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2008年 06月 24日
(世界日報 2008/6/20) アメリカン・エンタープライズ政策研究所客員研究員 加瀬 みき リスボン条約否決の民意 難解さと市民不在に不信感 ■EU憲法草案から連続の否決 六月十二日、アイルランドで欧州連合(EU)のリスボン条約批准を巡る国民投票が行われた。結果は賛成が46・6%、反対が53・4%であった。二十七の全加盟国が批准しない限り条約は発効しないことから、条約を巡り唯一国民投票を実施したEU人口の1%にも満たない国が、EU全体に大きな衝撃を与えている。しかしアイルランド人の見解は多くのEU市民の気持ちを表してもいる。 六カ国で設立した欧州共同体は今や二十七カ国に拡大し、歴史や経済の発展段階の違いなどから政策で一致することが難しくなっているばかりでなく、外交、移民問題、安全保障、エネルギーなど、EUとして統一政策を打ち出す必要がある問題が増えている。EUのさらなる統一を図り、EUとしての政策を打ち出すことによりグローバルなステージでも、より大きな影響力を発揮することを目指し、二〇〇四年六月には欧州理事会でEU憲法草案が採択された。 しかし、この憲法草案は二〇〇五年春にフランスとオランダで行われた国民投票で批准が否定されたことから、より簡素でEUの効率的運営に焦点をあてたリスボン条約が提示された。関係者が今度こその批准を目指し、内容および批准手続きにもあらゆる知恵を絞った、いわば「プランB」であっただけにEUおよび各国首脳は、アイルランドの国民投票の結果を受けて「プランC」はない、と呆然としている。 憲法および条約拒絶の理由は複雑であり、中味を正確に把握せず誤解に基づく部分もかなりある。フランスでは、より市場の自由化が進みアングロサクソン的な「ウルトラ・リベラル」で、一般市民に、より苦難をもたらす制度が持ち込まれるという宣伝が反対票に大きく貢献した。オランダでは、東欧からの移民が怒涛のごとく流れ込み、失業や人種問題がさらに深刻になると信じられた。 アイルランドでは、条約を批准すると中絶が認められるようになり、税金が上がり、アイルランドの中立政策が壊されると恐れられた。 ■何故憲法や条約を拒絶するか オランダの外交官によればEU憲法にはそれまでの条約にない新たな条項は10%あまりしかなく、それまでの約束事の公式の確認のはずであった。しかし憲法が示すEUの方向性に対する実質的な疑問ばかりでなく無知や誤解、反対派の宣伝の上手さも手伝い、フランスでは投票者の55%、オランダでは62%が反対票を投じた。 リスボン条約は統一市場や統一通貨など目新しい制度が生まれるわけでもなく、刺激のない管理運営効率化推進文章であった。しかし投票率53・13%と多くのアイルランド国民が関心を示した投票の結果は、批准拒否票が承認票に十万以上の差をつけた。 三カ国ともに市民の側に無知や誤解があるのは間違いない。またフランスでは高い失業率、フランスやオランダでは深刻な移民問題を抱え、今回のアイルランドでは繁栄していた経済に影がさしているという状況下、各国の国民が生活への不安や政府への不信感をEUにかかわる国民投票という場をかりて表現した、という側面がある。 しかし国民の反EU表明の原因はそれだけではない。反対票を投じたアイルランド国民は、条約の中味が全く分からない、政治家やビジネス界が結託して条約を批准させようとしているのが気に食わない、という理由をあげた。 EU憲法は憲法そのものが三百四十九ページ、付属文章が三百八十二ページ、宣言文言が百二十一ページと合計八百五十二ページ、簡素化された条約ですら二百八十七ページである。また内容は非常に複雑で、一般市民どころか、担当の役人ですら完全に理解するのは難しいようである。アイルランドの投票日の新聞によれば、条約を説明するためにテレビに登場した役人が技術的な質問の回答に苦しみ、資料を必死にめくる間なんと二分半の沈黙が流れてしまった。 憲法や条約は長文で複雑で専門的知識も要する。だからこそ政治家や官僚にまかせるべき、と政治家は述べる。しかし、これがさらに国民の不信感をあおってきた。EUとしてかかわる問題や加盟国が増えるに従い、統一見解や政策を形成するのは難しく、多くの妥協や玉虫色の文言を活用せざるを得なくなる。 ■困難でも市民の理解に努力を 条約が多数結ばれてきたが、市民が意見を求められることはほとんどなかった。一般市民から見れば、理解できないことを政治家や官僚が勝手に進めており、その中味は多くの場合、自国や自分のためにはならない、という気持ちが膨らむ。政府が経済秩序など国民が受け入れがたい政策を売り込むために、ブリュッセル(EU本部の所在地)という「お上」を利用してきたことが、さらにEUに対する不信を深めた。 わずかシン・フェイン党を除いて政財界がこぞって条約批准を支持したことへ反骨精神旺盛なアイルランド人の多くが本能的に反発した。しかしこれはフランスやオランダの国民、そして、いずれの場合も国民投票の機会を与えられなかった多くのEU市民のエリート指導者層に対する不信感を如実に表している。 いかに困難であろうと各国政府に市民の理解を得る努力、不安や不信に真摯に応える姿勢がなくては、EUとしての声を形成し、国際舞台で影響力のある存在になることはできない。 2007年 10月 10日
人権重視から選別へ フランス国民議会(下院)は九月二十日、同国に在住する移民が、家族呼び寄せに際して、血縁関係を証明するDNA鑑定を導入することなどを規定した法案を可決、上院に送った。人権への配慮の欠如などの批判が起きる中、サルコジ新政権は、同国に流入する移民の選別やフランスの価値観教育などの同化政策や新たな移民政策を打ち出している。 ≪■国家の価値教育を強化≫ 移民改正法は、ブリス・オルトフー仏移民・国家アイデンティティー相が提出した原案に、幾つかの修正が加えられた。理由は野党が反対しただけでなく、クシュネル仏外相はじめ、政府与党内にも慎重論が存在したからだった。 下院の争点となったのは、フランス国内に仕事を得て定着した移民が、出身国から家族を呼び寄せる際、DNA鑑定で血縁関係を証明できる制度についてだった。原案ではビザ申請者にDNA鑑定が義務付けられ、その諸費用も本人負担とされていたが、鑑定は本人の希望で、血縁関係が証明された場合、費用をフランス政府が負担するように修正された。 今回の移民法改正案の背景には、出生届や戸籍管理が整備されていないアフリカ諸国で血縁関係を証明することが困難な現状が存在することや、セネガルなどアフリカの数カ国で家族呼び寄せのビザ申請の三-八割が虚偽の申請で血縁関係にない者が家族として流入している現状があることなどが挙げられている。 この法案には、DNA鑑定のほかに、フランス語の習得義務や「共和国の価値観」への理解を求めることが盛り込まれた。この背景には、イスラム教徒移民が、フランス社会とは距離を置いた生活を続け、同化を困難にしている問題がある。政教分離を共和国の価値として掲げるフランス政府は、移民にもその考えの受け入れを迫っている。 フランスは他の欧州連合(EU)の大国同様、これまで多くの移民を域外から受け入れてきた。だが、フランスは他のEU諸国とは異なった特殊事情を抱えている。それは職を求めてフランスに移住した人々は、移民全体の5%にすぎず、全体の77%が、本国から呼び寄せられた家族という現状があることだ。 その呼び寄せられた家族も、出身国で一夫多妻制であったり、子供が十人以上いたりするケースも珍しくなく、社会保障財源を圧迫している現状がある。そのため、サルコジ大統領が内相時代の数年前から、移民受け入れ規制強化を進めており、今回は同大統領の公約の一つにも挙げられていた。 政府は、人権問題への配慮の欠如に対する批判に対して、血縁関係を証明できないために審査期間が長引き、移民申請当事者が長期に待機させられる現状も多いため、審査を迅速に行える利点があると説明している。また、血縁関係を確認できなかったために、家族の一部を呼び寄せられず、離散状態にある家族を救うことにもつながるとしている。 DNA鑑定自体は、他のEU諸国十一カ国で、同様な鑑定が実施されており、一般化していることも政府は強調している。結局、二〇一〇年十二月までの二年間を実施試験期間とし、その後再審議するよう修正が加えられ、改正案は上院に送られた。 移民問題には、受け入れ政策、受け入れ後の同化政策、不法移民の処理問題が大きな柱になっている。受け入れ政策では最近、EU欧州委員会のフラティニ副委員長(司法・自由・治安担当)が、移民を対象とするEU域内共通の労働許可証「通称、欧州ブルーカード」の導入を加盟各国に提案する方針を表明した。 これは米国の永住許可証であるグリーンカードに習ったもので、加盟各国で独自に基準を設けている移民の選別方法のほかに、熟練した高度な専門知識を持つ労働者に限りEUとして選別基準を共通化する試みと説明している。同案の背景として世界の移民のうち専門性の高い熟練労働者の55%が米国に移動し、EUには5%しか来ていない現状を挙げている。 EUは現在、二十七カ国に拡大し、総人口では米国を超え、五億人に近づく勢いだが、経済成長の視点から、多くの専門家は移民のさらなる受け入れの必要性を指摘している。事実、アイルランドやスペインなど移民労働者を積極的に受け入れている国の経済発展は目覚ましい。 その一方で、質の高い労働力確保が課題で、ブルーカード案もそこから出ている。フランスではサルコジ大統領が内相時代、同問題で、専門性の高い熟練労働者を優先的に受け入れ、単純労働者の受け入れのハードルを高くする政策に転換している。留学生も成績優秀者を優先する方向にある。 一方、フランスにとって、移民問題の長年の課題は同化政策で、特に北アフリカ・マグレブ諸国出身のアラブ系移民が、フランス社会に同化しない問題だ。一昨年の移民の若者による大規模な暴動も同化政策がうまくいっていないことから起きた問題だ。多文化共生主義を採用していないフランスでは、出身国の慣習や価値観、宗教よりは共和国の価値観を優先しているが、信教の自由との関係などで難しい側面もある。 一方、不法移民に関しては、サルコジ大統領が内相時代に年内に二万五千人の不法滞在者を国外追放するよう要請していたにもかかわらず、今年は九月までに一万一千人しか目標を達成できていないことが報告された。このため、年内の目標達成が困難になっており、政府は関係警察署長に対して、努力を促した。 移民問題は、人道問題や経済効果にとどまらず、テロの問題とも深く関係している。アルジェリアでは九月、フランス国籍を持つアルジェリア系男性が自爆テロに失敗する事件が起きた。フランスの国家警察のペシュナール長官は九月末、フランスでは「テロの脅威が高まっている」との認識を示している。 サルコジ政権は、移民の受け入れのハードルを上げる一方、移民のフランスへの同化政策を強化し、国内で移民がフランス人化することを促進する構えだ。かつて政治不安定な地域からの政治移民、貧しい国からの経済難民を積極的に受け入れていた時代とは、大きく様変わりしようとしている。 2007年 08月 01日
(朝日 07/7/24) http://www.asahi.com/international/update/0724/TKY200707240517.html 離婚で落ち込んだ気分を親しい仲間と笑って吹き飛ばそう――と、結婚ならぬ「離婚披露宴」を演出する会社がフランスで話題を集めている。 昨年11月に2人の女性が創業したウェディングアウト・ファクトリー社。「裁判所で離婚が決まった日、一人でいるのがつらくて友達を大勢集めてパーティーを開いたの」という共同経営者レベッカ・アザンさんの体験がきっかけになった。 演出はたとえばこんな具合だ。「市長」の前で「二度と同じ過ちは犯しません」という「独身宣誓書」に署名し、あとは招待客と深夜まで飲んだり踊ったり――。会場を探し、料理を用意し、市長役やDJを派遣するのが同社の仕事。招待客1人あたり40ユーロ(6700円)が料金相場だという。 仏国立統計機関によると05年に27万6000組が結婚、15万2000組が離婚した。「いまや離婚はだれにもありうる。別れた相手を恨むのではなく、新たな人生を前向きな気持ちでスタートするのが目的」(アザンさん)。再婚した男女が、お互いの新しい家族を紹介し合うパーティーの企画も最近は増えているそうだ。 2007年 08月 01日
■吸引者の越境…周辺国は反発 一定限度の大麻使用が認められているオランダで、大麻を販売する通称「コーヒーショップ」の数が激減している。防犯上の懸念から保守政権が締め付けを厳しくしているためだ。ところが、他の欧州連合(EU)加盟国は、これが大麻吸引者の越境や大麻の流入を増やさないかと懸念している。大麻は適切に管理しうるという寛容政策を取ってきた同国だが、“手綱”を締めるのも容易ではないというジレンマを抱えることになった。 「『コブラ』なら0・6グラムで5ユーロ(約840円)、『スカンク』ならもう少し安い」。ドイツとの国境沿いに建つエンシェデのコーヒーショップ「デ・モレン」で、女性従業員は大麻の銘柄を悪びれもせず説明した。 仏陀像やアメリカ先住民の彫り物などが置かれた薄暗い店内では、罪悪感もなく煙をくゆらせる中年男性の姿が妙に目立つ。若者たちがアイスクリームでも買うように、簡単に大麻を買う。同店を訪れる客は平日約50人、週末はその倍。客の半分は一時の多幸感を目当てにドイツから訪れる「ドラッグ・ツーリスト」だという。 ただ最近は、オランダ国内で店舗激減が目立つ。「寛容政策」を見直している政府が店舗を強制閉鎖しているためで、約740軒の店舗数は1997年時の約4割減だ。 背景にあるのは治安悪化への懸念。独国境添いの街フェンローの主婦は「ゾンビみたいなドイツ人が真夜中の3時ごろ、店舗の場所を教えてほしくて自宅の呼び鈴を激しく鳴らした」と、6年前の“恐怖”を振り返る。 ロッテルダムでは子供への悪影響を懸念し、来年末までに、市内にある約60店舗のうち学校から約100メートル以内にある店舗の閉鎖を決めた。 相次ぐ閉鎖は密売人にも打撃を与えている。かつて、モロッコの砂漠に密売組織が埋めた大麻を掘り起こして車のすき間に隠し、アフリカ各地を経由してオランダに運んだというドイツ人密売人(38)が嘆く。「同業者が途中で捕まり懲役刑を受ける中、おれは計16トンも運んだ。ドイツ人だから怪しまれなかったが、今はご覧の通り、ブラブラする毎日だ」 ◆◇◆ 問題は、オランダの厳しい姿勢が、隣国では必ずしも歓迎されていないということだ。 フェンロー市は最近、街中の吸引者を減らそうと、街外れの国境近くに「ドライブスルー方式」の新店舗建設を計画した。ところが、独側のネッテタル町は、麻薬吸引者の越境が増えることを警戒し、これに猛反発している。 ディトマー・ザゲル同町総務部長(55)は「わが町にはこれまでも、民家の庭に小便をし、注射器を捨てる連中が越境して町民を怖がらせてきた」と語る。 欧州の「麻薬の首都」と米誌が揶揄するオランダからは、人だけでなく大麻も隣国に流出している。 オランダ~ドイツ間の高速道路では、独警察が目を光らせるが、全車を止めての検査は物理的に無理だ。実際のところ、記者の車も停車を命じられなかった。 野放しにも近いオランダの政策にはドイツ以外のEU加盟国も反発。ベルギーは「自国の不浄物は自分たちで処理せよ。他国にまで“感染”させるな」と非難し、首相が4月に抗議文を送った。スウェーデンはオランダ製品のボイコットを警告、フランスやアイルランド、イタリアも批判する。 ◆◇◆ 品種改良にたけた「チューリップ大国」のオランダは、「大麻栽培のエキスパート」(国連薬物犯罪事務所=UNODC=のトーマス・ピーチマン研究員)でもある。多幸感を引き起こす同国産の大麻の化学成分THCは近年、10%から25%へと急激に高められ吸引者にとっては危険な状況となっている。 世界最大級のロッテルダム港を抱えるオランダには、コカインなどマフィア絡みのハード・ドラッグも入り込み、近隣国への国境越えも進む。 オランダでは、「大麻を管理する(寛容)政策が結局は『マフィアのゲーム』を封じ込めることになる」=ドラッグ対策協会のフルア・ウドストラ代表(50)=との主張が依然、支配的だ。ただ周辺国を納得させるのは、容易ではない。 ◇ 【用語解説】オランダの麻薬政策 大麻購入は原則として違法だが、購入しても「訴追されない」という寛容政策が1976年に導入された。現在はコーヒーショップで、1人5グラム未満の大麻を購入できる。大麻(ソフト・ドラッグ)の使用を認めることで、コカインやヘロインなどのハード・ドラッグ使用を防ぐ狙いがある。歴史的に宗教迫害者を受け入れるなどの寛容精神を持ち合わせてきたことに加え、麻薬の根絶は不可能と考える「現実主義」も反映している。 < 前のページ次のページ >
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