◆【社説】終戦記念日/過去を教訓に戦略的思考持て (産経 06/8/15)
終戦の日を迎えた。安倍晋三官房長官はせんだって談話を発表し、全国戦没者追悼式が、「祖国を思い、家族を案じつつ、戦禍に倒れた戦没者の方々の尊い犠牲があったことに思いを致し、全国民が深く追悼の誠を捧げるとともに、恒久平和の確立への誓いを新たにしようとするものだ」と語った。まず、その言葉に思いを重ねたい。
■現実的な海洋国家の選択
あれから六十一年、靖国神社問題をはじめ、激しい歴史論争が起きているが、その背景の一つは、過去の戦争をどう考え、どのような教訓を引き出すかについてのわが国の主体的判断が定まっていないことだ。
ある者は、限りなく暗く描こうとする「自虐史観」を、ある者は真白に描こうとする「自愛史観」を主張する。それほど、歴史の評価は複雑である。
確かに、東京裁判は戦勝国による一方的処断であり、戦争全体を「帝国主義的侵略戦争」として一刀両断に切り捨てるにはムリがある。日米戦については、石油禁輸やハルノートの最後通告で追い詰められた「自衛戦争」の側面もあった。一方で、大陸での戦いは、経済権益を求めようとした軍上層部の独断もあり、全面肯定することも行き過ぎだろう。
神風特攻隊を含め前線の将兵たちの犠牲的精神には胸を打つものがあり、結果的に見て、戦争が戦後の世界各地での植民地解放運動の起爆剤となったことも事実だ。
他方で、戦場となり多大な犠牲者を出したアジア諸国民の中には「日本が頼まれもせずに起こした『聖戦』の押し付け」だったとの声もある。理不尽な要求には断固としてはねつけなければならないが、痛みを受けた国の感情に心を配ることも必要だろう。
いま求められているのは、過去の教訓だ。わが国の選択肢として、大陸志向、自主独立、海洋国家の三つがある。
最大の教訓は、大陸志向が国を誤らせることだ。軍部は日本を大陸の一番端の国と見なし、日本の生命線は大陸にあると考えた。日中同盟が日本の針路と考える向きがあるが、共通の価値観を欠き、軍事面で中国が圧倒的な力を持っている中での同盟は、日本のフィンランド化を招く危険がある。
日本を大陸の外辺に位置する海洋国家とみれば、針路も変わってくる。エネルギーも資源もない島国日本の生存の道は貿易立国である。
戦後の日本は自由・民主主義の国として今日の繁栄を築いた。海洋国家は自由貿易に依拠しているため、自由と民主主義を共通の価値観とする。不断の領土紛争を抱える大陸国家の価値観が覇権と独裁であるのと対照的だ。
現実的な日本の選択は、貿易ルートを防衛できる世界最強の海軍を持ち、価値観を共有する米国との安保体制の強化だ。さらに中国に引きずられつつある韓国や東南アジア諸国連合の国々を海洋同盟に組み入れる努力も大切である。
わが国の現実的脅威は、北朝鮮のミサイルと不透明な中国の軍拡だ。これらに触発されたナショナリズムの高まりから、大陸や米国からも距離を置く自主独立と自主防衛の道を主張する向きがあるが、非現実的である。生活水準は低下し、世界の経済システムから孤立し破綻を招くだけだろう。
■日米同盟強化へ努力を
日米同盟強化のためには、現在の片務性解除に努力する必要がある。在日米軍と自衛隊の戦略的融合と自衛隊のイラク派遣は、そのための大きな前進だ。過去を踏まえ、日本の針路についての戦略的思考こそ大切である。