人気ブログランキング | 話題のタグを見る

★★★ 日本再生ネットワーク 厳選ニュース ★★★

sakura4987.exblog.jp
ブログトップ

◆リーダーは言葉と心中する覚悟で

平成15年1月5日(日)産経新聞

作詞家・作家 阿久 悠  政治家との関係が緊迫感欠いた理由

≪政治家の演説すら死語化≫

 二〇〇三年、この国のリーダーが誰であるのか、政界通でもないし、占い師でもないのでわかりようもないのだが、どなたでもいい、その立場にある人に、このようなことをお願いしたい。

 リーダーの条件は、まず「言葉」であるということである。とにかく言葉を持ってほしい。政治は言葉だといいながら、その言葉に魂をこめた人も、命をかけた人も見たことがない。

 やがて六十六歳になろうかという人間が、どう記憶を手繰(たぐ)っても、政治家の言葉に心うたれたことも、信じたことすらないのだから、およそ五十年、リーダーもその他の政治家も、言葉と心中したことがないということであろう。

 そういえば、かつては、政治家と演説とは切っても切り離せないものであった。演説の下手な人は選挙に勝つのも難しいし、仮に政治家にはなっても、大臣にはなれないだろうと思われていたものである。しかし、どうやらそれは過去の伝説になったようで、演説すらが死語化した。

 その証拠に、言葉のない人が政治家になり、大臣となり、時には自虐(じぎゃく)的に「ボキャ貧」とタネ明かしを先にしておいて、首相になった人もいるくらいである。

≪意味持たない言語に寛容≫

 ぼくらは-選挙民とか国民とかいってもいい-、いつの間に、貧弱な語彙(ごい)、意味を持たない言語に対して、寛容になってしまったのであろうか。言葉をただ言葉として軽視し、何らの検証もしなかった何十年かで、ぼくらと政治家の間の緊迫感を極度に欠く関係にしてしまったのである。それは政治から緊張を奪ったことにもなる。

 饒舌な、俗にいうおしゃべりな政治家はいっぱいいるかもしれない。軽妙な笑いを取る人も中にはいるだろう。そのことと言葉があるなしとは全く関係のないことである。政治家の言葉は、聞き手に対しては愚鈍なくらいに誠実で、語り手である自身に対しては、剣の先端のように尖(とが)って危険なものである必要がある。相手に傷を負わせ、自らを防御するものでもいけないし、また、相手も自分も、ただ無意味に心地いいものでも駄目なのである。

 演説の達人とおしゃべりの名手との差は、誰に対して語っているかによると思う。

 おそらく、演説は、敵地に入って、意見の異なる人をどのように説得し、どのように変心させるかを目的とした。敵地とはいえ駆逐する目的の敵ではなく、言葉によって味方にしなければならないのだから、緊張に満ちて語らなければ効果を産(う)まない。時として生命の危機として跳ね返ってくる覚悟さえいる。

 しかし、おしゃべりはそうではない。敵地に入ることはない。支持者、シンパに取り囲まれて、ただただ気持ちよく自説を安心して述べ、特に永田町漫談のひとくさりを入れれば、どっと湧くという仕掛けである。

≪政治家はなぜ語らないのか≫

 部外者のぼくらからは、そのように思える。言葉は弛緩(しかん)し、言葉に脂肪がつき、言葉は堕落し、ただ媚(こび)と空虚な連帯のためにだけ、ヘラヘラと飛び交っている感じである。そうでないと、相当なキャリアのある政治家が、あのように失言を繰り返すということはない。あの失言の類(たぐい)は、身内だけと安心しきった空気の中で、つい節度のブレーキを踏みはずして発したものである。ここだけ、ここだけのことと笑っていたかもしれない。

 しかし、その人たちがよく使う情報化社会が、「ここだけのこと」を無意味にするものであると考えない不思議がある。ここだけが、ワシントンや北京へ数分後で届く。それなのに、身内の心安さと低俗なサービスでつい滑ってしまう言葉、これはもう現代の話であってはいけない。

 ぼくらは、政治が面白いなどというフレーズを鵜呑(うの)みにして、愚かな寛容さを示しているうちに、政治から言葉がなくなってしまったのだ。

 人々は、言葉でしか政治を理解することも、信じることも出来ない。

 政治家はなぜ語らないのか、なぜ己が思い描く物語を、繰り返し伝えようとしないのか。それどころか物語の存在を隠すかのように、言葉のラリーを拒むのか。そればかりではない、テニスボールをピンポン玉で返してくるラリーを、なぜ会話といい張るのか。

 二〇〇三年のリーダーのX殿。言葉はその場しのぎではありません。宇宙であり、きわめて人間的な約束に使われるものです。言葉を畏(おそ)れ、たとえ同志は裏切っても、言葉と心中してください。



※政治の原点を表した文章だ。政治家が格調高い演説や言葉を使うと新聞に載り勉強になるが、そんな場面に出会うことが少なくなった。
by sakura4987 | 2006-06-20 16:53

毎日の様々なニュースの中から「これは!」というものを保存していきます。


by sakura4987