◆貴族はなぜ戦闘の最前線に立つか
◆貴族はなぜ戦闘の最前線に立つか
子孫の繁栄あっての優者の責務 動物行動学研究家・竹内久美子
平成17年5月5日(木) 産経新聞
≪貴族の死亡率は平均の倍≫
「ノブレス・オブリージュ」という言葉がある。高い身分にあったり、経済的に恵まれている者が、その有利な立場の引き換えとして、身分の低い者や貧しい者のために尽くす、その義務のことである。誰しも思い浮かべるのは福祉活動だろう。寄付や募金活動、慈善団体の総裁を務める…。ところが、ノブレス・オブリージュは時に(本来?)命懸けの行為なのである。
『王室・貴族・大衆』(水谷三公著、中公新書)によると、第一次世界大戦におけるイギリス貴族の戦場での死亡率は実に、18・95%。ところが、同大戦の全将兵の平均死亡率は8-9%であったという。貴族は逃げ足が遅かったり、どんくさいのではない。最前線で堂々と戦うことを強いられたのである。
最前線といえば、一九八二年のフォークランド紛争の際に、当時二十二歳のアンドリュー王子が最前線に赴いている。調べてみたら、何と王子は、アルゼンチン軍のミサイル、エグゾセのおとりとなるヘリコプターに乗り込むという任務に就いていた。
英国の空母インビンシブルにミサイルが命中しないよう、おとりになって海面すれすれでホバリングする。同ミサイルは海面から八メートルまでの低空しか飛ばないので、ミサイルが近づいてきたら、素早く上昇して逃げるという作戦なのである。一歩間違えば、イギリス王室は王子を一人失いかねない。それにしても、高貴であるがゆえに、なぜこれほどまでの危険を冒さなければならないのだろうか?