◆特定失踪者 北朝鮮、職種絞り拉致? 印刷10人・医療18人・通信7人…
(産経 06/10/8)
印刷工、医療従事者、通信技術者…。
北朝鮮に拉致された可能性を排除できない行方不明者を調べている「特定失踪(しっそう)者問題調査会」(荒木和博代表)が、失踪者の職業や経歴などを分野ごとに整理した「マッピングリスト」を作成した結果、特定の職業に就いていた失踪者が多いことが浮き彫りになった。
彼らが北朝鮮に拉致されたとすれば、北朝鮮は狙いをつけて対象を絞り込んでいたという仮説も成り立つ。失踪者を分野別に見てみると…。
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オフセット技術者や印刷工、脱硫技術研究者、写真印刷技術者など印刷関係の特殊な技術や印刷会社に勤務していた不明者は10人に上る。大半が昭和40年代に失踪した。
北朝鮮は国家として偽札製造に関与してきた。北朝鮮製の偽札は50~60年代から流通し始めており、その前に多くの印刷関係者が消息を絶っていることは見逃せない。
北朝鮮は日本人の技術力に目をつけていたのは確実だからだ。「偽札鑑定機を日本から共和国に輸出した」と証言する在日商工人もいる。
看護師など医療関係者も多い。医師や薬剤師などを含め18人。大半が女性だ。「工作員養成機関に、日本語教官として拉致被害者がいた」という亡命工作員の証言があり、こうした機関には付属の病院が必ず付設されている。
訓練中の負傷や病気にかかった工作員の治療は重要で、病院で使われていた医療機器の多くは日本から輸入されたものとされる。マニュアルが日本語で書かれているため、使い方に熟知した人間が必要だったとの指摘もある。
電話関係者も7人が失踪している。40~50年代は平壌の通信設備の管理を強化した時代だったとされるが、専門知識が必要だったのか。ただ、電話工事や保守・点検といった専門知識をもつ失踪者は少なく、多くは電話交換手や当時の電電公社職員たちだった。
政府認定の拉致被害者との共通性もある。
帰国した蓮池薫さん、祐木子さん夫妻と、地村保志さん、富貴恵さん夫妻、いまだに安否不明の市川修一さんと増元るみ子さんらのように、アベックや夫婦で失踪したケースだ。
帰国した拉致被害者によると、アベックは拉致された後、蓮池薫さんと地村保志さん、蓮池祐木子さんと増元るみ子さんといったように、それぞれ男性同士、女性同士で招待所に入れられた。
ところが、市川さんとペアになったのがだれだったかは判明しておらず“謎”のまま。アベックがほかにも拉致されているとすれば、男性がペアになっていた可能性もあるが、調査会がまとめたリストには、市川さんらが拉致されたのと同じ53年に失踪した不明者はいなかった。ただ、48年に石川県と青森県で2組の失踪があるなど調査会はアベック失踪も注視している。
このほか、曽我ひとみさんが看護学校生だったことや、市川さんが電電公社職員だったことなど職業的な共通項もみられた。
リストは、特定失踪者が拉致被害者であることを裏付けるものではないが、失踪者のデータの整理分類によって、新たな疑問や疑惑を浮かび上がらせている。
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【用語解説】特定失踪者
平成14年9月の日朝首脳会談で、金正日総書記が日本人拉致を認めたことから、拉致被害者の支援組織「救う会」に、行方不明者情報が多数寄せられた。救う会は調査部門を独立させ、「特定失踪者問題調査会」を設立、調査を進めている。
現在までに調査会に寄せられた失踪者情報は約460人(うち約200人は非公開)に上る。このうち34人が「拉致濃厚」。国内で消息が確認された人は18人(うち1人は死亡確認)。