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◆他者の苦しみ、痛みに無関心やめよう (産経 07/1/27)



筑波大学名誉教授・村上和雄


 ■世界変える力は自分自身の中にある

 ≪世界全体が「人類家族」≫

 2006年11月に広島国際平和会議が開催され、ノーベル平和賞受賞者が来日した。それは次の3人である。

 亡命生活の中、愛と非暴力でチベット問題を解決しようとするダライ・ラマ14世。南アフリカの不条理な人種差別政策を廃止させ、人々の和解につとめるデズモンド・ツツ大主教。北アイルランド独立闘争で犠牲になった子供たちのために立ち上がったベティ・ウイリアムズ氏である。

 会議初日、ダライ・ラマ14世は次のように発言した。

 「人間は社会生活を営む生物である以上、個人の幸せは社会に依存している。経済や人口増加、環境問題など、あらゆる事象がグローバル化した時代だからこそ、世界全体を『人類家族』ととらえる考え方が重要だ。その意味で、人類一人一人が『普遍的責任』を負っているのである。

 すべての人間は他者を思いやる心を持つ。すべての人間は母親から生まれる。そして、母親から無私の愛情を注がれて育つ。他者への思いやりの心は、母親によってはぐくまれるのだ」

 次に登場したウイリアムズ氏は、冒頭にこう言った。「ノーベル平和賞受賞者としてこの場にいるというより、一人の母親として発言したい。生まれてきたすべての人間は皆、兄弟姉妹だと考えている。子供たちは、みんなの子供だ。年間、1400万人の子供が世界中で殺されている。今こそ耐えがたい痛みと死の状況を一変させなければならない。献身、努力、勇気を持って、世界中で毎日続いている恐怖を変えていくべきだ」

 ≪許すことで人は変わる≫

 翌日講演したツツ大主教の話の核心は、罪を犯したものを許すということだった。

 「南アフリカの人種隔離政策が終わりを告げたとき、多くの人々は残虐な報復行為が起こるのではないかと考えた。しかし、それは起こらなかった。むしろ、和解のための委員会が開かれた。

 それは、長い間虐げられてきた黒人が寛大な精神を持って許そうとしたからだ。大切なのは、現実を直視することだ。感情的には非常な困難がともなうが、南アフリカではまさにそれが行われている。

 人は変われる。善良な人間になることができる。昨日の敵でも、明日は友になれる。これが南アフリカで起こっている。ならば、世界中のどこでも可能なはずだ」

 3人の発言は、民族、宗教、国家の次元を超え、図らずも「人類は一つの家族である」ということで一致していた。

 それぞれが、想像を絶する苦難を乗り越えながら、弱者に対して温かい手をさしのべ、不正義に対し敢然といまなお闘っている。そのような3人の姿に接し、私たちは大いなる勇気をいただいた。


 ≪原因は自分自身にある≫

 私はこの会議の総合司会をつとめた。その中で次のように発言した。

 医学・生物学上で20世紀最大の発見は、DNAの構造の発見と、遺伝の仕組みがわかったことである。その結果、カビも昆虫も、植物も動物も人間も、生きとし生けるものすべては、同じ遺伝子暗号を使っていることがわかった。

 このことは、相争っている人間も、自然環境の変化にさらされているすべての生物も、最初に生まれた命につながっている兄弟姉妹であることを意味している。

 だからこそ、人と人が愛し合い、助け合い、そして、人間以外のすべての生物を思いやる心が大切であることを、生命科学の現場にいる者として感じている。

 人類の最初の被爆地である広島に、黒人、白人、アジア人の3人のノーベル平和賞受賞者が集まり、多くの市民と交流して、21世紀の初頭に平和へのメッセージを世界に向けて発信したことは大変有意義なことであった。

 このメッセージの精神をいかに具体的にするかについては、われわれ一人一人の行動にかかっている。

 世界の困難な問題解決に日本人が努力することにより、日本を世界から尊敬される国にしたいものである。


 この会議の最後に採択された広島国際平和会議の共同宣言文には次のような一節があった。

 「私たち人類は一つの家族です。私たちは、他者が味わっている苦しみ、痛みに無関心であることをやめて、子供、弱者、高齢者の問題を、世界全体で考えなければならないのです。

 問題が起こっているその原因は、私たち自分自身にあります。そして、その解決もまた私たち自分自身から始まるのです。世界を変えるのに必要な力は、あなたの中にあるのです」
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by sakura4987 | 2007-01-28 09:02

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