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◆「外交弱小国」日本の安全保障を考える-古森義久 (日経BP 06/7/7)


-ワシントンからの報告-より 古森義久

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/column/i/26/

第26回  「ミサイル発射には合理的な戦略意図がある」

~ 米・北朝鮮ウォッチャーが喝破 ~

 北朝鮮の一連のミサイル発射の真の狙いとは一体何なのか。米国や日本だけでなく、国際社会全体をあえて敵に回してしまったような危険な軍事行動は何を意図してのことなのか――。

 7月5日未明の北朝鮮の一連のミサイル発射は米国の首都ワシントンをも揺さぶった。米国の時間では7月4日の独立記念日、祝いの空気に満ちた休日の午後、北朝鮮のミサイル発射の報が流れた。

 ワシントンからみれば地球のほぼ裏側に近い遠方での出来事であり、しかもその発射が予測されていたにもかかわらず、ブッシュ政権は敏速に対応した。テレビや新聞などの米国マスコミも大々的に報じた。

 ホワイトハウスではトニー・スノー大統領報道官が午後6時すぎ、緊急の記者会見を開き、米当局がつかんだ情報のほぼすべてを発表した。国家安全保障担当のスティーブ・ハドレー大統領補佐官もこの会見に加わって、北朝鮮のミサイル発射に関する詳細な情報を明らかにした。

 ワシントンでは独立記念日のこの日、パレードなど各種の祝賀行事が催され、午後9時からは花火が盛大に打ち上げられた。その花火のなかで北朝鮮のミサイル連射のニュースも首都を駆け巡ったわけである。

 『ショーダウン』はミサイル発射を想定していた わたしはこの北朝鮮ミサイル発射の報にはことさら深刻な懸念を覚えた。というよりも奇妙な不快感といおうか。

 なぜならば、前回のコラムで紹介した米国の元国防総省高官二人が書いた『ショーダウン』(対決)という本の日中戦争シナリオには、実は北朝鮮の核弾頭ミサイルが大阪に撃ち込まれ、大阪市は壊滅するという想定があったからだ。

 「2009年9月、中国首脳から日本攻撃の要請を受けた北朝鮮の金正日総書記は大阪市を標的として核弾頭付きの弾道ミサイルを撃ち、大阪市は建物も住民も一瞬にして蒸発する」。

 こんな近未来フィクションが明記されていたのだ。わたしはこの部分を読んで、あまりに荒唐無稽だと感じた。しかも、わが日本がまた核兵器の犠牲になるという想定は、いくら「あってはならない仮想の事態」ではあっても、ひどすぎると思った。

 たとえ中国の軍事の実態に通じた米国の安全保障専門家たちが想像した近未来のシナリオであるにせよ、わざわざ日本の読者に知らせることには抵抗を感じていたのだ。

 ところがそのほんの2週間後に北朝鮮が日本に向かって、「実験」とはいえ、各種の弾道ミサイルを発射してくるという事態が現実に起きた。しかも短距離のスカッド・ミサイル、中距離の「ノドン」、そして長距離の「テポドン2号」ミサイルと、3種類合計7発も撃ち放ったのだ。

 わたしとしては、いやが応でも、『ショーダウン』が描いた日本の国家存亡の破局シナリオを思い出した次第である。そして改めて日本という国の安全保障や防衛について深く考えさせられたわけだ。

 米専門家らが見るミサイル発射の狙い さて北朝鮮のミサイル発射はその後もワシントンに衝撃の波紋を広げた。ブッシュ大統領は7月6日のホワイトハウスでのカナダのハーパー首相との共同記者会見でも、北朝鮮のミサイル発射を何度も非難した。

 「北朝鮮の首脳にはミサイルを発射しないことを、米国も、国際社会も、繰り返し要請してきた。しかし北朝鮮はその要請を無視した。北朝鮮がもしミサイル発射で何か得ることがあると考えているとすれば、それは大きな間違いだ」。

 ブッシュ大統領は当面、外交手段を最優先させて、北朝鮮に抗議するという姿勢をみせてはいるが、その背後には、いざという場合には経済制裁の拡大など強固な措置で臨む決意を十分に示している。

 それにしても北朝鮮は何を狙って、各種のミサイル発射という大胆な行動に出たのだろうか。

 ブッシュ大統領は北朝鮮の金正日書記がいったいなぜこの時期にあえてミサイル発射という危険な行動に踏み切ったのか、その動機や目的については「推測する以外にないが、とにかく発射によって北朝鮮が得られる利益は何もない」と述べるにとどまった。

 確かにすべてが秘密の壁に閉ざされた北朝鮮指導部内の政策決定プロセスを正確に知ることはまず不可能に近い。だが米国の専門家らの間ではその狙いについてはいくつかの観測が語られている。


 第一には、とにかく米国にショックを与え、北朝鮮との二国間交渉に応じさせるための威嚇の手段としてミサイルを発射したのだ、という説がある。

 北朝鮮は核兵器開発の問題でも、他の軍事関連問題でも、とにかく朝鮮半島に関する対外的な懸案事項については米国との対等な二者交渉を求めてきた。やがては米国との国交樹立を目指し、経済援助を得ようという意図は明白となっている。

 そのプロセスでは韓国を米国の傀儡(かいらい)とみなし、対等な交渉の相手とせず、また他の諸国を含んでの多国間交渉はいま進行中の6カ国協議を除いてはとにかく忌避するという姿勢だった。だが米国は北朝鮮だけとの二国間交渉は拒んでいる。


 第二には、第一の説と重複するが、北朝鮮は米国が科したマカオ在の銀行への金融制裁の痛みを痛切に感じ、米国になんとか再考を促すためにミサイル発射という示威行動に出た、という説がある。

 ブッシュ政権は2005年9月に、マカオにある「バンコ・デルタ・アジア銀行」が北朝鮮の紙幣偽造や麻薬密売などの違法活動がらみの資金のロンダリング(洗浄)をしてきたとして、米国の金融機関に同銀行との一切の取引を禁ずる措置をとった。

 北朝鮮の違法活動への金融制裁だった。その結果、金正日書記とその側近に直接入る違法な資金数十億円相当がストップしたとされる。

 金正日政権はこの措置に痛烈な打撃を受け、ついにミサイルまで発射して、米国を脅し、なんとか二国間の交渉や接触に持ち込み、この金融制裁を解除させようと意図している、という観測なのである。


 第三には、北朝鮮の軍部が権力を強め、金正日政権全体を動かし、ミサイル発射という強硬な措置をとらせた、という説がある。

 北朝鮮はつい最近、予定されていた南北連結鉄道の開設を突然、遅らせ、韓国側を当惑させた。同時に韓国の金大中前大統領が北朝鮮を再訪するはずだった予定も唐突に延期された。

 この両方の予定変更の背後に実は北朝鮮の人民軍の強い意思が機能していた、というのである。軍部は金書記に米国や日本に対し、もっと強硬な言動をとることを求め、その集約がミサイル発射だったというのだ。


 以上、いずれも断片的な情報をつなぎ合わせて、推測を重ねた見方のように響く。北朝鮮としてもミサイル発射という大胆な行動で得ようとする利益は複合的であり、その動機も多様な要因が入り交ざった計算からだといえよう。

 「金正日には二つの合理的な戦略意図がある」 だがここにもう一つ、北朝鮮の狙いについて興味深く、重みのある見解がある。その見解を語るのは、この連載コラムの第15回、北朝鮮の国家犯罪についての報告で紹介したデービッド・アッシャー氏である。

 アッシャー氏はブッシュ政権第一期冒頭の2001年2月から第二期前半の2005年7月まで四年半も国務省の中枢にあって、北朝鮮との折衝を担当した。正式には国務省東アジア太平洋問題局の上級顧問・北朝鮮作業班調整官というポストにあった。

 ジョン・ケリー国務次官補の顧問として北朝鮮の核兵器開発問題などの交渉にあたった人物である。現在は国防総省直属機関の防衛分析研究所の上級研究員という立場にある。

 そのアッシャー氏に北朝鮮のミサイル発射の狙いを尋ねると、次のような答えが返ってきた。

 「北朝鮮は今回の一連のミサイル発射でグローバルな反米新枢軸を結成しようという野心的な意図をちらつかせている」。

 アッシャー氏は金正日書記にはそれなりに合理的な戦略意図があり、その意図はしかも全世界を対象とする巨大なスケールなのだという。その意図は大きくは二つに分けられるとして、アッシャー氏は以下のように説明した。

 「北朝鮮が資金不足に悩み始めたことは間違いないようだが、その苦境から脱するためにまずこの7月後半に北朝鮮を訪れるベネズエラのヒューゴ・チャベス大統領に対し、各種ミサイルの威力を誇示して、購入させたいと企図している。

 チャベス氏は反米傾向の顕著な政治家で、米国に対抗して各種兵器類を急ピッチで購入している。石油資源のために兵器購入の資金はきわめて豊富にある。

 北朝鮮は同時に自国生産のミサイルの威力をイランやキューバ、シリアなどにも見せ、購入をあおって資金の獲得とともに、反米の新枢軸を結成しようと意図している」。

 なんと金書記は世界中を見回して、米国にタテをつきそうな国を選んで、ミサイルなどの兵器類の威力を誇示し、一方、そうした国が政治的に置かれた辛い立場に同情を示し、新たな反米枢軸の相互支持を進めようする、というのだ。その手段が各種の弾道ミサイルだというのである。

 アッシャー氏は北朝鮮の「狙い」に関して、もう一つ、きわめて高度な外交戦略を挙げた。

 「北朝鮮はミサイルを発射すれば、周辺の諸国がすべて反発することは十分、承知している。だが韓国は国内事情から一定程度以上には北朝鮮を糾弾できない。韓国の現政権は対北朝鮮の融和政策に踏み込みすぎ、逆転ができず、米国との同盟に摩擦が起きることが必至となる。

 一方、中国も一定限度を超えた制裁措置などはとれない。米国と日本の対応にも微妙な食い違いが出てくるだろう。

 北朝鮮は当然、日米同盟の結束のゆるみを期待する。また韓国に対しては米韓同盟の結束を薄めることを促すだろう。その手段がミサイル発射なのだ」。

 つまり北朝鮮は今回のミサイル発射で一見、無謀で不合理な暴挙に出たようにも見えるが、実はかなり緻密な計算があるようだ、というのである。

 ミサイル発射には現実には反米枢軸の新たな結成だとか、日米同盟、米韓同盟の亀裂というきわめて狡猾な野心的意図があり、その追求に弾道ミサイルなどの兵器はきわめて有益な材料になる、ということなのだ。


古森義久(こもり・よしひさ)氏

[現職] 産経新聞ワシントン駐在編集特別委員・論説委員。国際問題評論家
杏林大学客員教授

[出身] 1941年、東京生まれ
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by sakura4987 | 2006-07-08 12:39

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