◆【話の肖像画】いま幸之助なら(中)
PHP総合研究所社長・江口克彦(69)
(産経 2009/4/8)
■そっと情をつける経営
--松下幸之助氏の時代と比べ、いまの企業経営で忘れられていることは
江口 それは「情」のある経営でしょうね。
--具体的には
江口 幸之助がよく言っていたのは、“そっと情をつけや”という経営方針でした。ある重役に今季限り退任してもらう場面がありました。私に重役を呼んでほしいと。幸之助は退任について告げると、「君、奥さん元気か、家族何人か、生活できるか」と気遣うことも忘れませんでした。重役も腹を立てず、“あったかい幸之助さん”という気持ちをもったようです。
--有名な熱海会談は
江口 昭和39年、東京五輪の年はテレビが爆発的に売れたんですが、販売店はその分、経営的に苦しい事態に陥りました。販売店の店主たちが熱海に集まり、本社に何とかしてほしいと直訴した。互いに批判しあっていたが、会期を延長して3日目、会長の幸之助が「悪いのは本社でした」と突然はらはらと涙を流し始めた。「昔、電球を(販売店に)売ってほしいと頼みに行って、売ってくれた皆さんのことを思いだしました。私どもは文句を言える義理はありません」と頭を下げると、店主も一緒に泣いたそうです。人間的な結束が強まり、新しい販売制度が生み出されるきっかけの場となった。
--劇的な場面ですね
江口 幸之助が反省せず、策を講じなかったら、いまのパナソニックグループがあったかどうか。
--人間性重視の経営
江口 いま、コンプライアンスという言葉が全盛です。幸之助なら間違いなく、法令順守という意味のこの言葉を嫌っていたはず。法律を守るのは最低限することで、彼なら“ヒューマライアンス”というような人間性重視という方針を打ち出したのではないか。コンプライアンスだけでは守りの経営に陥りやすく、不況から脱する活力は生まれにくいでしょうね。

