◆【外信コラム】ソウルからヨボセヨ 一茶の俳句
(産経 2009/3/21)
ふくろうよ
面癖(つらぐせ)直せ
春の雨
小林一茶の名句の1つだが、これがソウル中心部の名所、光化門交差点の高層ビルの玄関に大きく掲げられ話題になっている。ビルは「教保(キョボ)ビル」といって韓国の有名保険会社「教保生命」の本社で、地下にある韓国最大の超大型書店「教保文庫」でも知られる。
「教保」つまり「教育保険」で名を成した会社だけに知的事業に熱心だ。その一環として約20年前から、ビル玄関の壁面に「絵と詩」のあるしゃれた感じの大きなパネルが掲げられていて、人びとを楽しませてきた。パネルの中心は詩で年に4回、季節ごとに変わる。そのパネルに今年の春、新しい詩として一茶の俳句が登場したのだ。
これまで内外の有名詩人の詩が使われてきたが、日本人の作品は初めて。しかも俳句からというのは憎い。もちろん韓国語に翻訳されていてハングルで横書き。韓国語では俳句の12文字が「顔をちょっとゆるめてはどうか/ふくろうよ/これは春雨じゃないか」と18文字に訳されているが意は十分に伝わっている。
韓国も経済危機で大不況。春なのに街の人びとの表情はこわばって、さえない。そこで一茶の句を借りて「春が来たんだから、ふくろうみたいなしゃちこばった顔をしていないで、ちょっと表情でも変えてみてはどうなの」というわけだ。日本の官庁街やビジネス街にもこんなユーモアと余裕が欲しいですねえ。