◆[海洋基本法]「なかったことの方が不思議だ」 (読売社説 06/12/31)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20061230ig91.htm
エネルギーの9割、食糧の6割を海外に依存する日本にとって、海洋政策は国の存立に直結する。その指針や実行体制を定める法律が、これまでなかったことの方が不思議だ。
海洋基本法案が年明けの通常国会に提出される見通しとなった。自民、公明、民主3党の議員でつくる研究会が法案の「概要」をまとめた。海洋政策の「基本計画」策定や、内閣への「総合海洋政策会議」創設、「海洋政策担当相」の任命などを盛り込んでいる。
1994年の国連海洋法条約発効で、沿岸国は経済上の主権的権利が認められる排他的経済水域(EEZ)や大陸棚を設定できるようになった。
韓国は、13省庁にまたがる海洋担当部局を統合し、海洋水産省を新設した。中国は、国家海洋局に海洋関係の権限を集中した。いずれも、一元的な海洋政策の展開が目的だ。
だが、日本は省庁ごとの縦割りの対応が目立つ。知床半島に重油まみれの海鳥の死骸(しがい)が流れ着いた問題は、環境省が国の窓口となった。相手がエチゼンクラゲだと、農林水産省の担当だ。漂着ゴミの処理に至っては、流れ着く先が海岸か漁港かで担当省庁が異なる。
東シナ海のガス田問題にしても、中国が開発に着手したのは10年以上前だ。外務、防衛、経済産業の各省庁はそれぞれの部局で、開発が進行していることを承知しながら、黙って見過ごしてきた。
政府全体で問題意識を共有していれば、生産開始間近に慌てて開発中止を求めるような失態は防げただろう。
研究会の法案概要が海洋政策会議や海洋担当相の新設を盛り込んでいるのも、海洋政策の“司令塔”不在の現状への強い危機感からだ。
東南アジア各国と日中韓など15か国は海洋政策を協議する「東アジア海域環境管理パートナーシップ」を、来年度から独自の事務局を持つ地域協力の枠組みに発展させる予定だ。
現在は国土交通省が窓口だが、資源開発や環境対策など国交省の所管外のテーマも議題にのぼる会議だ。省庁の縦割りを引きずって国際的動向から取り残されるような事態は避けねばならない。
科学的データがあれば可能な大陸棚の延伸も、データ提出の期限まで2年余りとなった。海上保安庁が海底の地形調査を進めているが、延伸申請に向けた準備にも本腰を入れる必要があろう。
これまでの遅れを一刻も早く取り戻して、海洋国家にふさわしい体制と戦略を整える時だ。海洋基本法案は、通常国会で成立させるべきである。