◆【断】美しくない日本語 (産経 06/12/23)
安倍首相は「公家顔」だ。のっぺりした瓜実(うりざね)顔は、首相というより「関白・安倍の晋三」と称したほうがぴったりくるし、官邸より京都の御所が似合う。
高市早苗氏や片山さつき氏みたいなきつい顔をした女性議員が傍(そば)に侍(はべ)ると、彼女たちまで「女官」に見えてくるから不思議だ。
政界で「公家集団」というと、いざという時に頼りにならない根性なしの派閥やグループに対する悪口になる。安倍首相の場合、私はあえて公家でなく「クゲ」とカタカナで表記したい。首相がカタカナ好きだからである。
所信表明演説からして「イノベーション(技術革新)」「インセンティブ(動機づけ)」「IT(情報技術)インフラ(社会基盤)」などカタカナだらけだった。
さらに先日、自ら本部長を務めるIT戦略本部が実現を目指す主な施設のリストを発表した。そこでも「テレワーク推進」「総合情報ポータルサイト」「レセプトの完全オンライン化」など訳の分からないカタカナが混じっていた。
「貴様、それでも日本人か!」とは戦時中に軟弱な男を罵(ののし)る際の常套(じょうとう)文句だが、そんな時代錯誤的な台詞(せりふ)でなじってみたくなるほど演説や政府発表の文言にカタカナが多い。
私が知るカタカナ好きの人物はたいてい外国に対してコンプレックス、いや劣等感を抱いており、その上はなはだ日本語の表現能力に欠ける。安倍首相も同類とは思いたくないが、自分の言葉でしゃべっているとも思えない。
美しい国を目指す前に、まず自分自身が美しい国語を話すよう心がけたらいかがか。(作家・吉川潮)