件が生じやすいという事実にも目を向けるべきであろう。日本の場合に同居家族以外の親戚(しんせき)との関係は欧米や他のアジア諸国よりも疎遠であると言ってよいだろう。地域社会も崩壊しつつあり、かつては共同体意識を支えてきた職場もその機能を失いつつある。
近親者間殺人を未然に防止するためには、本人を孤立させないように家族が注意することはもちろん、家族もまた社会との接点を失わないような努力が必要なのである。