◆読売新聞10月13日付・編集手帳 (06/10/13)
日本の土木工学の草分け、古市公威(ふるいちこうい)は留学先のフランスで寝食を忘れて猛勉強した。下宿屋の主人が見かねて体を気遣うと、「ぼくが一日休むと、日本が一日遅れます」、そう答えたという逸話がある
二人はともに明治の世に青年期を過ごした。境遇の違いはあれ、いずれ劣らぬ精進に頭が下がる。国が貧しく、前途遼遠(りょうえん)なる発展の途上にあった時代は、時代そのものが厳格な教育者であったのだろう
国も人も総じて豊かになり、時代という教育者が姿を消して久しい。学力と規範意識、その両面でほころびの目立つ公教育を立て直そうと、有識者からなる安倍首相直属の「教育再生会議」が発足した
「教育バウチャー(利用券)制」や「大学の9月入学制」などが議題の候補という。「ゆとり教育」で大幅に削られた子供たちの授業時間をいかにして復活するか、学力低下の問題も避けては通れない
「学びひたり/教えひたろう/優劣のかなたで」。昨年、98歳で死去した国語教育者、大村はまさんが残した詩の一節にある。「ひたる」ことのできる場をつくること、要はそこに尽きる。

