◆【話の肖像画】ものづくりが日本を救う(下)
岡野工業社長・岡野雅行(76)
(産経 2009/4/23)
■慌てず、焦らず、あきらめず
--これから、日本はどうしたらいいですか
岡野 やはり原点に戻り、一人一人まっとうな道でまっとうに生きるということかな。
--まっとうな道と生き方
岡野 他人さまや社会のお役に立ち、喜ばれる仕事に精を出し、家庭を大事に誠実に生きるってことだよ。
オレはただの町工場のおやじだけど、オレの注射針で、毎日毎日、インスリンの注射で苦しんでいた糖尿病の小学生から「ありがとう」といわれたときは本当にうれしかった。人生で最高に感動した瞬間だったな。
--いい話です
岡野 それはやはりおやじとお袋のおかげだな。
人によって違うだろうけど、オレの場合、小さいときからお袋に「お前は勉強できないんだから手に職をつけろ」っていわれてね。悪ガキで、今の学制なら中学中退のオレが、おやじの跡を継いで職人になれた。うちのおやじは寡黙でまじめな男だったけどオレはそんな両親がいたから一人前になれたんだ。だから今でもおやじの遺言を守ってるよ。
--遺言?
岡野 国は信用するな、銀行はアテにするな、保険に入るな、他人の保証人になるな、会社は大きくするな-の5つ。
他人をアテにせず、まず自分がしっかりしろっていう教えだろう。だから親ってえのはただ勉強、勉強って言うんじゃなく、何に向いているのか、子供の能力を見つけてやることが大事なんだよ。
--今の時代は難しい
岡野 そんなことはない。それは今の親が悪い。シッカリしていないからできないんだよ。親がちゃんと道を敷いてやらなきゃダメだよ。子供は遊びでも何でもいろんなものに興味を示すし、向かないものはすぐ飽きる。だから子供が選んだものは応援するんだ。子供は、興味のあることは誰でも夢中になり自分から勉強するだろう。「鉄は熱いうちに打て」って。
--確かに
岡野 それには何でもそうだけど、何事も「慌てず、焦らず、あきらめず」、地べたに足をしっかり踏ん張り、まじめにやれば、必ずいい結果が出るって。仕事だっていい仕事をすれば、次にまたいい仕事がくる。どんなに迷い失敗したって、最後に成功すればいいんだから。