2009年 01月 25日
(産経 2009/1/23) http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090123/plc0901230131001-n1.htm 旧日本軍が中国に遺棄したとされる遺棄化学兵器の処理事業をめぐり、政府は、砲弾の大部分が埋まっている吉林(きつりん)省・ハルバ嶺(れい)でのプラント建設事業を今後3年間凍結し、事業規模を大幅に縮小する方針を固めた。複数の政府筋が22日までに明らかにした。ハルバ嶺の事業凍結に伴い、中国各地に散在する小規模発掘事業での砲弾回収・無害化作業を先行実施する。これにより事業費は10分の1ほどに縮小される可能性もあり、実態が不透明だとの批判が出ていた処理事業は大きな転換点を迎えた。 内閣府遺棄化学兵器処理担当室などによると、ハルバ嶺は、旧関東軍の司令部が付近にあったとされ、丘陵地帯に化学兵器の砲弾など30万~40万発が縦穴2カ所にまとめて埋まっているとみられている。 処理事業は平成11年度から始まり、19年度までに約540億円が投入されている。日中両国政府は16年4月、穴全体を施設で覆い、機械で発掘する発掘回収施設と、砲弾を無害化処理するプラントなどを建設する計画で合意。施設建設費だけで2000億円以上の出費が見込まれていた。 ところが、中国側の調整が進まず事業が膠着(こうちやく)状態となる中、19年秋には日本政府が事業を全面委託していた遺棄化学兵器処理機構をめぐる巨額詐欺事件が発覚。同時期に日本政府が、発掘回収装置の仕様書に関し、複数の日本企業に意見を聞いたところ「情報が足りず設計できない」と追加調査を求められたという。 与党内などから今後、日本側の負担がどこまで膨らむのか分からないという批判が出たことを受けて、政府は20年3月で処理機構との契約を打ち切るとともに事業計画を再検討。「ハルバ嶺の巨大施設建設には合理性がない」と判断し、当面の事業凍結と事業規模の縮小方針を決めた。 担当室では今年1月から3カ年の予定で再調査の試掘を開始。調査の結果、機械での回収に適さないと判断した場合、手掘りによる回収に切り替えれば、少なくとも発掘回収施設の建設費940億円が不要になると見込んでいる。 一方、中国各地の小規模発掘事業では、建設現場など40カ所以上で出土した砲弾約4万6000発を回収し、約20カ所に貯蔵している。安倍晋三首相(当時)は19年4月、中国の温家宝首相との首脳会談でこれらの砲弾の無害化処理に「移動式処理設備」を導入することで合意した。 この移動式処理設備が効率的に運用できることが分かれば、ハルバ嶺での処理プラントも不要になる可能性もあるため、小規模事業を先行させた方が事業効率がはるかに高いという。 担当室は22日、移動式処理設備を入札し、神戸製鋼が30億円で落札した。移動式設備はトレーラー数台に機材を分乗し各地を巡回しながら処理作業を行う予定で、22年に南京での初稼働を目指す。費用は4年間の運用費込みで106億円を計上している。 政府はこれらの事業方針転換で、信頼回復を図りたい考えだが、これまで投入した事業費との整合性を問われる可能性もある。また、ハルバ嶺事業凍結により、化学兵器禁止条約で定める24年4月の期限までに処理が終わらないのはほぼ確実となり、この点でも批判が上がる恐れもある。 2008年 06月 10日
(産経 2008/6/8) http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/080608/crm0806081535011-n1.htm 防護服を着て遺棄化学兵器の処理作業の準備をする日本の専門家 =2002(平成14)年9月、中国・孫呉(AP) 発注者である内閣府の当事者能力の欠如と、政府の非公開主義により、聖域とされ“利権化”してしまった中国大陸での遺棄化学兵器処理事業。それが独占受注業者「PCI」グループの不正を誘発したが、そもそも事業はスタート前から不可解な経緯をたどっていた。関係者の証言などで明らかになった中国政府への100億超もの支出。その詳細を、日本政府も業者も明かさない。調べるほどに奇妙なのは、遺棄された兵器を処理する責任が真に日本にあるのか、その法議論を封じ込んだまま1兆円事業に突き進んだ歴代内閣の姿勢である。(編集委員 宮本雅史) ■「日本に処理責任」→土下座外交の“成果”? 中国大陸に遺棄された化学兵器の処理が政治問題化した発端は、中国政府が平成2年に海部内閣時代の日本政府にその処理と解決を要請してきたことだった。 その後、日中政府間で協議を重ねられ、平成5年1月に宮沢内閣が「化学兵器禁止条約」に調印。続いて7年9月に村山内閣が、9年4月に中国政府が、それぞれ条約を批准した。 条約は「遺棄化学兵器」をこう定義づけた。 「1925(大正14)年1月1日以降にいずれかの国が他の国の領域内に当該地の国の同意を得ることなく遺棄した化学兵器(老朽化した化学兵器を含む)」 日本には「遺棄締約国」として、「他の締約国の領域内に遺棄したすべての化学兵器を廃棄する」「廃棄のため、すべての必要な資金、技術、専門家、施設その他の資源を供給する」との義務が課せられた。 だが、この段階で、日本に処理義務が生じるとした条約への異論があった。 「敗戦で中国大陸の旧日本軍は武装解除し、すべての兵器、財産は旧ソ連と中国に没収・接収された。つまり、遺棄兵器の所有権は旧ソ連と中国に移転したと法的には解釈すべきだ。とすれば、日本が遺棄したとされる化学兵器は、条約が言うところの当該国(中国)の同意を得たものとなり、処理義務が生じるのは旧ソ連となる可能性が高い」 「村山内閣は、遺棄化学兵器の『所有権』がどこにあるのか、日本政府に真にその責任があるのかなど、基本的な問題を精査することなく条約を批准した。最初から『日本に責任あり』の立場が取られていた」 ■まるで土下座外交の如く… 村山富市首相(当時)は批准の際、「遺棄したほうの国にその処理の責任がある。誠実に実行するのは当然だ」と述べ、河野洋平外相(同)も「外国が残したものを含めて日本が責任をもって処理する」とまで断言した。 本当に日本政府に処理義務が生じるのか、異論があったにもかかわらず、それを精査した形跡は見あたらない。関係者が振り返る通り、「初めから日本に責任ありの立場」であった。 その後、小渕内閣は「日本政府は条約に従って廃棄の義務を誠実に履行する」とし、その上で次の覚書を交わした。 「遺棄化学兵器の廃棄のため、すべての必要な資金、技術、専門家、施設及びその他の資源を提供する」 「廃棄作業は、中国政府の法律を遵守する」 「事故が発生した場合は、両国で協議を行い、日本側は必要な補償を与える」 これではまるで、中国に対する“土下座外交”ではないだろうか-。 「村山、河野発言を受けて外務省が主導で批准したので、当方では分かりかねます」 処理事業を主管し、これまで680億円もの予算を執行してきた内閣府(遺棄化学兵器処理担当室)に条約批准の経緯を聞くと、人ごとのような回答が返って来るのみだった。 ■物証「兵器引継書」も真剣に精査されず… 中国大陸に遺棄された化学兵器の処理義務は本当に日本政府にあるのか-? その疑念を増幅させる事実が一昨年春、判明した。 山形県の全国抑留者補償協議会(全抑協)のシベリア資料館に、中国で旧日本軍が武装解除する際、引き渡した武器、弾薬の詳細を記した「兵器引継書」約600冊が残されていることが明らかになったのである。 「兵器引継書」は、旧ソ連軍に旧日本軍が武器を引き渡したことを証明する物的証拠である。引継書の中に「化学兵器」があれば、中国に遺棄された化学兵器の処理義務は日本ではなく、旧ソ連に発生することになる。680億円もの出費は必要なくなるのだ。 「この資料は精査すべき内容だ。政府としてもしかるべき調査をする」 安倍晋三官房長官(当時)は衆院内閣委員会で「兵器引継書」の存在について問われ、こう答弁した。 外務省は引継書の3分の1を写真撮影し、民間の専門家に判読を委託している。しかし、その調査結果については公表されるわけではなく、事業自体の基本的な疑問点は放置されたままだ。 内閣府(遺棄化学兵器処理担当室)は「引継書はあったと言われるが、通常兵器の記載はあるものの化学兵器の記載はないと聞いている。外務省の担当なので分からない」と要領を得ない。 実際に引継書を検討しているという外務省に聞くと…。 「目録の3分の1程度しか見ていないが、必ずしも化学兵器と読める表記はなく、引き渡しの事実を裏付けるものではなかった。ただ、残りは資料館との関係で許可を得られず、精査の手は及んでいない」 「武装解除の検証はしていない」 内閣府も外務省も、およそ当事者意識は感じられない対応である。「兵器引継書」の内容如何によっては、680億円もの支出が不要となる可能性が浮上するのだ。日本政府にしてみれば“血眼”になって「化学兵器」の表記を探して不思議でない。ところが政府にその必死さはまったくうかがえない。この“無気力さ”は不可解としか映らないのだ…。 その後も処理事業は、日本に化学兵器の処理を実行する義務があるのか厳密に精査されることのないまま、条約と覚書に沿って継続されている。巨額の血税が湯水の如く費やされている。 プロジェクトは10年目を迎えた今も、化学兵器の処理方法やその委託企業は決まっていない。内閣府は昨年4月、完了時期を5年間延長した。しかし、関係者の間では「5年延長しても完了するかどうか微妙だ」と事業そのものへの不信感も根強い。 出口の見えないメガプロジェクト。われわれの国費投下は際限なく続きそうだ。本当に必要な出費であるかの確認もなく、ノーチェックで業者に食い物にされるようないい加減さで…。 議論を封印しての、日本政府の「事業ありき」の姿勢。いったい何を物語っているのだろうか。 2008年 05月 01日
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/080424/crm0804240237003-n1.htm 中国で進められている遺棄化学兵器処理事業をめぐる不正支出事件で、国から事業を請け負っていたコンサルタント会社の元会長ら4人が特別背任容疑で東京地検特捜部に逮捕された。 グループ間の架空取引を通じ、会社に1億2000万円の損害を与えたとする容疑だ。特捜部はさらに、技術者の人件費を水増しして国から不正受給していた疑いもあるとみて、詐欺容疑でも調べを進める方針だという。 不正の背景は、コンサルタント会社が全額出資して設立した遺棄化学兵器処理機構が、国からの受注を独占してきたことにある。内閣府に化学兵器処理のノウハウがなく、同機構の要求のまま予算を計上したことも重なり、9年間で683億円の巨額の国費が投入された。不正の最大の被害者は、納税者たる国民である。特捜部はこのことを踏まえ、特に詐欺容疑の立件に力を入れてほしい。 この事件が発覚したのは昨年10月、特捜部が特別背任容疑で同機構など関係先を家宅捜索してからだ。その後、政府は特定の企業が随意契約で独占的に事業を行ってきた従来の方式を改め、今年度から一般競争入札を導入することを決めた。不正の温床をなくすための当然の措置である。 しかし、この事件が捜査中であるにもかかわらず、今年度も、遺棄化学兵器処理事業に154億6400万円もの巨額の予算が投じられたのは、理解に苦しむ。 もともと、この事業は中国側の言い分をほとんど受け入れる形で始められたものだ。終戦時、旧日本軍は化学兵器を含むすべての武器を中国軍や旧ソ連軍に引き渡しており、「遺棄」には当たらないとの見方もあったが、引き渡したことを明確に証明する書類がないとされ、中国にのみ有利な処理策が進められてきた。 しかし、最近、「遺棄」ではないとする証拠が防衛省防衛研究所などで次々と見つかっている。昨年も、中国大陸で旧日本軍が化学兵器を中国側に引き渡したことをはっきり示す文書が、防衛省の関係団体が外務省の依頼で行った調査資料の中に含まれていることが、ジャーナリストの取材で明らかになった。外務省はこれを公表していない。 政府は予算を積み増す前に、こうした事実関係やこれまでに支出した683億円の使途などをきちんと検証すべきである。 Tags:#政府の無駄使い・あきれ話
2008年 04月 17日
(産経 2008/4/12) ■実態不透明、国費投入に批判 中国での遺棄化学兵器の処理事業に今年度も154億6400万円の予算が投じられることになった。同事業をめぐっては昨年秋、内閣府の担当部署と単独契約を結んで調査を行ってきた「遺棄化学兵器処理機構」(東京)などが特別背任容疑で東京地検の捜索を受けた。検察は内閣府と同機構の契約内容や不正経理の解明を継続中で、捜査結果を待たないままの巨額予算の投入に疑問が出ている。(宮本雅史) この事業は旧日本軍が中国に遺棄したとされる化学兵器を発掘、無害化する内容。建設コンサルタント大手「パシフィックコンサルタンツインターナショナル」(PCI、東京)がコンサルタント大手「日揮」(東京)と共同企業体を組み、内閣府と現地調査などの委託契約を結んで平成11年度に開始。 内閣府は同時期、外務省の外郭団体「日本国際問題研究所」とも並行して委託契約を結んでいた。しかし16年4月にPCIが100%出資して遺棄化学兵器処理機構が設立されると、同研究所や共同企業体との契約を解除し、同機構と単独契約を結んだ。 投じられた額は平成11~13年度81億円▽14年度78億円▽15年度77・9億円▽16年度77・6億円▽17年度74・8億円▽18年度81・9億円▽19年度211・6億円(予算レベル)。20年度は154億6400万円で、総計約840億円にも上る。 具体的な委託内容は発掘や廃水処理実験、発掘回収処理に伴う排ガス化学剤の外部漏洩(ろうえい)防止など。内閣府は「今年度は処理材構を外したが、これまではノウハウのない内閣府としては処理機構に依存せざるを得ず、機構の要求に応じて予算化するしかなかった。ただ、処理材構に代わる委託企業はまだ決まっていない」(遺棄化学兵器処理担当室)という。 ◇ だが、莫大(ばくだい)な国費を費やしながら、経緯と実態の不透明性への批判は根強い。 遺棄化学兵器の処理問題は、海部内閣時代の平成2年、中国政府から処理・解決を要請されたのが発端。その後宮沢内閣が「他の締約国の領域内に遺棄したすべての化学兵器を廃棄する」などの義務を課した化学兵器禁止条約に調印。平成9年に中国政府も批准した。 そもそも条約批准への疑問もつきまとう。敗戦で中国大陸の旧日本軍は武装解除され、すべての兵器、財産は旧ソ連と中国に没収・接収されたことを受け、遺棄兵器の所有権は旧ソ連と中国に移転したと解釈する説もある。 「日本政府は遺棄化学兵器の所有権がどこにあるのか、基本問題を精査せず条約を批准した」と事業自体を疑問視する声があったが、小渕内閣は「日本政府は条約に従って廃棄の義務を誠実に履行する」として中国と覚書を交わした。日本に化学兵器の処理義務が本当にあるのか、厳密に精査されないまま、事業は継続され、巨額の血税が費やされている。 事業は始まって10年目。化学兵器の処理方法や委託企業は未定だ。内閣府は昨年4月、完了時期を5年間延長したが、関係者には「5年延長しても完了するかどうか微妙」と事業そのものへの不信感も強い。 出口の見えないメガプロジェクトへの国費投下は検証のないまま、際限なく続きそうなのが現状だ。 2008年 04月 17日
(北京週報 2008/4/9) http://www.pekinshuho.com/gjpl/txt/2008-04/09/content_109330.htm 中国外交部の成競業・軍備抑制司長は8日、オランダ・ハーグで開かれた「化学兵器禁止条約」第2回審議総会の一般演説で、化学兵器保有国に対し、困難を克服し、条約の規定通り2012年4月29日を最終期限とする化学兵器の完全な廃棄を確保するよう呼びかけた。新華社のウェブサイト「新華網」が伝えた。 日本に対しては、日本が中国に遺棄した化学兵器の早急で、安全な、徹底的な廃棄を要求。「発掘回収と廃棄準備作業には進展があったが、日本が中国に遺棄した化学兵器は現在に至るまで1発も廃棄されていない。中国は日本に対し、条約上の義務を適切に履行し、投入を強化し、早急に廃棄に着手し、かつ期日内に完了するよう促す」と表明した。 成司長は、核査察制度の改善、化学工業分野の国際交流と協力などの問題についての中国側の立場を詳しく説明した。 さらに「中国は一貫して条約の趣旨と目標を支持し、自国の義務を全面的かつ真摯に履行している。中国は約束を履行するための法整備をたゆまず進め、国と地方に履行管理部門を設置し、全国をカバーし、効果的な管理が行われる履行体制を構築した」と説明。「中国政府は香港・澳門(マカオ)両特別行政区への条約の適用に積極的に尽力している。台湾地区への条約適用の問題も、『1つの中国』原則に従い、積極的かつ実務的にその解決を図っていく」と強調した。 2007年 12月 10日
(中国 07/12/7) http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp200712070343.html 中国に遺棄された毒ガス兵器の処理施設建設をめぐる日中間の交渉で、中国の地元の吉林省敦化市林業局が、周囲の景観が損なわれたとして「景観費」補償の名目で「数千万元(一元は約十五円)」を日本側に新たに要求、交渉が長引く一因となっていることが分かった。中国外交筋が七日、明らかにした。 処理施設が建設される同市ハルバ嶺は山奥で「景観費補償まで求めるのは行き過ぎ」との声が中国外務省内でも出ている。日本側の内閣府遺棄化学兵器処理担当室は「交渉の中身についてはコメントできない」としている。 建設予定地は保安林に指定されているため、用地確保には伐採する森林の補償などにも経費が必要とされる。しかし中国外交筋は「誰も住んでいないところで景観費は筋が通らない。地元に対し、要求を取り下げるか、金額を下げるよう働き掛けている」と話した。中国側は外務省、軍、地元など複数の担当部局の利害が絡み、要求が一本化できていないようだ。 施設は三十万―四十万発と推定される毒ガス兵器を回収後に無害化処理するもので、化学兵器禁止条約に基づいて日本政府がすべての必要な資金、技術を提供する。総工費は約三千億円ともいわれる。 処理の期限は五年延長され二〇一二年。しかし交渉がまとまらないため当初予定されていた施設の年内着工は不可能。同筋は「来年着工しても施設完成は一一年ごろで、一二年までに処理事業を終えるのは困難だろう」と指摘した。 2007年 12月 02日
(産経 07/11/30) http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/071130/crm0711302059042-n1.htm 終戦後、中国大陸で旧日本軍が化学兵器を中国側に引き渡したことを示す文書が、防衛省防衛研究所などに保管されていることが分かった。日本軍が中国で遺棄したことを前提に進められている遺棄化学兵器処理事業は見直しを迫られることになりそうだ。 この事実は、防衛省の関係団体「財団法人ディフェンスリサーチセンター」が外務省の依頼で行った調査資料の中から、ジャーナリストの水間政憲氏が見つけた。調査資料は今年1月、外務省に報告されているが、中身は公表されていない。 それによると、防衛研究所には、「支那方面艦隊引渡目録」と書かれた3点の文書が保管され、いずれも、引き渡した時期、場所、日本側と中国側の責任者名、品目などが記されている。 例えば、昭和21年1月18日の文書では、引き渡し場所は「上海地区」、日本側責任者は上海海軍特別陸戦隊「海軍中尉 古田小作」、中国側(国民政府)は中国海軍陸戦隊「海軍中尉 陳永禄」、品目は「手投涙弾(催涙弾)二一四〇個」とある。他の2点も、引き渡された品目は「手投涙弾」だ。 手投涙弾は通称「みどり」とも言われた非致死性の兵器だが、遺棄化学兵器の処理を求めた化学兵器禁止条約(1997年)に伴う日中覚書(99年)では、日本が全額負担して廃棄すべき遺棄化学兵器に含まれた。 同センターの資料には、山形県のシベリア史料館に保管されている「旧日本軍兵器引継書」の分析結果もあった。水間氏が存在を確認し、政府が調査していた文書だ。そこからは、台湾で、日本側が中国国民政府に「緑筒」「赤筒」などを引き渡したことを示す文書2点が見つかった。 緑筒は防衛研究所の文書にある「手投涙弾」と同じ催涙弾だ。赤筒は「くしゃみガス」とも言われた非致死性化学兵器で、日本が全額負担すべき兵器とされている。 これまでに、台湾で日本側から化学兵器が引き渡された文書が防衛研究所にあることは、雑誌「正論」編集部の取材で明らかになっていたが、中国大陸での引き渡し文書が見つかったのは今回が初めてだ。 中国に残っている化学兵器はすべて旧日本軍が遺棄したものとされ、日本が全額負担しなければならない理由を、外務省は「引き渡したことを証明する書類がない」としてきたが、水間氏の調査により、外務省の主張はますます根拠を失った。 水間氏の調査結果は、1日発売の雑誌「正論」来年1月号で詳しく報告される。 2007年 10月 21日
(産経 07/10/19) 中国で進められている遺棄化学兵器処理事業に対し、東京地検特捜部の捜査のメスが入った。処理事業を国から請け負っていたコンサルタント会社の元社長らが不正に資金を還流させ、会社に損害を与えたとする特別背任容疑である。 この事業には、これまでに683億円もの税金がつぎ込まれたが、政府はその詳細を明らかにしてこなかった。コンサルタント会社に言われるままに予算を計上し、十分なチェックを怠ってきたといわれる。ズサンな会計処理の下で、不正が行われていた疑いが強い。闇の部分にまで踏み込んだ検察当局による徹底解明が待たれる。 内閣府の遺棄化学兵器処理担当室には、防衛省からも化学兵器の専門家が出向している。遅きに失したとはいえ、内閣府は683億円の使途を再チェックし、結果を公表すべきだ。 もともと、この事業は中国側の言い分をほとんど受け入れる形で始められたものである。 中国は平成4年4月に「遺棄化学弾の廃棄責任は日本にある」と表明した。日本はこれを受け、5年1月に化学兵器禁止条約に署名し、7年9月に批准した。その4年後に日中間で覚書が交わされ、日本が処理費用をすべて負担したうえ、将来の事故まで日本が補償することとされた。 これには、宮沢内閣の官房長官と村山内閣の外相を務めた河野洋平氏(現衆院議長)が深くかかわっている。 当初は、旧日本軍は化学兵器などを中国軍や旧ソ連軍に引き渡しており、「遺棄」に当たらないとする見方も政府内にあったが、河野氏は引き渡したことを証明する書類がないとして、中国に有利な処理策を推進した。これは現在の外務省に引き継がれている。 しかし、最近、日本軍が中国軍に化学兵器の「あか筒」「みどり筒」などを引き渡したことを記した書類が防衛省防衛研究所などで見つかり、「書類がない」としてきた外務省や中国側の主張が破綻(はたん)しつつある。 このまま中国の言い分をのみ続けると、日本側の負担は1兆円を超えるといわれる。とても納税者の理解は得られまい。東京地検の強制捜査を機に、福田康夫内閣は遺棄化学兵器処理事業をいったん中断し、内容を精査したうえで出直すべきである。 2007年 10月 21日
(産経 07/10/18) ■巨額税金683億円 チェック素通り 大手建設コンサルタント会社「パシフィックコンサルタンツインターナショナル」(PCI、東京都多摩市)とグループ企業による海外事業をめぐる不正支出疑惑で、東京地検特捜部は17日、特別背任の疑いで、同社のグループ会社など関係先を家宅捜索した。中国での旧日本軍遺棄化学兵器処理をめぐるPCIとグループ会社の不正経理について、特捜部は本格的な実態解明に乗り出した。今後、グループ幹部から事情聴取を進めるとみられる。 捜索を受けたのは、PCIのグループ会社「遺棄化学兵器処理機構」(東京都港区)やPCI元社長(71)の自宅、グループの土木建築会社「パシフィックプログラムマネージメント」(PPM)など。 関係者によると、PCI元社長らは、グループ企業が受注した国の海外事業を、PCIに再委託する際、不正に資金を捻出(ねんしゅつ)して還流させるなどの会計処理を行い、会社に損害を与えた疑いが持たれている。 遺棄化学兵器処理機構は、旧日本軍が中国に遺棄した化学兵器の処理事業の総合管理業務を、国から随意契約で受注。PCIは平成16、17年、機構から約1億円で委託を受けた業務の一部を、PPMに再度下請けに発注した。 PPMはさらに複数の会社に下請け発注しているが、その際に約1億円の使途不明金があり、グループ幹部らの側に還流している可能性があるという。 同グループは「パシフィックコンサルタンツグループ」という名称の持ち株会社を軸に約20社で構成。PCIは中核企業で、ODAなど海外事業を手がけている。 ◆◇◆◇◆◇◆ 中国での遺棄化学兵器処理事業にはこれまで、今年度予算を含めると総額約683億円にのぼる巨額の資金が投じられているが、その実態はベールに包まれている。なぜなら国はPCI側に言われるまま予算を計上し、使途については厳密なチェックを怠ってきたからだ。 処理事業を取り仕切っているのは内閣府の遺棄化学兵器処理担当室。PCIは平成11年度から、大手コンサルタント会社「日揮」(東京都千代田区)と共同企業体を組み、内閣府と現地調査などの委託契約を結んだ。内閣府は同時期、並行して外務省の外郭団体「日本国際問題研究所」とも調査などの委託契約を結んでいたが、16年4月、PCIグループの子会社「遺棄化学兵器処理機構」が設立されると、同研究所や共同企業体との契約を解除、処理機構と単独契約を結び、調査や現地での機材確保などを一手にまかせてきた。 「遺棄化学兵器は50年間放置されていて危険な状態にある。安全かつ迅速に処理するには、専門的な知識やノウハウが必要だった」。内閣府はPCI側に事業を発注した理由をそう語る。 内閣府は11年度以降、同事業に投じられた資金が683億円にのぼることは公表しているが、使途の明細は明らかにしていない。PCI側も「内閣府との契約内容は守秘義務が課せられているため説明できない」としている。 本紙が独自に入手した業務委託契約書や関係者の証言によると、11年度から15年度までの日揮とPCIの共同企業体への委託内容は(1)発掘や日中専門家会合への支援(2)環境基準調査(3)廃水処理実験-など。13年度は2件、15年度は15件で、総額27億5700万円の委託料が支払われている。 処理機構がスタートした16年度以降は3年間で約234億3000万円が投じられ、今年度も211億6000万円の予算が組まれた。 国民の税金の使途を明らかにしないまま、巨額の資金が投じられ続けたことについて、遺棄化学兵器担当室は「ノウハウのない内閣府としては処理機構に依存せざるを得ず、処理機構の要求によって予算をつけるほかない」と説明。20年度も概算で40億円を要求する方針だという。 こうした国の姿勢に対し、関係者は「(処理機構の)報告書の明細はいい加減で、きちんとチェックすれば(内閣府でも)分かるはずだ」と批判。処理事業への国家予算の支出は「現地での人件費や施設費などを含めると、最終的には総額1兆円規模にのぼる」という指摘もある。 今回の事件で、委託金の一部が流用、着服されていた疑いが強まったことで、国には事業の見直しも含めたチェック機能の強化が求められる。(宮本雅史) ◆◇◆◇◆◇◆ 【用語解説】遺棄化学兵器 旧日本軍が中国に遺棄したとされる化学兵器。1950年代から60年代にかけて中国側が2つの砲弾坑に埋設した。大部分は吉林省延辺朝鮮族自治州敦化市の南東約43キロのハルバ嶺に埋められている。これまでに日本側が行った現地調査では、兵器の大部分はきい弾(びらん剤)とあか弾(くしゃみ剤)で、数は30~40万発と推定されている。日本政府が全額費用負担し、発掘・回収して無毒化する事業を進めている。 2007年 08月 25日
(産経 07/8/25) 中国にある旧日本軍の化学弾の処理をめぐり、日本政府が今年度予算を含め、投入する国費は累計約683億円に上る。さらに今後建設される発掘回収施設費は940億円。無害化処理施設の建設費は1000億円を超えるとみられる。 現地での人件費や施設維持費などがかさみ、「日本の持ち出しは総額1兆円規模になる」と専門家は分析する。 この遺棄したとされる化学兵器の処理問題ほど、重要な条件が不明なまま、中国の言い分を受け入れた例は類をみないと指摘されている。 ある外務省OBは「中国にとって旧日本軍の化学兵器処理は戦後最大の対日政治工作の成果だ」と語る。 1997年に発効した化学兵器禁止条約によれば、遺棄化学兵器とは「1925年以降、いずれかの国が、他の国の領域内に当該他の国の同意を得ないで遺棄した化学兵器」と明記されている。 敗戦によって満州を含む中国大陸の旧日本軍は降伏し、すべての兵器、施設、財産は旧ソ連と中国に没収、接収され、所有権は両国に移転した。 また、いったん包括的に没収したあと、中国に旧日本軍の化学弾を残したのはソ連である。 ここから導き出されるのは二つの疑問である。 一つは、武装解除や占領による没収は、当該国の同意を得たことにならないのか。もう一つはソ連に条約上の処理義務は生じないのか。 こうした旧日本軍化学弾の所有権はどこにあるか、という問題こそ、日本政府は詰めなければならないはずだ。 ところが、外務省は所有権が日中いずれにあるのかを精査した形跡はない。ロシア政府に対しても情報や資料の提供を求めていない。 95年9月、この条約に批准した当時の村山富市首相は「遺棄した方の国にその処理の責任がある。誠実に実行するのは当然だ」と国会で答弁した。河野洋平外相は「外国が遺したものを含めて日本が責任をもって処理する」とまで言い切った。河野氏らは引き渡したことを証明した書類がないとして、中国に有利な化学兵器処理策を推進したのである。 日中両国は99年7月、日本側が遺棄処理費の全額を負担することなどを盛り込んだ覚書を交わした。将来の事故まで日本が補償することとされた。初めから日本に責任ありきという結論があったがゆえに政府は所有権問題に背を向けてきたといわざるを得ない。 だが、化学弾を引き渡したという証言が、外務省による遺棄化学兵器に関する旧日本軍兵士16人への聞き取り調査で明らかになった。 2004年3月に受け取った報告書には「終戦時は黒龍江省牡丹江市付近に駐屯し、鏡泊湖付近の平地で(ソ連軍の)武装解除に応じ、他の鉄砲や弾薬とともに数千発の化学弾を引き渡した」という元軍曹、二本柳茂氏の証言が盛り込まれていたからだ。 ただ外務省はこの報告書を公表していない。「ソ連軍と引き渡しの文書を交わしたという証言ではないからだ」(中国課)と説明する。 遺棄化学兵器の処理は、国の名誉にかかわる問題だ。外務省が事実関係を明らかにしなければ、国益は損なわれていくだけだ。処理経費の一部が、中国軍の近代化に寄与する可能性もある。 対中迎合外交のつけを日本国民は子々孫々までたっぷり払わされることになるのだろうか。 ◆◇◆◇◆◇◆ ≪「日本製を夜間にころがした」≫ 8月14日、8人の陸上自衛官が中国吉林省ハルバ嶺近くの敦化(とんか)に飛んだ。自衛官たちは9月18日まで、埋められている旧日本軍の化学兵器の発掘、回収作業に汗を流す。 一方で旧日本軍の化学弾が発掘された同じ場所から他国の砲弾がみつかっている。2004年9月に陸上自衛官が黒龍江省寧安(ねいあん)市内で行った発掘、回収作業では化学兵器、通常砲弾、地雷、小銃弾など2000発が混在して発見されたが、旧日本軍のものは89発にすぎなかった。 中国に派遣されたことがある自衛官は「発掘した通常弾、化学弾の中には(弾には必ず巻かれている)銅帯が抜き取られた弾がいくつもあった」と振り返る。中国軍が日本から没収した化学弾から、カネになる銅だけを奪って地中に埋めたに違いないと、軍事専門家は解説する。 処理作業に携わった政府関係者は「朝、発掘、回収予定地に着いたら、昨夜はなかった日本製の化学弾ひとつが現場にころがしてあった。どこかに保管されてあったものだ」とも語る。 これらは、化学兵器禁止条約が問題にする「同意を得ずに遺棄された化学兵器」に当たらないことを示していよう。 昨年春、山形県にある全国抑留者補償協議会(全抑協)のシベリア史料館に、中国で旧日本軍が武装解除の際に引き渡した武器・弾薬の詳細を記した「兵器引継書」約600冊が残っていることが明らかになった。 90年代に故斎藤六郎・元全抑協会長がロシア各地の公文書館などから合法的に持ち帰ったものだ。引継書に記された兵器移交目録の「受者」には、「陸軍少将 李盛宗」「軍政部特派員 楊仲平」などと国民党軍の責任者の身分、署名、捺印(なついん)があった。 これを受けて昨年5月12日の衆院内閣委員会で戸井田徹議員(自民党)が政府の対応をただした。安倍晋三官房長官(当時)は「この資料は精査すべき内容だ。政府としてもしかるべき調査をする」と答弁した。 その直後、戸井田氏の議員会館の事務所に外務省の中国課長が飛び込んで、こう言い放った。 「(引継書が)600冊出てきたところで全容は分かりませんよ」。 戸井田氏は「あなたはどこの国の役人だ」といさめたという。 外務省は結局、昨年10月、シベリア史料館の600冊の引継書の約3分の1を写真撮影し、民間の専門家に判読を委託することになった。 また、今になって、中国の言い分がいかに科学的根拠を欠いているかがわかってきた。 旧日本軍が遺棄したとされる化学兵器の総数について、中国が主張していたのは「200万発」。当初の日本政府説明は「70万発」。それが埋設地の吉林省ハルバ嶺で行った日本側による磁気調査の結果、30万-40万発にとどまることが後で判明した。 日本がこれまで発掘、回収した旧日本軍の化学兵器は約3万8000発。推定埋蔵数の1割にすぎない。条約で義務付けられた処理期限は2012年4月までだ。それまでに処理作業が完了することは難しい。 旧日本軍の化学弾の所有権を不明にしたまま、合意を急いだことが大きな禍根を残している。 < 前のページ次のページ >
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