◆【社説】女性工作員手配/国内工作網を野放しにするな (世界日報 06/11/08)
曽我ひとみさんと母ミヨシさん拉致事件で、警察当局は拉致に関与した北朝鮮の女性工作員「キム・ミョンスク」容疑者の逮捕状を取り国際手配した。政府は北朝鮮に身柄引き渡しを要求する。
曽我さん親子拉致事件での逮捕状は初めてのことだ。一連の拉致事件での逮捕状取得はこれで六人目となった。
今もなお組織が機能も
だが、これは氷山の一角にすぎない。拉致には北朝鮮からの潜入工作員だけでなく、日本国内の協力者が多数関与していた。その解明が全く進んでいない。ここに大きな問題を残している。
調べによると、キム容疑者は朝鮮労働党対外情報調査部(現・35号室)に所属し、一九七八年八月十二日、新潟県佐渡市で数人と共謀し、曽我さん親子を拉致し、二人を船に乗せて北朝鮮に移送した。キム容疑者は事件の一週間ほど前に佐渡に潜入し、拉致の機会をうかがっていたという。
曽我さん親子の拉致が、単なる偶然や出合い頭の犯行でなかったことは明白だ。国内の工作網から宿舎や拉致対象者の所在地、工作船が侵入する海岸の写真などさまざまな協力と支援を受け、用意周到に準備した上での犯行だった。他の拉致事件もそうである。
例えば、原敕晃さん(八〇年六月)と地村保志・富貴恵さん夫婦(七八年七月)を拉致した辛光洙容疑者は、関西の在日朝鮮総連系の人物らの支援を受け、久米裕さん(七七年九月)を拉致した金世鎬容疑者は在日非公然組織から資金や情報提供を受け日本潜入を繰り返していた。
またコペンハーゲンで有本恵子さん(八三年七月)を拉致した魚本公博(旧姓安部、「よど号」ハイジャック犯)容疑者は訪朝した日本人女性を補助工作員として使っていた。この女性は有本さん拉致に関与したと告白している。
こうしたことから、日本国内に大掛かりな工作網が存在していることが浮き彫りになっている。
原さん拉致事件では警視庁公安部が今年三月、原さんが勤めていた中華料理店や在日朝鮮総連傘下の在日朝鮮大阪府商工会など関連先を家宅捜索したが、いまだ関与者の摘発に至っていない。
事件から二十数年もたち捜査は困難視されるが、これら国内工作網を野放しにすることは断じてあってはならない。今なお組織が機能している可能性があるからだ。
今回、国際手配されたキム容疑者が所属していた「35号室」は、現在も盛んに工作活動を行っている。韓国で七月に破壊工作の準備のために原発や在韓米軍基地などを撮影し国家保安法違反で逮捕されたチョン・ギョンハク容疑者も「35号室」に所属していた。
また十月に発覚した韓国野党・民主労働党の幹部らによる一大スパイ事件では、北朝鮮の党対外連絡部の副部長と課長が北京に工作拠点を置き、大統領選への介入工作を進めていた。党対外連絡部といえば、有本さん拉致の陣頭指揮を執っていたのが同部の金ヨーチョル副課長だったことが、西側情報機関によって確認されている。
戦後体制の欠陥改めよ
北朝鮮への制裁措置に伴い溝手国家公安委員長は「北朝鮮工作員による不測の事態を発生させないよう諸施策を取る」としているが、拉致事件の真相究明、工作網の摘発はその有力な防止策になる。
拉致問題への関心を北朝鮮だけに向けないで、国家としては当たり前のスパイ防止法や防諜組織もつくってこなかった戦後体制の欠陥にも目を向け、その改革にも全力を傾注すべきだろう。