◆「思いやり予算」を見直せ (世界日報 06/6/29)
金銭で安全と友好を買う愚 ― 柚留木廣文
米軍の財政負担
何年前だったか記憶が定かでないが、海上自衛隊の岩国航空基地を取材で訪れた時のことである。
この基地は米海兵隊の岩国航空基地の中に所在し、日米地位協定によって米国の管理下に置かれていることから基地内に入るには米軍の許可を得なければならない。
日本国内にある自衛隊を訪ねるのに米軍の許可を必要とするとはなんとも理不尽と思いつつ、ゲート前にある受付で入門の手続きをすることになった。
そこにいたのは、米軍の制服に似せたへんてこなユニホーム姿の日本人であった。ところがこれが米軍の権威を笠に着て、まことに横柄な態度なのである。
それがかえって、米軍に雇われた日本人の卑屈な本性というものが見え見えで、私はむしろ哀れを催したのであるが、こいつの給料や着用している制服までわれわれ日本国民の税金から支払われているのかと思うと無性に腹が立った。
我が国は在日米軍の駐留を円滑にするための施策として、在日米軍駐留関連経費を負担していることは私の周囲でも意外と知られていない。
その内容は、隊舎、家族住宅、学校、育児所、娯楽・保養施設など米軍が使用する施設の整備費。
日本人従業員の基本給と諸手当全項目を含む労務費。
在日米軍が使用する電気、ガス、水道、下水、暖房用の燃料などの光熱水費。
米軍の訓練移転費などであって、今年度は二千三百二十六億円の予算が当てられている。
この在日米軍駐留経費負担については、日米安保条約および日米地位協定においても日本側が負担する法的根拠がないにもかかわらず、特別協定を締結することによって日本側が負担することとし、これがいわゆる「思いやり予算」と言われるものである。
米軍基地を訪れてみると、ここが日本とは思えないほど、米本土にある基地と同じように一つのタウンを形成しており、そこはあたかも租界のように見える。
なかでも豪華な家族住宅の造りには瞠目させられる。その建設費は一戸当たりなんと七、八千万円もかけていると聞く。
私はいつも思うのだが、それに比べて自衛隊の官舎のなんと見劣りのすることか。ベッドルームがいくつもある米軍の下士官クラスの住宅に比べて、自衛隊の連隊長(階級は大佐)でも狭苦しい団地住宅暮らしである。
幹部は二、三年ごとに転勤を繰り返し、その都度、後に入居する者のために自弁で畳と襖を張り替えるという慎ましい生活ぶりである。
外国の駐留軍にこれほど手厚くしながら、国家防衛の重責に任ずる国軍である自衛隊を粗末に扱っている国は日本以外にはないのではなかろうか。
●≪卑屈な国は滅亡 ≫
日本は憲法解釈上、集団的自衛権を行使できない負い目か、あるいはいつでも米軍が日本を守ってくれるという安直な期待を前提にしているから、思いやり予算などという屈辱的な財政負担を強いられるのだ。これはもう見直すべきであろう。
「実力のある国家は金銭によらず、自分の力量と軍事力で友好関係を獲得する」(マキャヴェリ『政略論』)のであって、友好関係や保護を得ようと思って金品を貢納するような卑屈な国はいずれ滅亡することは、歴史を見ても明らかであることを肝に銘じておかねばならない。
今日、「世界の中の日米同盟」を謳い上げる日米首脳会談が行われる。
先月、合意した在日米軍再編計画の実施を確認する方針で、これでまた日本は三兆円の巨費を負担することになる。