◆【外信コラム】台湾有情 日本人を祭る廟
あちらこちらの廟や祠(ほこら)に「日本人」が静かに祭られてい
る地など、日本を除けば世界で台湾をおいて他にあるまい。
嘉義県東石郷の副瀬富安宮では、日本統治時代の明治三十六(一九
〇三)年にこの村で亡くなった森川清治巡査を今も祭っている。学校
をつくり、村の子供に読み書きソロバンや歌を教え、衛生環境の整備
まで身を粉にして働いた森川巡査の姿を、村人は忘れられなかったと
いう。
台南市同安路の鎮安堂飛虎将軍廟。昭和十九(一九四四)年に村に
来襲した米軍機の迎撃に向かった杉浦茂峰少尉のゼロ戦が被弾。村に
墜落しそうになった。しかし杉浦少尉はパラシュート脱出を選ばず、
機首を立て直して畑に突っ込み、村人に被害を与えなかった。
一部始終を見ていた村人は、自分の命よりも村人の安全を思った杉
浦少尉を神とあがめ、廟に祭った。
高雄市紅毛港の保安堂では、名も知らぬ日本軍の艦長のものとされ
る遺骨が祭られている。日本軍艦の模型をご神体として、漁民たちが
海の安全や大漁を願って朝晩に祝詞の「軍艦マーチ」にあわせてお祈
りをしている。漁民たちは実に真剣だ。
戦後六十年を経ても台湾の人たちが手を合わせる廟や祠。日本人こ
そ感謝せねばならない。