◆北朝鮮から覚醒剤密輸入 “疑惑の船”捜索
平成14年10月に北朝鮮から覚醒(かくせい)剤数百キロを密輸入したとして、警視庁などは12日、覚せい剤取締法(営利目的輸入)違反の疑いで、韓国籍の禹時允(59)と指定暴力団極東会系組長、宮田克彦(58)ら3容疑者を逮捕。
先月末から鳥取・境港に入港していた「北」の貨物船「ツルボン1号」を約50人の捜査員が捜索した。同船は逮捕容疑となった覚醒剤の運搬に使われていた。航行日誌などが押収され、北の外貨獲得に利用された“疑惑の船”の解明が始まった。
◆【主張】覚醒剤密輸 北の国家犯罪徹底解明を (産経 06/5/13)
北朝鮮ルートによる大がかりな覚醒(かくせい)剤密輸事件が、警視庁の捜査で急速に浮き彫りになってきた。
平成十三年十二月に奄美大島沖の東シナ海で北の工作船が海上保安庁の巡視船と銃撃戦の末、沈没した。警視庁などが今回摘発した覚醒剤密輸には、この時の工作船が深くかかわっていた疑いが濃いとみられる。
警視庁は今回の事件の中心人物とみられる韓国籍の男や日本の暴力団組長らを逮捕し、北の密輸ルート解明に乗り出した。
直接の容疑は、北の貨物船に覚醒剤を積み、“瀬取り”といわれる洋上での取引を繰り返し、覚醒剤を密輸した疑いだ。密輸の量は、これまでの最高クラスの数百キロに及ぶという。
北の覚醒剤密輸ルートは、この瀬取りによる洋上取引が主体とされている。警察庁によると、覚醒剤の密輸は、韓国、台湾ルートが主だったが、九〇年代から北朝鮮による密輸が増え始めている。
手口は、北朝鮮の港で覚醒剤を工作船などに船積みし、洋上で別の船に積み替えて、日本の洋上で海に投下、日本の漁船が回収し、暴力団が密売するというやり方だ。
しかし、今回のように北の工作船が覚醒剤密輸に深く関与していた実態が捜査当局によって突き止められたのは初めてである。それだけに、今後の捜査の進展を注視したい。
工作船の関与が明らかになったきっかけは、引き揚げられた工作船から、プリペイド式の携帯電話が回収され、通話履歴から、逮捕された韓国籍の男の親族の自宅電話番号や暴力団関係者らの番号が判明したことだ。
海上保安庁、警視庁などが粘り強い追跡を続けた結果、今回の強制捜査に至った。関係者の逮捕を契機に、捜査当局には北の覚醒剤密輸の全容解明を急いでもらいたい。
先月には米国議会上院で、北の国家ぐるみの米ドル札の偽造や麻薬密輸、偽造たばこの輸出の実態をブッシュ政権の高官が証言し、注目された。米国は北の不法な外貨獲得に厳しい取り締まりを展開している。
今こそ、日米の捜査当局は緊密に情報交換しながら、北の国家犯罪を封じ込める時である。
◆100キロ、3億円 逮捕の組長売りさばく 貨物船で覚醒剤密輸 (産経 06/5/13)
工作船事件関与?韓国籍の男「北」に太いパイプ
平成十四年十月に、北朝鮮の貨物船「ツルボン1号」が利用され、覚醒(かくせい)剤数百キロを島根県に密輸入したとして逮捕された指定暴力団極東会系組長、宮田克彦容疑者(58)が、このうち少なくとも約百キロを日本国内の暴力団関係者に売りさばき、三億円前後を得ていたことが十二日、警視庁と鳥取県警などの調べでわかった。
関係者が「覚醒剤は東京まで運び、埼玉の倉庫に保管した」と供述していることも判明。別の事件で逮捕している暴力団関係者数人が覚醒剤の陸揚げや東京への運搬に関与したとして来週中に逮捕する。
同年十一月下旬には、鳥取県の海岸に約一キロ入りの小袋に分けられた覚醒剤約二百七キロが漂着していたが、同時期に近くの沖合を「ツルボン1号」が航行していたことも判明。この漂着でも同船や宮田容疑者らが密輸入を図り、回収に失敗したとみて追及する。
宮田容疑者は覚醒剤の受け取りや国内密売の首謀者で遊漁船業の権田修容疑者(54)は海上で覚醒剤を回収する「瀬取り」役、韓国籍の禹時允容疑者(59)は「北」との連絡役。
覚醒剤は北朝鮮の清津港から「ツルボン1号」で積み出され、島根県付近の海上で投下。権田容疑者の釣り船で回収し、十四年十月九日、同県の安来港に陸揚げした疑いが持たれている。
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禹時允容疑者は自沈した北朝鮮工作船から回収された携帯電話の持ち主とされ、覚醒剤密輸で日本の暴力団と「北」をつないだキーマンとみられる。一方、北の外貨獲得策は、覚醒剤から偽ブランドたばこの製造にシフトしているとされる。
▼【通話記録】 平成十三年に奄美大島沖で海上保安庁の巡視船と銃撃戦の末に北朝鮮工作船が自沈。
船内から回収されたプリペイド式携帯電話に、禹容疑者の親族の自宅、さらには松葉会や極東会といった暴力団関係者との間でのべ百三十五回の通話記録が残されていた。別の事件で、禹容疑者から押収した携帯にも暴力団との覚醒剤取引を示唆するメールが残されていた。
自沈した工作船は逃走中に多数の黒い袋などを海に捨てており、十年に東シナ海で日本の暴力団と覚醒剤を洋上取引した工作船と同一だったため、海保は「覚醒剤運搬用」と断定している。
「新田」や「新井」と名乗る禹容疑者は平成三年に国籍を朝鮮籍から韓国に変えた。北への盗難車輸出未遂事件でも過去に逮捕され、関与の暴力団組長に「福岡で北の軍関係者を接待する」と話していたとされる。
北に太いパイプがあったようで過去五年に計八十二回にわたって出入国。「うち四十回以上、北朝鮮に入った」(捜査幹部)
▼【3年連続ゼロ】 北では、覚醒剤の密輸出など外貨獲得につながる対外工作は朝鮮労働党の「39号室」が主に管理しているとされる。
十二日に鳥取・境港で捜索された貨物船「ツルボン1号」は北の貿易会社の所有。「39号室」は外貨獲得で貿易会社に指示を出しているという。
北の覚醒剤は純度が高く、警視庁によると、卸値で一キロ三百万円から四百万円と相場の一・五倍から二倍の高値が付くという。
ただ、警察庁のまとめでは、北を積み出し地とする一キロ以上の覚醒剤の押収は、平成十五年から昨年までの三年間は連続ゼロ。
米国の取り締まり機関関係者は「情報衛星や船舶などを活用した日米連携の監視網が強化されたため」などと、指摘する。
▼【シフト】 最近の北の外貨収入源とみられるのは偽ブランドたばこだ。十五年ごろから、米国内で流通が拡大したとみられている。
米国務省の現状報告では「マルボロ」の北製偽たばこが流通し摘発された事件が、十四年から十七年までの間に約千三百件発生。北国内で少なくとも一棟の偽造工場が確認され、「年間数十億箱の生産能力があるとの推計もあり、最大の外貨獲得源に成長している」(在日米当局筋)。
もっとも、日本の公安当局や米当局は偽たばこへの取り締まりを厳格化させた場合、再び覚醒剤などの薬物密輸を本格化させる可能性もあるとみている。