◆自民に浸透するリベラル思想 (世界日報 07/5/24)
民法改正に「無戸籍子」を利用
■婚姻制度崩壊も
「離婚後三百日以内に生まれた子供は前夫の子」と見なす民法七百七十二条に関して、妊娠が離婚後であることを示す医師の証明があれば、例外的に再婚相手の子供であることを認める法務省通達が二十一日から実施されている。
「無戸籍子」がかわいそうだとして、民法改正まで行きかけたが、寸前のところで、「家族の価値」を重く見る自民党の良識が働いて、通達による救済となった。
冒頭の規定を見直せば、不倫の子供も救済対象となり、わが国の婚姻制度がなしくずしになる危険性があった。
今後は、今回の通達で救済対象とならなかった離婚前妊娠で生まれた子供(無戸籍子の九割を占めらる)の救済策に焦点が移るが、家族の価値の根幹をなす婚姻制度を守りながら、やむを得ぬ状況で無戸籍となった子供をどう救済するのか、バランスのとれた論議を期待したい。
懸念されるのは、そこでも無戸籍子というかわいそうな存在を利用して、家族の在り方や婚姻制度に密接にかかわる民法を変えてしまおうというリベラル勢力の動きだ。
今国会への提出は見送りとなったが、自民党のプロジェクトチーム(PT)の民法改正案には、七百七十二条の見直しばかりか、女性の再婚禁止期間を短縮させる内容も盛り込んでいる。
再婚禁止期間の短縮は、かつて法制審議会が選択的夫婦別姓制度とセットで答申したものだ。
PT案の中に、無戸籍子問題とはまったく関係のない再婚禁止期間の短縮が盛り込まれたことを見ただけでも、改正案の背景に家族の価値よりも個人の権利を優位に置くリベラル思想があることは明らかだ。
また、事実婚の経験者で、選択的夫婦別姓制度を主張する野田聖子衆院議員は「法相の言う貞操義務は、本来愛する相手に果たすものだ。それを民法の議論に持ち出すのは未成熟で幼稚としか言いようがない」(毎日新聞五月十四日付)と、子供の権利を最優先に民法を改正すべきだと主張する。
だが、これは的外れの主張だ。民法は「不貞行為」を離婚の理由として認めているし、慰謝料も請求できる。貞操義務は今も法律上の義務として生きているのである。
それを「貞操義務は、愛する相手に果たすもの」と道徳論にすりかえることこそ、未成熟で幼稚な論法だろう。
もちろん、例外もある。
夫婦としての実態が事実上失われている場合は、離婚成立前の妊娠でも、民法七百七十二条による父親の推定を受けないとの最高裁判決があり、現在でも家庭裁判所に調停申し立てを行えば、戸籍変更が認められるのである。
■救済は別に可能
民法が無戸籍子をつくっているのではない。やむを得ぬ事情があって、戸籍の届け出をしないことが無戸籍子を生んでいるのである。
同情すべき例外のケースが多くなったからといって、民法を改正するというのは本末転倒だ。法律を変えるのではなく、救済は他の方法でもできるはず。
しかも、社会の秩序の根幹にかかわる一夫一婦制をなしくずしにしかねないのだから、なおさら議論は慎重を期すべきだ。
たとえ無戸籍子というかわいそうな存在があったとしても、社会発展の要をなす家族の価値の重要性を忘れてはならない。それが成熟した政治家というものだろう。