◆「障害者」→「障がい者」 県内で表記見直す動き
http://www.shinmai.co.jp/news/20060424/KT060414FTI090001000022.htm
県内の福祉関連団体や大学、自治体などで、「障害者」の表記を「障がい者」に変更する動きが広がっている。「害」の字には「悪くする」「損なう」といった意味もあるため、本人や家族が不快感を抱く恐れがあるとの理由からだ。
研究者によると、かつて使っていた漢字が使えなくなったため「障害」の表記になったという。変更の動きに対し、「以前の表記に」「障壁がある社会の現実に目を向けることが先だ」との意見もある。
松本大(松本市)は4月、観光ホスピタリティ学科新設に合わせ、大学紹介のパンフレットなどで「障がい」と表記し始めた。科目名の「障害者福祉論」は「障がい福祉」に変更。
同学科の尻無浜(しりなしはま)博幸助教授=社会福祉学=は「『害』は、行政が障がい者の面倒をすべてみる-といったかつての発想の名残に思える。自立する人たちが増え、制度も変わってきた中で『害』を使うのは不適切と判断した」と説明する。
運転免許を持つ身体障害者が1995年につくった「松本障害者運転協会」は2年ほど前、「松本障がい者運転協会」に団体名を変更。窪田隆一会長(77)=松本市=は「私たちは社会に害を与えているわけではない。他県での例を知り、問題に気付いた」と話す。
信大教育学部(長野市)の山本清隆教授(日本語学)によると、かつては「害」ではなく、「妨げる」「隔てる」といった意味の「礙」「碍」が一般に使われていた。それが、戦後の政府による漢字制限で、音が同じで意味が近い「害」に置き換わった。
「害」にも「妨げる」との意味はあるものの「悪くする」の意味合いが強いといい、同教授は「変えるなら、平仮名よりかつての表記に戻すべきだ」と主張する。
一方、松本市障害者自立支援センター(ぴあねっと21)の降幡和彦所長(44)は「言葉を変えるよりも、『障害』は、街や社会の仕組みに壁があるという意味だと分かってもらう方が先」との考え方だ。
昨年8月以降、公文書や広報誌などの表記を「障がい」に変更した上伊那郡箕輪町は今月、16の条例でも表記を平仮名に変えた。町保健福祉課は「差別や偏見をなくすための第一歩」とするが、「言葉狩りだ」「わざとらしい」といった批判も寄せられたという。
長野市社会福祉協議会のボランティアセンターは、情報誌「ボランティアかわらばん」の4月号から、全8ページのうち募集やお知らせなどを掲載する後半3ページに限り「障がい者」の表記にした。他の欄は取材者や投稿者の考えに任せるという。編集委員の一人、戸田千登美さんは「いろいろな考えがあり、迷いもある。これから議論を深めていきたい」と話している。
◆飯塚市 全ての公文書の「障害者」を「障がい者」へ (飯塚市 04・10・1)
http://www.city.iizuka.fukuoka.jp/~gikai/kaigiroku/h16/ko040914.htm#h01
飯塚市は9月30日、市が作成する公文書等で「障害者」の表記を「障がい者」に変更する方針を明らかにした。
「害」には“損なう、妨げの意味があり違和感があるとし、10月より本格的に取り組む。
但し、条例や規則は障害者基本法など関連法が「障害者」を使用している為、検討課題とする。
公文書の表記を全面的に変更するのは全国的にも珍しい。
公文書の「障がい者」表記は、東京都町田市など極一部の自治体が実施中。
飯塚市議会厚生文教委員会会議録
◆【産経抄】 (産経05・6・17)
うかつにも知らなかったが、「障害者」という言葉はイメージが悪いからと、言い換えを図る動きがじわじわ広がっている。「障がい者」と交ぜ書きにするのだ。いまも福岡市議会に障害者と名のつく施設や制度の名称を改める条例案が提出されていて、来週にも議決される見通しという
同市障がい保健福祉課(条例に先立ち改名済み)に聞くと、「害には悪い意味があるから改めたい。障がい者の問題に関心を持ってもらうきっかけにしたい」という説明だ。調べてみると、すでに札幌市や東京都の多摩市、町田市など複数の自治体が同様の趣旨で、部課名や文書の表記を変えていた
福岡市によると、改名組はもはや三十自治体を超える。一理はある。もともと「障礙・障碍」と書いた。「さまたげ」という意味だ。当用漢字にはないからと、「障害」と書くようにしたことに無理があった。だが、再変更には異論を唱えたい
言葉狩りのようなまねが障害者の自立支援や共生社会の実現にどれだけ役に立つのか。改名に伴う労力や費用の分だけ効果があるのか。そんな検証的な視点が欠けている。わかりやすく言えば看板を付け替える費用で、いくつ車いすを買えるか、道路の段差をなくせるか、ということだ
日本障害者協議会(東京)に尋ねてみると「所属する七十団体に改名の動きはない。本質的な話ではないし、自治体主導の変な流行という気がします」。こちらの話のほうが、素直にうなずける
この手の話は、うっかりすると「ごもっとも」と思えるし、反対もしにくいが、変な流行にわけのわからぬ金を使う必要はない。自治体は少なくとも費用対効果を納税者に示す義務があるし、議会には雰囲気に流されない議論を望む。
◆【双方向プラザ】「障がい者」に言い換える動き (産経 05・8・21)
■表記変更より支援充実を ■障害者側は静観
【読者から】 産経抄で、「障害者」を「障がい者」と言い換える動きが広がっていることを知りました(六月十七日付)。言葉がおかしくなっていくような気がします。大切なのは差別をつくらない対策ではないでしょうか。=読者
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「障害」を「障がい」と表記変更するのは、今のところ地方自治体に多いようです。
厚生労働省によると都道府県レベルではまだありませんが、ことし六月には福岡市が障害者施設の名称や文書の表記を「障がい」に変更する条例を定めました。
同市障がい保健福祉課は「『害』という字には否定的なイメージがある」と変更の理由を説明。ひらがなを用いたのは「もともと使われていた『碍』の字が今の当用漢字にはないから」としています。
庁舎内の看板などの変更はテープを張るなどで対応し、チラシ、パンフレットなどは在庫がなくなってから修正したために、変更に伴う費用はかからなかったといいます。
千葉県成田市は一月から担当部署の名称を「障がい者福祉課」と変更しました。
やはり「害」という字にはマイナスイメージが強いことから「障害者とともに生活していくうえで、害の字は避けようということになった」と説明しています。国の法律などの用語との整合性を図るため条例変更は見送る方針です。
このほか、札幌市、福島市など約三十以上の自治体が、組織名の表記を変更しました。
ただ、こうした行政側の動きを、障害者側は静かに見守っているようです。
六十二団体が加盟する日本身体障害者団体連合会の森祐司常務理事は「いくら言葉を換えても、上から眺める目線では障害者差別はなくならない。中身と魂の問題だ」と、表面的な表記変更より、障害者の自立支援策、とくに低所得者対策の充実を求めています。
同連合会の加盟団体の中では、現段階で表記変更を申し出ているところはなく、「いずれ障害者団体側からもそういう要請が出てくるだろうが、古くて新しい問題でもあり、障害者の定義から考えていくことが必要かもしれない」と森常務理事は話しています。
ちなみに日本視覚障がい情報普及支援協会は平成十五年の設立時からひらがなを使用。「人によって気にしない人もいるが、『害虫』と同じ字を使われるのは抵抗があるという意見が多かったのでひらがなにした」と説明しています。