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◆【美しい心のかたち】(中)京都大学大学院教授・佐伯啓思氏



 (産経 07/1/26)

 ■問いただされる国民の価値

 「美しい国」への志向自体はいいと思うのです。しかし安倍政権が継承する構造改革はむしろ「美しい日本」を壊してしまうのではないか。また日米関係の強化は、精神的に日本をますますアメリカに従属させるのではないかと心配します。

 青少年のいじめや自殺などに現れているように、あまりに日本の価値規範が希薄になりすぎました。少年暴力、親殺し子殺し。性風俗の乱れ。あまりに規範がゆるみ、醜くなりすぎている。その反動として、「どこかに美しいものがあるはずだ」という思いが日本人に出ているのでしょう。

 醜いといえば景観。景観が醜いということは、人の精神がどこか醜くなっているということです。戦後の長い期間に起きたことですが、特に規制緩和と関係している。どんどん都心に高層ビルをつくり、経済を支えた。あるいはコスト優先のプレハブ。構造改革によるコスト削減のためでしょう、電化製品の質はとても悪くなった。子供の教育ばかりではない、大学改革だといって完全に商業路線に入り、大学のレベルがあまりにひどくなりました。

 構造改革は、本当はまったく違ったコンセプトで国家を作り直すべきだったのです。しかし結局は経済立て直しと景気刺激策になってしまった。

                   ◇

 戦後日本では、国家は正面から議論されませんでした。なんとなくタブーになっていたし、日米同盟のもとで国というものをあんまり考える必要がなかった。しかし今、国民的に共有できる価値とは何かが問題になっています。

 国とは強いて英語でいうとネーション・ステートです。ネーションは「国民」、一定の歴史的経験や文化を共有する人の集団です。ステートは統治機構。最近、ステートについてはずいぶん議論がある。しかし今、問題なのはネーションです。価値は、いきなり作り出すことはできません。その国の歴史や文化から出てくるものです。

 たとえば靖国問題は、日本の長い文化を視野に入れた歴史観と、東京裁判史観およびその背後にあるアメリカ的な歴史観の対決の場にもなっている。アメリカ的歴史観とは、世界を常に、民主主義とそれに対する挑戦者に分けて考えるものです。靖国問題では日本独自の、日本の宗教や文化に根付いた歴史観があるのではないかということが見えてきた。ここでもネーションの価値が問いただされています。

 「美しい日本」が広く語られるのは、戦後のアメリカ依存体質への批判もあると思います。構造改革も極めてアメリカ的なものになってしまった。象徴的なのはホリエモンと村上ファンドです。あらゆる手を使って金もうけをする、企業買収をして株価をつり上げて売り抜ける。本来のモノづくりからすればあまりにひどいのですが、アメリカ的な考え方では、法に触れなければいい。

 自国中心主義、戦闘的国家主義ではない、ゆるやかなナショナリズムが必要だと思います。

                   ◇

 安倍首相は著書で、日本とアメリカは価値観を共有していると書いています。これは間違い。アメリカの価値観とは、自由主義・民主主義が単に大事だということではなく、対立する悪をやっつけてこれらの主義を世界に広めようとするものです。日本はそこまでいっていません。

 自由主義や民主主義というのは利己主義、つまり自分の利益を追求する個人から出発して、その個人の集まりをどう調整するかという話です。それは先進国なら満たしています。問題は、自由や民主を使って一体何をするのかということです。

 むかしの日本には、和の精神や無私、公共性など社会的な価値観がある程度ありました。いまの日本には国家の次元でも、個人の次元でもそれが見あたらない。戦後、外交・防衛はアメリカに頼って、日本はもっぱら経済発展に専念する。日本人の関心は金の配分の話になった。冷戦が終わって入ってきたのが構造改革です。

 日本が守るべきものは何か、日本の文化とは何かという根本を説明する、本来の保守の思想が戦後日本にはなかったのです。

 「美しい日本」を語るには思想的に西洋・アメリカ文明を相対化すること、そして日本文明論が必要です。仏教、神道、儒教、日本的自然観。土着的な美意識。それらはごちゃまぜになって、必ずしも教義にならないで、しかし生活や人間関係に現れるのです。
by sakura4987 | 2007-01-28 09:09

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