◆【産経抄】
▼一見のどかに見える竹林だが、最近ちょっと不気味な生態を見せ始めた。山の麓(ふもと)の方に群生しているはずが、山腹や山頂付近にまで侵出し、杉などの木を枯らしているという事例が林野庁などに報告されている。お茶畑をすっかり壊してしまうということもあったらしい。
▼竹は地下に茎を伸ばし、その節からタケノコが芽を出して繁殖していく。しかし、瀧本敦氏の『ヒマワリはなぜ東を向くか』という著書によれば、タケノコがすべて竹になれるのではない。親竹の方はその中の何本かだけを選んで、集中的に栄養を与え育てていく。
▼そうすることによって、個体数がむやみに増えて共倒れになるのを防いできた。他の樹木とも上手にすみ分けをしてきたのだろう。特に日本の場合、人がタケノコを掘って食べ、竹ざおなどさまざまな竹製品を作るため竹を切ってきたことが、その自制を助けてきた。
▼今、竹自身が自らのルールを破っているといえる。ひとつは日本人がタケノコを中国などからの輸入に頼るようになり、竹細工もしなくなったせいであることは間違いない。同時に人が竹を見捨てたことで、彼らが野性に目覚めてしまったように思えるのだ。
▼花粉症の主な原因である杉花粉が年々増えてきているのも、人が杉林を管理しなくなったためだとされる。自然との共生といっても、やはり人が手を加えて導いていかないと、たちまち自然は野性の牙をむくのだ。そのことを忘れてはいけない。