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◆【正論】拓殖大学教授・藤岡信勝 リンカーン演説と「戦後民主主義」



 (産経 07/1/13)

 ■「人民の政府」と誤訳する思想の限界

 ≪「人民の政府」とは何か≫

 1863年、アメリカ南北戦争最大の激戦地ゲティスバーグで、リンカーンは戦死者を顕彰する短い演説を行った。

 その末尾の一文に「人民の、人民による、人民のための政府」というフレーズが使われたが、これはその後民主主義の本質を簡潔に示す名文句とされ、戦後の日本でも学校で繰り返し教えられてきた。

 確かにこのフレーズは、民主主義的な性格の政府が有する3つの側面を〈of by for〉の3つの前置詞の働きによって見事に表現したものである。

 だが、1990~91年の湾岸戦争で、日本が国家の体をなしていないことを痛感した私は、その原因を戦後教育の欠陥の問題としていろいろ考えていくうちに、その一つとして右のリンカーンの言葉の本当の意味が全く教えられてこなかったことに気付いた。

 (1)「人民による政府」は政府をつくる「主体」が人民であることを表現し、

 (2)「人民のための政府」は人民の利益をはかるという政府の「目的」を示していることには何の疑念もない。問題は、

 (3)「人民の政府」である。この意味を前2者と重複することなく適切に説明することができるだろうか。不可能である。

 実は〈government of the people〉を「人民の政府」と訳すのは完全な誤訳なのである。

 なぜなら、これは「人民を『対象』として統治する政府」という意味だからである。「人民の政府」という日本語の語句をいくらひねくり回してもそういう意味は絶対に出てこない。


 ≪客体か主体か解釈論争≫

 昨年12月16日付の本紙に第22回正論大賞受賞者・佐々淳行氏への「お祝いの言葉」として右の結論だけを書いた。どういうことかとの問い合わせもあったので、少し立ち入って再論したい。

 文法的に説明すると、発生的には、まず〈govern the people〉(人民を統治する)という表現が原型にある。

 次に動詞の〈govern〉を名詞化して〈government〉と変形した。そこで2つの名詞の間の論理的関係を示す必要が生じ、前置詞〈of〉を挿入した。

 これは「目的格関係」と呼ばれる〈of〉の用法で、どんな小さな英和辞典にも記載されている。

 要するに原型において「統治する」という動詞の目的語が「人民」であったことを明示しているのである。

 ところが、〈of the people〉の解釈をめぐっては戦後日本で2大陣営に分かれた論争が展開された。

 英語学者・英文学者は当然ながら人民は「客体」であると解釈したが、政治学者・法学者たちは人民を「主体」とする政府、または人民が「所有」する政府と解釈して譲らなかった。

 例えば「主体」説をとる憲法学者の宮沢俊義氏は、右の(1)と(3)は「厳格には区別できない」と書いた。


 ≪「戦後民主主義」の呪縛≫

 論争の帰趨(きすう)はもちろん「客体」説の圧勝であった。民主主義とは「統治の客体(=人民)が同時に統治の主体でもあるシステム」と定義することもできるのだ。それなのに関係者の顔を立てて結論はあえて曖昧(あいまい)にされた。

 占領下の暫定教科書『民主主義』の訳語を批判された文部省の回答がふるっている。

 文法的には目的格で訳すべきであることを認めながらも、「それではかえってリンカーンの言葉の本質的性格を失わせるものである」とし、「国民主権をその本質とする民主主義の性格を表すためには当然ofを所有の意味に訳すべき」(朝日新聞、1949年3月1日付)と書いた。文法を無視して言葉の解釈が成り立つとは驚きである。

 人民が統治の客体であること、すなわち権力行使の対象であるという当たり前の事実を執拗(しつよう)に否定するのは、民主主義と権力は根本的に相いれないと考える日本独特の「戦後民主主義」の観念に呪縛(じゅばく)されているからである。

 国家イコール悪とされ防衛・治安問題を正面から論じること自体がタブー視された。

 映画「突入せよ!『あさま山荘』事件」に印象的なシーンがある。役所広司扮(ふん)する現場指揮官の佐々淳行氏は、新聞記者たちが十分焦(じ)れた頃合いを見計らって強行突入のタイミングを決めるよう指示する。

 「戦後民主主義」の優等生である記者たちの基準で権力行使の時期が少しでも早すぎると感じられれば、警察はマスコミに袋だたきにされるからである。

 北朝鮮による拉致問題を典型として日本社会は「戦後民主主義」の高いツケを払わされてきた。その誤った民主主義理解の克服なくして日本はまともな国家になれないことは明らかである。
by sakura4987 | 2007-01-16 08:24

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