◆最強型H2A 巨大アンテナへの挑戦だ (産経 06/12/18)
最強パワーによる最大重量への挑戦だ。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げるH2Aロケット11号機と、搭載された技術試験衛星「きく8号」のことである。
きく8号は5・8トンで、日本の歴代の衛星中、最も重い。このヘビー級衛星を地上3万6000キロの静止軌道に乗せるために、H2Aロケットもシリーズ中の最強型が投入された。H2A「204」という形式で、1段目の脇に大型補助ロケット4本がついている。今回が初登場である。
JAXAの責務も、これまでにまして一段と重い。H2Aロケットは今回で4タイプがそろうことになり、来春には三菱重工への民間移管が待っているからだ。打ち上げを成功させ、宇宙ビジネスの国際市場参入に向けて第一歩を踏み出してもらいたい。
きく8号は、試験衛星として将来型の通信衛星の基礎技術を確立する目的を持っている。打ち上げから約1週間後に、軌道上でテニスコートほどの広さがある大型アンテナを2枚開く。差し渡し40メートルにもなり、世界最大級の静止衛星だ。
各アンテナは14枚の六角形が集まって構成されている。大面積と軽量性を両立させるため、モリブデンに金メッキを施した金属糸をレースのように編んだ軟らかい“羽衣アンテナ”だ。
宇宙空間で巨大なアンテナを使う技術として日本が独自に開発した。六角形の数を増やせば、より大きなアンテナや構造物に発展可能なシステムで、世界の注目を集めている。
しかし、無重力の宇宙空間でふわふわした大型アンテナを広げることは想像以上に難しく、高度な技術が要求される。日本の技術力の見せ所だ。
宇宙でのきく8号は、大きな耳を広げたような外観となり、常に日本列島を見下ろす位置に浮かぶ。
この耳で地上からの通信電波を受け止めながら宇宙中継基地として働くので、普通の携帯電話サイズの端末でも広域の衛星通信が可能になる。災害発生で地上の通信網が機能しない非常時にも通信手段が確保される。
今回はロケットと衛星が、ともに新たな課題に挑む。約600億円の計画をぜひ成功させてもらいたい。