◆「つくる会」 常識的な採択結果だ
中学生が来春から使う教科書の採択結果がまとまった。「新
しい歴史教科書をつくる会」主導の歴史教科書は0・4%、公
民教科書は0・2%だった。
「つくる会」の扶桑社版教科書は4年前に初めて検定に合格
し、教室で使われ始めた。今回が2度目の検定合格と採択であ
る。
「つくる会」は、植民地支配や侵略の実態を見つめようとす
ることを自虐史観と批判してきた。4年前の歴史教科書では、
たとえば、戦前の教育勅語の全文を賛美するかのように掲載し
ていた。
今回の教科書は、主張を和らげ、教室で使いやすいようにす
る配慮が感じられた。検定意見を受け入れて124カ所を修正
した結果、抵抗感も減った。
検定に合格した後、中山文部科学相は「結構バランスがとれ
ているのではないか」と国会で答弁した。
こうした内容の変化に加え、閣僚発言も追い風になったのだ
ろう。採択率は前回よりも上がった。とはいえ、「つくる会」
が目標とした10%には遠く及ばない数字である。
私たちは教科書について「色々なものがあった方がいい」「
検定は出来るだけ控えめにすべきだ」と考えている。しかし、
「つくる会」の教科書は、改善されたとはいえ、やはり教室で
使うにはふさわしくない、と主張してきた。歴史の光と影、自
分の国と他の国の扱いに、依然としてバランスを欠いているか
らだ。
子どもたちが自分の国に誇りを持てるようにと願うのは当然
のことだ。しかし、日本を大切に思うなら、他国の人が自分の
国を思う心も尊重すべきだ。
「つくる会」は先に自分たちで採択結果を集計した際に、目
標を下回ったことについて「残念な結果だが、採択の俎上(そ
じょう)に必ずのぼっており、きわめて高く評価されたと考え
ている」と述べた。
しかし、1%にも満たない採択率になったことは、なおも「
つくる会」の歴史観には抵抗が強いということだろう。歴史を
見るにはバランス感覚が必要だということが、各地の教育委員
会に常識として定着しているといえるのではないか。
教科書の採択権は教育委員会にある。だが、実際に教科書を
使うのは教師と生徒であり、教科の内容を熟知しているのも担
当の教師だ。多くの教育委員会が現場の声を聞いてきた。その
結果、ほとんど選ばれなかったことは、現場でも反発が根強い
ことを示している。
今回、気になったのは文科省の動きだ。教科書採択にあたっ
て、「外部からの働きかけ」を排除することを強調し、教師や
保護者の意向を反映させることには後ろ向きだった。
97年の規制緩和に関する閣議決定は、学校単位の採択の実
現に向けて検討する必要があるとし、教科書採択に教師の意向
を反映させるよう促している。
教育現場の声をもっとよく聞くようにする。それが次の採択
で、文科省に課せられた宿題である。