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2009年 06月 12日
(産経 2009/6/11) 2020年までに日本が目指す温室効果ガスの排出削減の中期目標が、05年比で「15%減」に決まった。麻生太郎首相が裁断した。 世界に先駆けて省エネ努力を行ってきた日本の削減余地は、他国ほど多くない。環境産業分野の成長は期待できるにしても、この中期目標は国の経済と国民生活にかなりの苦痛を強いる数値である。 現行の京都議定書による日本の実質削減義務は、森林吸収量などを適用すると0・6%(1990年比)だ。しかし、これでさえ難しいのが現実である。それより1ケタ以上多い削減を行うには、失業率の悪化や家庭の可処分所得の減少が避けられない。 日本に過酷な重荷がのしかかる中期目標だが、身を削る思いで達成しても地球の温暖化防止には、焼け石に水であるのがむなしい。もともと日本の排出総量が少ないからである。 今後の課題は、今年12月にデンマークで開かれる気候変動防止の締約国会議(COP15)での国際交渉だ。ポスト京都の次期枠組みが決まるこの会議で、日本の中期目標がそのまま義務化されると大変なことになる。下方に数値の幅を広げ、弾力性を持たせることが不可欠だ。 中期目標の設定は、社会の低炭素化を進めるためである。現実に目をつむり、単純に数値の高さのみを競うことではないはずだ。 温暖化を食い止めるための最も実効的な手立ては、米国と中国の参加である。両国で世界の排出量の40%を占めている。しかも削減余地が大きいので、気温上昇の抑制効果は非常に高い。 国内には、より大幅な削減を主張する声もある。日本が高い目標を設定することで、中国などを削減の取り組みに誘い込めるのではないかという期待だが、地球益と各国の国益が交錯する温暖化防止交渉はそれほど甘くない。 日本の実績を踏まえれば「2005年比4%減」が妥当な目標であった。それをあえて15%減にしたのだから未削減国に対する実施要請はこれまで以上に重要だ。 また、将来の10年間には、柏崎刈羽原発を止めたような地震も再来し得る。原発が停止すれば削減への影響は大だ。新議定書には免責条項を盛り込むべきである。 そうした主張もできなければ、他国の「言いなり国家」として世界の笑いものになるだけだ。 2009年 06月 12日
(産経 2009/6/11) 2020(平成32)年の温室効果ガス削減目標(中期目標)について、麻生太郎首相が欧米を“真水(国内削減分)”で上回る目標値設定を決断した背景には、京都議定書に続く13年以降の地球温暖化対策の枠組み(ポスト京都)を決める国際交渉で主導権を確保したいという思惑がある。「リーダーシップを示す」と強調した麻生首相の発言からも意欲がくみ取れる。 省エネで世界の先頭を走る日本がさらに二酸化炭素(CO2)を減らそうとすると他国より多く費用がかかる。その不公平感を取り除くため、産業界などは「限界削減費用」(CO2を追加で1トン削減するために必要な費用)と呼ぶ指標を頼りに、欧米と同水準の削減努力である05年比4%減を支持した。 厳しい国際競争にさらされる産業界にとって「4%減」は生命線の位置づけだった。国内経済への影響を懸念しながらも、それを大きく超える決断に踏み切ったのは「主導権を握れなかった京都議定書の二の舞いを避けたい」(政府の交渉担当者)との強い思いがあったからだ。 EUの中期目標は13%減だが、先進国が同水準の削減を約束すれば削減幅をさらに拡大する姿勢を表明。米国は長年、温暖化対策に消極的とみられていたが、オバマ新政権は方針転換を鮮明にしている。 日本は直接対決を避けて“真水”で勝負に出ることで、排出枠の購入などが加算された目標値を掲げる欧米との「姿勢の違い」をアピールできると読んだわけだ。 ただ、今年12月にコペンハーゲンで開かれる国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)に向けた交渉で、どこまで日本が存在感を強められるかは現時点では不透明だ。 日本総合研究所調査部の藤波匠主任研究員は「リーダーシップを発揮するには物足りない中期目標」とみる。総排出量の4割超を占める米中印3カ国を加えた次期枠組みの交渉を主導するためには「15%減を出発台に、途上国支援などのオプションを上積みし交渉を有利に運ぶ外交力が問われる」と指摘する。 日本は、鉄や道路交通など各分野に精通した実務専門家が必要な技術と資金をマッチングさせる途上国支援構想や原子力発電技術など“オプション”の外交カードを持つ。削減幅をこれ以上、上積みしにくい日本はカードさばきの腕が試されることになる。 2009年 06月 12日
(産経 2009/6/11) 若き日の林忠崇(中公新書・中村彰彦著「脱藩大名の戊辰戦争」から) ■高楊枝と“桐の下駄” ◆筋を通す意地や信念 「武士は食わねど高楊枝(ようじ)」という言葉もほとんど死語と化したかもしれない。しかし、政治には筋を通す意地や主義主張への信念こそ大事であり、損得や“風”を勘定して政界を遊泳する人はどこか尊敬されないものだ。長い目で見ればブレない政治家の生き方に共感する有権者も多い。 郵政解散時に選挙区へ公認対立候補を立てられ、落選した若い政治家もいる。自民党を離れて4年間、節を曲げずに「武士は食わねど高楊枝」と気張った元議員の返り咲きを期待する声も高い。 幕末にも筋を通した武士(もののふ)は少なくない。なかでも脱藩大名と謳(うた)われた林忠崇は、その気概と信念で他を圧している。今の千葉県にあった請西(じょうざい)1万石の領地を朝廷に返上し、自ら脱藩浪人となって徳川の恩顧に応えるべく、新政府軍と戦った稀有(けう)の人物である。 大名自ら脱藩した例は彼以外になく、いまや浪人となった家臣団とともに一藩あげて徳川家のために立ち上がったのだ。死を予期して明治元年に詠んだ辞世は凄絶(せいぜつ)である。 「真心のあるかなきかはほふりだす腹の血潮の色にこそ知れ」 林家は小禄とはいえ、正月元旦に徳川将軍より最初に盃(さかずき)を賜る名誉の家柄であった。「丸のうち三つ頭左巴に下一文字」の家紋は丸で賜盃、一文字で一番目を強調している。それは「献兎賜盃(けんとしはい)」なる儀式と関係していた。 林家の祖先が貧窮を極めながら、徳川(松平)家の遠祖のために元旦の雪の野で兎(うさぎ)を捕まえ、麦飯と兎肉の吸い物で供応したことを歴代の将軍が徳としたからだ。 ◆義と誇りかけ立ち上がる 加えて林忠崇は、文武両道にすぐれ、将来の幕府を担う譜代大名として嘱目(しょくもく)された逸材であり、徳川を絶家にしようとする新政府の姦計(かんけい)を憎んだのであろう。 義と誇りをかけて立ち上がった忠崇の颯爽(さっそう)とした姿は、中村彰彦氏の小説『遊撃隊始末』の冒頭にもリアルに描かれている。 忠崇の凄(すご)みは、大名として家臣団への責任感や反抗への戦略眼に恵まれていた点にもある。頼った仙台藩も新政府に恭順降伏すると、折から徳川家の存続と最後の将軍慶喜の命が保障されたので、これ以上の抵抗は私戦にすぎないと判断した。これは凡(ぼん)な発想ではない。降伏した忠崇は切腹こそ免れたものの、甥(おい)の忠弘に家を相続させても旧大名としての華族礼遇を与えられなかった。こうして忠崇は、旧大名として政治家や官僚に転じる道を封じられてしまう。 しかし、人間としての本当の凄みはここから始まる。明治5(1872)年に赦免された忠崇は、とても名門の末裔(まつえい)とは思えぬ人生を送る。まず旧領地で鍬(くわ)鋤(すき)を振るう開拓農民となり、東京府の学務課下級官吏、函館の物産商の番頭、大阪府の役所書記などの職を20年以上も転々とした。普通の没落士族でもつらい有為転変である。 ◆世襲なげうった心意気 忠崇のたくましい精神力には驚くほかない。これだけの人生体験をもった旧大名が政治家や官僚になっていたなら、多彩な経験をいかしてどれほどの業績を挙げたであろうか。 天道是か非か、である。忠崇は、どの時代の政治家が望んでも得られない94歳の長寿をまっとうした。雅号は一夢。人生はまことに一炊の夢のようだというのだ。 彼の悟達は晩年に詠んだ句がよく示している。 「琴となり下駄となるのも桐の運」 いま世襲議員の功罪がしきりに取り沙汰(ざた)されている。社会で堅実な下積み経験をもたず、官庁や企業の採用試験も受けずに、20代で家業として政治家を継ぐ若者には、世襲大名を擲(なげう)った忠崇の心意気とまではいわぬが、せめて一時でも“桐の下駄”となる試練だけは味わってほしいものだ。(やまうち まさゆき) ◇ 【プロフィル】林忠崇 はやし・ただたか 嘉永元(1848)年7月、上総請西(かずさじょうざい)=千葉県木更津市=藩主の五男として生まれる。20歳で家督を継ぎ藩主となる。林家はわずか1万石ながら、若年寄など徳川幕府の要職を務める家柄だったため、忠崇も忠誠心に富んでいた。戊辰戦争で、伊庭(いば)八郎らが率いた旧幕府軍の遊撃隊から協力を求められると、忠崇は徳川家や請西藩領民に迷惑をかけまいと脱藩し、出陣したが、敗北。新政府は脱藩を反逆とみなし、忠崇は江戸唐津藩邸に幽閉された。明治5(1872)年、釈放され、帰農した。同26(1893)年、林家の家名復興の嘆願により、華族の一員になった。その後は宮内省や日光東照宮に勤めたが、昭和16(1941)年、都内の次女宅で死去。94歳だった。最後の大名ともされる。 2009年 06月 12日
(産経 2009/6/8) 政府機関などが定期的に公表する統計数値は、政治や行政が動く契機となる。もう10年ほども前になるが、警察庁が公表した平成10年の自殺者数は衝撃を与えた。前年の山一証券などの経営破綻(はたん)で表面化した金融危機が深まったこの年、自殺者は8400人以上も増え、3万2863人に達した。 その後、危機が収束し、景気が回復しても自殺者の目立った減少が見られず、国は対策に乗り出す。18年に自殺対策基本法を制定し、大綱をまとめた。それでも、自殺者が3万人を割ることはなく、昨年は3万2249人が自ら命を絶った。 昨年の自殺者のうち、遺書などで原因や動機が特定できる2万3490人を調べたところ、失業、就職失敗、事業不振など経済・生活問題による自殺は3割を超えた。世界経済危機の影響も大きいとみられ、今年はさらなる増加が懸念される。 警察庁の統計は、原因・動機を50項目以上に分類し、自殺者の心情をきめ細かくすくおうとする姿勢がうかがわれる。 それでも、統計には限界がある。「自殺者自身がどこまで本当の理由を遺書に認(したた)めるか」という根本的な問題はおくとしても、「就職の失敗」や「失業」に悩む人が多い中、なぜ彼らは死を選んだのかを探るには統計から踏み込まねばならない。 投身自殺が多発する和歌山県白浜町の三段壁で自殺志願者を保護し続け、自殺の際(きわ)まで追い込まれた人と数多く触れているNPO「白浜レスキューネットワーク」の藤藪庸一代表(36)は、今後、30代と60代の自殺が一段と増えるのではないか、と心配している。 「保護した30代の方から最近は目標がない、生きる意味がない、ということをよく聞く」。「職がない」「借金がきつい」など具体的な理由を語る他の世代に比べて、抽象的な話をする人が多いというのだ。 20代はアルバイト生活でも、お金があって、仲間がいれば楽しくやっていけたが、30代になると、周囲の目が厳しくなり、求人の内容も限られてくる。 「何かのきっかけで現実を突きつけられたとき、気持ちを奮い立たせるのでなく、もう自分は取り返しのつかない場所にいると考えてしまうようだ」。そして、生きる意味はないと決めつけ、あきらめてしまう。 一方、60代は家族のため、会社のためと懸命に働いた時期が終わるころだ。子は独立し、伴侶に先立たれることもある。 「すると『もう十分に生きた。自分で生きるか死ぬかを決められるのは人間だけ』といった哲学的なことを考え始める。生きるんだ、死にたくない、という感情を思想的なもので覆い、例えば病気になると、迷惑をかけられない、家族のために死ぬ、となってしまう」 なぜ、こんな考え方の人が増えているのか、性急な結論づけは避けたい。一人一人がこの問いかけに答える努力を続けなければならないものだからだ。 統計では捨象せざるを得ない、こうした思考の迷路をたどることが自殺との対峙(たいじ)には必要なのだろう。政治や行政が経済的・社会的安全網の充実を図るのはいうまでもないにせよ、「格差を生み、社会の荒廃を生んだグローバル経済が諸悪の根源」と切って捨ててみせても答えは出ない。 2009年 06月 12日
佐藤栄作内閣の末期だから40年近くも昔の話。「国連は田舎の信用組合だ」と言い放った西村直己という防衛庁長官がいた。当時は元気だった社会党が「国連軽視もはなはだしい」と騒ぎ、ほどなくクビになった。 国連は、わずかなカネでメンバーになれ、自分の利益ばかり主張してまとまらない「田舎の信用組合」みたいなものだ、というのが西村発言の趣旨だ。21世紀の今、そんな意味で信用組合を引き合いに出す政治家はいまい。では、国連は信用組合並みに進化しただろうか。 北朝鮮が2回目の核実験をしたと発表してから2週間以上たつが、国連の動きはあまりにも鈍かった。安全保障理事会はようやく決議案の最終合意にたどりつくようだが、足を引っ張ったのはおなじみの中国だ。 中国が最も嫌がっているのは、北朝鮮船舶への臨検(貨物検査)義務化の決議盛り込みだという。臨検を義務付ければ、「武力衝突を招きかねない」からだそうだが、それこそ北朝鮮の思うつぼだ。この期に及んでまだ金正日ファミリーを甘やかそうとしている。 もちろん、日本には厳しい。崔天凱駐日大使は、日本国内に出始めた敵基地攻撃論や核武装論について「日本の正式な立場、政策に影響を及ぼさないよう期待する」と牽制(けんせい)した。核兵器を持ち、世界第2位の軍事費を湯水のごとく使って軍拡に懸命なのにぬけぬけとよく言えるものだ。 実は、西村発言には次のような前段があった。「中共が入ってくれば国連はますます悪くなるかもしれない」。当時は、安保理常任理事国だった中華民国(台湾)が国連を追われ、中華人民共和国(中共)が取って代わった直後だ。「西村予言」は当たったか。小欄の答えは言わずもがなだろう。 |
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