◆宇宙開発は「中国・ロシア」、「米・インド」の2極に
(日経BP 06/5/15)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20060512/102137/
有力新興国としてライバル関係にある中国とインドは、ともに軍事力を強化していますが、宇宙開発の分野においても熾烈な競争を繰り広げています。
まず、中国の宇宙開発の動向から見ていきましょう。
中国の宇宙開発の歴史は1956年に幕を開けました。2003年10月15日、中国は初めての有人宇宙船「神舟5号」の打ち上げに成功します。
ソビエト(ロシア)、米国に続いて中国が世界3番目の有人宇宙飛行達成国となったわけです。また2005年10月12日には、2度目となる有人宇宙船「神舟6号」の打ち上げにも成功しています。
≪「中国版アポロ計画」も進行中≫
2回の有人宇宙飛行の成功は、中国の国力、科学技術水準の高さを世界に示す絶好の機会となりました。国内のメディアは打ち上げの成功を大きく取り上げ、こぞって中国の国威をアピール、新聞の号外も多数発行されました。
ちなみに「神舟」は旧ソ連の技術を参考にして開発された中国国産のロケットで、名づけ親は江沢民氏です。
「神舟6号」の成功で宇宙開発への自信を深めた中国は、早くも「神舟7号」の打ち上げプロジェクトを立ち上げています。「神舟7号」は2007年から2008年の間に打ち上げられる予定です。
このプロジェクトでは、3人の飛行士が搭乗し、宇宙遊泳に挑みます。「神舟8号」以降の打ち上げ予定の詳細はまだ明らかになっていませんが、8号を打ち上げた後は、ほぼ1カ月の間隔で9号、10号を打ち上げて宇宙開発を加速させる方針です。
さらに、中国は月への着陸や大型宇宙ステーションの建設、火星探査機の打ち上げなど壮大な宇宙開発計画を視野に入れています。これらの計画はいずれも宇宙大国ロシアと全面協力しながら進めていく予定です。
中国の月面探査計画は、「嫦娥(じょうが)計画」(嫦娥は月の別称)と呼ばれ、ロシアの技術支援を受けながら、2020年までに有人宇宙船による月面着陸を目指します。
月面探査計画では、米国と中ロの熾烈な争いが展開されることが見込まれます。中ロが協力することで、これまでの米国優位の宇宙開発の構図が大きく塗り替えられる可能性が高いと言えるでしょう。
また、宇宙開発をきっかけに中ロの軍事協力関係も強化されるとみられ、米国と中ロの緊張関係が高まる恐れもあります。
≪経済成長効果が高い宇宙開発≫
なお、こうした一連の宇宙開発には、航空技術の進歩を通じてハイテク産業全体の技術力を高めるという効果があり、中国のマクロ経済成長にも少なからず貢献すると考えられます。
国家発展改革委員会(国家発改委)によると、2005年には衛星応用産業の市場規模が1000億元に達した模様です。
中国と同様、インドも宇宙開発に積極的に取り組んでいます。インドの宇宙開発は1962年に幕を開けました。
経済発展が遅れていたインドが早い段階から宇宙開発に取り組むようになったのは、宇宙開発を軍事技術に応用するとともに、宇宙開発を通じた科学技術の向上を民間部門に還元し、IT(情報技術)を中心とした経済発展に結び付けようとしたためです。
1969年には、インド南部の工業都市バンガロールにインド宇宙開発機構(ISRO)を設置しました。
1975年4月、インドは最初の国産開発衛星「アーリアバータ」の打ち上げに成功します。
このときは衛星打ち上げ用ロケットとして、旧ソ連のコスモスロケットを使用しましたが、1980年には、国産の衛星打ち上げ用ロケット(SLV-3)を開発、ロケット打ち上げに成功しました。
≪宇宙開発でインドに急接近する米国≫
インドの技術力に対する国際的な評価が高まる中、近年では、宇宙事業の分野で、海外からの受託開発や関連製品の海外への輸出も増えるようになってきました。
インド政府はISROを全面的に支援しており、財政事情が厳しい中にあっても、前年度比35%増の予算をつけています。
2003年2月、米国のスペースシャトル「コロンビア号」が空中分解した際には、インド人女性のカルパナ・チャウラ飛行士が亡くなるという悲劇もありましたが、インドの宇宙開発技術は着実に進歩しており、中国との距離を縮めています。
現在、ISROは宇宙開発で先行する中国に対抗して、2008年までに40基の通信衛星を打ち上げて地球表面の撮影をするとともに、月面探査衛星の打ち上げも検討しています。
もっとも、インドは中国のような国威発揚を主眼とした宇宙開発に対しては消極的な姿勢を示しており、将来的なビジョンとして、単独の宇宙開発ではなく欧米諸国と協調しながら、宇宙開発に関わっていく意向を示しています。
中国の台頭に危機感を持つ米国は、宇宙開発の分野でインドに急接近しています。98年にインドが地下核実験を強行したため、米国は同国に対して経済制裁を発動、米印両国の経済関係は一時悪化していました。
しかし、現在では両国の関係が改善し、ブッシュ政権は宇宙開発・軍事・通商といった幅広い分野でのインドへの協力姿勢を明確に打ち出しています。
米国の保有する最新技術の導入や共同プロジェクトの立ち上げなどによって、インドの宇宙開発は今後加速していくことが見込まれます。
≪米国頼みで大幅に遅れを取る日本≫
中国とインドが気を吐く中、米国依存の宇宙開発を前提とした日本の宇宙戦略は、大幅な後れを取っています。
宇宙開発は偵察衛星によるミサイル誘導など軍事戦略にも直結するだけに、宇宙開発の遅れは防衛上の大きな脅威にもなりかねません。
日本は、独自の宇宙開発戦略を早急に構築し、国家主導で宇宙開発に積極的に取り組む中国やインドなどに対抗していく必要があるでしょう。