◆障害者 差別をなくす千葉の挑戦 (朝日 06/10/30)
レストランを予約しようとしたら断られた。子どもを地域の小学校で学ばせたいのなら、親が付き添って登校するよう求められた。
障害のある人たちやその家族は、理不尽な目にあうことが少なくない。多くの場合、悔しさや憤りを感じながらも我慢を強いられてきた。
障害者への理解を広げ、差別をなくそうと、千葉県が独自の条例を制定した。「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」と、ちょっぴり長い名前がついている。
県レベルでは初めてのことだ。国が動きだすのを待つのでなく、自治体が自分たちの地域をよくするルールを整える。地方分権をめざす時代にふさわしい試みといえる。
この条例は、医療、雇用、教育、商品・サービスの提供、不動産取引など八つの分野について、どんなことが差別に当たるのか具体的に示した。たとえば不動産取引では、障害を理由に住宅を貸し渋ったり、特別な条件を付けたりすることを禁じている。
差別をする側に、その自覚がないこともある。幅広く事例を募り、集まった約800例をもとに具体的に書き込んだ。
条例が示す問題解決の手順はこうだ。差別をされたと感じた当事者は、まず県の委嘱を受けた地域相談員に相談する。相談員は当事者たちを招いて話し合いを持つ。そこで解決できなければ、専門家で構成する「調整委員会」が双方への助言やあっせんに乗り出す。
正当な理由がないのに改善されないときは、知事が差別をした側に是正を勧告する。それでも話し合いがつかずに民事訴訟を起こす場合は、県が障害者に訴訟費用を援助する仕組みも整えた。
条例を貫いているのは、差別をした者を罰するのではなく、障害者への理解を深めて、味方になってもらうという考え方だ。だから罰則規定はない。
ひとつの見識だろう。ただ、理想をうたうだけで被害者の救済につながるのか、心配になる。
当初の条例案では悪質な差別の事例は公表されることになっていた。しかし、「社会的制裁になる」という自民党議員らの反対で見送られた。
条例は来年7月に施行される。実際の運用を踏まえて、悪質なケースの公表については改めて議論してもらいたい。
条例制定の検討が始まってから2年。県庁の担当者や議員だけでなく、多くの県民が制定のプロセスにかかわった。障害者団体と、差別をする側になるかもしれない企業や小学校の校長らが同じテーブルで話し合いを重ねてきた。
県議会に条例案が提出された2月の議会では、傍聴席に空席が目立った。それが今月11日の成立の際には、議事を見守る人であふれた。
条例作りを通じて多くの県民が障害者や差別に真剣に向き合った。それがなによりの成果かもしれない。