◆地球温暖化/北極の解氷が示唆する危機 (世界日報 06/12/17)
二酸化炭素など温室効果ガスがこのまま増え続ければ、北極の海氷はこれまでの四倍のスピードで減少し、二〇四〇年夏には、ほぼ消滅するという試算が出た。このことは地球規模での危機がそう遠くない時期に迫っていることを示唆するもので、関係諸国は真剣に温暖化問題に対処すべきである。
観測史上最小の海氷面積
発表したのは米国立大気研究センターとワシントン大学などの合同チームで、米国地球物理学連合の学会誌「地球物理学研究レター」に掲載された。十年後には氷の面積は三分の一になり、四〇年にはグリーンランドやカナダの北部沿岸にわずかに残るだけになってしまうという。
米国、ロシア、北欧諸国で構成する「北極評議会」が二年前に出した予測は、七〇年に北極の海氷が消滅するというもの。今回の試算は溶けていく早さが加速していくことを示し、温暖化問題の深刻さを物語っている。
ただ気候形成のメカニズムは単純なものではなく、気象、海洋、地球がどのようにかかわり合っているのか、解明されていない問題も多く、予測はあくまでも限られた設定条件でのものだ。しかし、過去のデータを見ると、この予測が必ずしも現実と大きく懸け離れているものではない。
海氷は大陸の河川から北極海に流れ込む淡水が起源で、季節によってその量は大きく変化する。冬季に形成され、九月にその面積が最小となる。
海氷の衛星観測が始まったのは一九七八年からで、八〇年九月の海氷面積は七百五十万平方㌔㍍だったが、次第に減少し、昨年九月には五百三十万平方㌔㍍と、観測史上最小を記録した。減少の大きな理由は、冬季に回復する海氷が十分に回復しなかったためだ。
海氷の減少により、最も懸念されるのは、地球全体の海流パターンへの影響と、それによって引き起こされる大きな気候変動である。夏に海氷がなくなると、海洋の循環を維持する力が弱まってくる。例えば、北大西洋を循環しているメキシコ湾流が弱まると、この海流によって暖かく保たれていたヨーロッパの気候が一変して、シベリア並みの寒冷気候へと変容する、という予測もされている。
海面の上昇による水没地域の増加や生態系の崩壊、多雨・小雨地域の移動、高温地帯の拡大なども予想される。
ところで二酸化炭素の濃度が高くなることによって、温室効果が地球全体に及ぶわけではない。一月の気温について、七七年から八六年まで十年間の平均値を、それ以前の十年間の平均値と比較したデータでは、アラスカやカナダでは一〇度も上昇しているが、日本や中国では変化していない。
二酸化炭素が二倍になった場合の気温上昇の予測でも、緯度が高いほど気温の上昇が大きい。そのために国によって問題のとらえ方も異なるが、今は共通の危機認識こそ必要だろう。
温暖化を防ぐためには、二酸化炭素の排出を抑えることが急務である。そのために、原子力をはじめ、太陽、風力、水力、バイオマスなど再生可能エネルギーへ比重を移していくことや、究極のエネルギーといわれる水素エネルギーの開発利用も推進すべきだ。
危機意識を共有し対処を
現在、京都議定書(〇八─一二年)の公約実現に向け締約国は二酸化炭素削減へ努力しているが、批准していない米国、豪州や削減義務を負っていない中国、インド、韓国も危機意識を共有し対処する必要がある。