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◆【正論】京都大学教授・佐伯啓思 「民意を問え」という政治暴論



 (産経 2009/3/30)


 ≪■国民の前に平身低頭だが≫

 3月14日づけの「昭和正論座」に関嘉彦氏の論説が掲載(再録)されていた。初出は昭和50年2月8日とある。30年以上前のものだが、今書かれたといわれても全くわからないだろう。優れた先達の卓見というほかないのだが、また、日本の政治状況は、この30年、基本的に全く変化していないともいえる。

 たとえば、この論説の冒頭で、関氏は次のように書いておられる。「いまの国会に足りないものは率直な議論とユーモアであり、多過ぎるものは野卑な言動である」と。その原因は何か。それは、指導者や政治家が、市民や消費者、労働者、国民、といった目に見えない集団の力におもねり、その力の前に平身低頭しているからだ、というのである。

 まさしくその通りであり、その程度は今日さらに著しい。その結果、われわれは、今日の日本で、そもそも、「政治なるもの」が成立しうるのか、という疑問さえも発せずにはおれなくなっている。

 プラトンは、『国家』の中で、民主政は、それが広く行き渡った時、まさに民主政のもっている長所が短所となって衰退する、と述べた。民主政の長所とは人々の自由を大幅に容認することである。だから、民主政の頂点では人々は最大の自由を謳歌(おうか)する。このとき、強力な指導者がでてきて国民に注文をつけると、人々は彼を罵(ののし)りもっと自由を求める。ところが、力のない指導者がでてくると、彼を、つまらぬやつだとののしる。

 結局、民主政の中で登場するのは、「支配される人々に似た支配者」となる。もう少し今日的にいえば、もっとも平均的な国民に似た政治家である。文字通り「国民の代表」としての政治家だ。

 ≪■小沢氏の「改革」のより所≫

 ただし、この場合の「代表」とは、たとえばJ・S・ミルが「代議制論」で述べたように、「国民」にかわって、公的事項について大きな判断をなしうる優れた人物という意味ではない。あくまで、「民意に従って動く人物」という程度の意味である。

 ところが「民意」なるものが明確ではない。せいぜい、世論調査の結果である。しかも、今日の大きな政治的論点について、「国民」が確かな「民意」を形成すると期待することは難しい。だからこそ、ひとにぎりの政治家に政治の主導を任せるという代議制が成り立っているわけだ。

 したがって、政治家は、大きく民意からそれることは不適切だとしても、短期的な局面でいちいち民意によって動く必要はないのである。

 ところが、「民意」こそがすべてとなってしまった。「民意」を政治に反映することだけが政治のテーマとなった。かくも「民意」を持ち上げたのは1990年代以来の政治改革である。小沢一郎氏が主導した政治改革にはいくつかの面があるが、その中心は、「民意を反映した政治の形成」である。小沢氏の真意は、彼自身がそこに属していた、自民党中心派閥である旧田中派への反感と、自民党の派閥政治の解体であったと思われるが、その際に、改革論がよりどころにしたのが「民意」であった。

 こうして、「民意を無視する自民党」と「民意を反映する改革派」という構造ができる。したがって、今日の改革派である(はずの)民主党の主張はともかく「民意につく」ことなのである。これは困ったことだ。二重に困ったことだ。

 ≪■「民意」を動かすのが仕事≫

 第一に、政党の基本的政策が「民意の反映」では意味をなさない。そもそもの小沢氏の提唱した政権選択可能な二大政党などとはほど遠い。第二に、もし「民意」を本当に反映したなら、政治は「民意」とともにきわめて不安定に漂流するであろう。

 今日のような大衆化した社会では「民意」は情緒とスキャンダルと映像的な効果によって大きく動く。そのことをわれわれは小泉劇場でいやというほど体験したのではなかったろうか。

 これは民主党だけのことでもない。政治改革の波と小泉政治によって、自民党も、「民意」の前に平身低頭せざるをえなくなった。「民意を問え」という声は民主党だけではなく自民党からもあがってくるのである。もし「民意」を絶対化してしまえば、政策対立する二大政党は不可能である。どちらも、「民意」につこうとするからだ。

 ところが、この「民意」をめぐる綱引きは、政策論争よりもイメージと人気の争奪戦になるだけであろう。

 麻生政権に対して、「民意を問え」という声が強い。しかし、どの政策を「民意に問う」というのであろうか。今日の政治課題は、民意が反映されていないことではなく、政治を「民意」に預けることで政治家が政治から逃げている点にある。政治とは政治理念を打ち出して、それこそ「民意」を動かす指導行為だからなのである。
by sakura4987 | 2009-04-02 10:47

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