◆ソウル・黒田勝弘 北の体制を拒否できるか
産経新聞 17・10・8
三年前の大統領選で革新系の盧武鉉政権が誕生したとき、筆者は
韓国の雑誌に「五年後は民主労働党政権で十年後は朝鮮労働党政権
かもしれない」と書いたことがある。あの時、親・北朝鮮の社会主
義政党である民主労働党の候補がテレビなどで堂々とその主張を展
開し、人気だったからだ。韓国政治の左傾化、親・北朝鮮化の流れ
に対する皮肉と懸念の意味でそう書いたのだが、もう一つ、韓国で
こんなことも書いたりしゃべったりしている。
近未来において、もし南北間で連邦制なり国家連合が実現し(二
〇〇〇年の南北共同宣言にはそのような展望が書かれている)、そ
の結果、南北統一議会のようなものができたとする。そこで北朝鮮
側が「民族の代表者として金正日将軍様を選ぼう」と提案した場合、
どうなるか。
統一議会は南北が人口比例で代議員を出すので南から百人、北か
ら五十人が出席する。北は少数だから北の案は当然、否決されると
思いきや、実際は南-韓国側から北の案に賛成する者が二十五人以
上出て北の案は採択される。その結果、金正日将軍様が「南北統一
の元首」に就任するというわけだ。
政治的に北は一枚岩だが、南は与野党や左翼・右翼、親北・反北
で対立し終始、もめている。南-韓国で近未来に“親北勢力”が2
5%以上ということは十分予想の範囲である。いや、最近の韓国の
政治的風景を見ると、もうそうなっているのかもしれない。
韓国の小学校では今、「統一教育」と称して「北とは仲良く」
「北が貧しいのはアメリカにいじめられているため」などといった
教育がなされている。昔は「金日成」というと子供たちまで「ナッ
プンノム(悪いヤツ!)」といっていたが、今や「金正日」をそう
いう子はいない。聞かれると「いい人」という子供さえ出てきた。
マスコミもテレビを中心に「金正日批判」や体制批判は今やタブ
ーに等しい。それをやると北朝鮮取材で入れてもらえないからでも
あるが。「拉致問題」以前の大方の日本マスコミと同じだ。
最近の韓国における話題の“親北現象”を二件紹介する。いずれ
も大学教授がからんでいる。
一人はタレント教授として有名な金容沃・元高麗大教授で、教育
テレビ「ドキュメンタリー・韓国独立運動史」で金日成の抗日活動
を語りながら、北朝鮮が後に作り上げた政治宣伝物である「白頭山
の木々に刻まれた抗日革命スローガン」をそのまま信じて紹介して
いる。テレビ哲学講座などで人気の教授だけに、影響は大きい。
もう一人は反米・親北発言で以前から物議をかもしている姜禎求・
東国大教授。最近、「朝鮮戦争は南北統一戦争であり米国の介入で
妨害された」といった趣旨の公開発言が問題になっている。そして
保守派サイドなどから国家保安法違反として法的処罰を求める声が
出ている一方、「学問・思想の自由」を理由にマスコミや市民団体
などの間で擁護論が起きている。
ところが今年春、「韓国にとって日本の統治は(ロシアではなく
て)幸いだった」と日本の雑誌に“親日擁護”の論文を寄稿した大
学名誉教授については「学問・思想の自由」を求める声はまったく
なかった。彼はマスコミや市民団体などの袋だたきで社会から“抹
殺”されてしまった。
つまり親北擁護で先頭に立つマスコミや市民団体が、日本がらみ
では「学問・思想の自由」など知らん顔なのだ。「民主化勢力」と
いわれた親北・左派勢力の偽善あるいは偽装ぶりは、韓国における
過去の独裁や人権問題では執拗(しつよう)に非難を続けながら、
北朝鮮で現在進行中の独裁や人権問題には知らん顔ということにも
うかがわれる。
ところがさらに興味深いことには、今回話題の姜教授や、反米・
親北論調で知られた元ハンギョレ新聞論説主幹の鄭淵珠・現KBS
(韓国放送公社)社長もそうだが、子供はちゃんと米国に住まわせ
ているのだ。こんな反米・親北知識人はほかにも結構いるというが、
反米・親北をあおりながらいざとなると子供のいる米国へ、という
のだろうか。まさか。
その意味では女子学生時代に平壌に“密航”し、「統一の花」な
どといって英雄視された林秀卿さんなど反米・親北派としてはかわ
いい。先ごろ彼女の小学三年生になる息子がフィリピンで水死した
というニュースがあった。英語の勉強でフィリピンに留学させてい
たという。息子の英語留学がフィリピンというのには理由があった
だろう。ただ彼女の場合、子供を米国に送らなかったことだけは間
違いない。

