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◆「見直そう、成果主義」



 (アエラ 2008/3)


 経済学者カール・マルクスが若いころ、こんな言葉を残しています。

「お金があれば、愛も勇気も買える」

 マルクスは、たとえば権力者がその莫大な財力にものをいわせ、財宝や軍隊を買い、それらを自在に操ることであたかも「愛」や「勇気」の持ち主のように振る舞えてしまう「お金の非人間性」を、批判したのでしょう。つまり、言うまでもなくこれは、皮肉の箴言です。

 さて、日本企業はバブル崩壊後の90年代から、急速に「成果主義」を導入しました。その弊害が指摘されるようになって久しい。なのに見直しの動きは遅々として進まない。

 今回、トヨタ自動車や三井物産、YKKなどの企業を取材し、成果主義を乗り越えようとする試みを記事にしました。

 ひとはもちろん、お金のために働くのだけれど、お金のため「だけ」に働くのではない。売り上げや利益といった数字(お金)の尺度だけで、社員や組織を評価しようとする成果主義の過ちが、どんな問題をもたらしたのかをまとめました。

 成果主義もまた、その依拠する発想は、「お金があれば愛も勇気も買える」というものでしょう。でも、そんな愛や勇気は、そのひとの本当の力とは、まったく関係がないと思います。


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◆トヨタの「職場革命」

 (AERA 2008年4月7日号)


 「成果」中心の人事制度を敷いた企業に、見直しの動きがある。共通するのは、数値化されにくい「役割」「チーム力」の再評価だ。

 自動車生産で世界トップに躍り出たトヨタ自動車が、大胆な組織改革にまた乗り出した。伝統的な「ピラミッド型組織」をぶちこわし、世間をあっと驚かせたのは、1989年のこと。ところが、このとき導入した「フラット型」の組織を、いま一度、破壊しようとしている。

 89年の改革でトヨタは、「大企業病の払拭」を掲げて、課長や係長などの中間管理職を全廃した。「個人の力」を高めて、組織の意思決定をスピーディーにするという狙いは、一定の成果を上げたという。しかし……。

「その一方で、コミュニケーションや人材育成を基盤とした『職場力』『チームワーク』は弱まりつつあるのではないか」

 木下光男副社長は昨年4月、社内報でこう懸念を表明した。フラット化によって組織・集団としての力が衰退していると、異例の警告だった。全社員に対して、「職場風土の再構築」を呼びかけた。


■職場から消えた兄貴分

 フラット化の導入前に入社した40代の男性社員は、新人時代の変化をこう振り返る。

「ピラミッドのころは、係長からして、もう『机の向き』が違っていた。課長なんか、ものすごく偉い存在。まして次長ともなると、口もきけなかった」

 それがいきなり、「役職はみんな不要だ」と様変わりしたわけだ。衝撃だったという。1人のグループ長の下に、30人近くが水平につき、課長から派遣社員まで、みんなが横一線に並んだ。

「それで確かに、意思決定は迅速化し、柔軟にもなった。でも、失ったものも大きかった」

 社員はみんな、自分の仕事ばかりを追うようになった。それまであった先輩・後輩の「教え、教えられる」というコミュニケーション関係が消えていったという。

「だけど、新人時代って、日々が自分の無力さの痛感ですよね。落ち込んでは、なんとか奮起を繰り返すなかに、先輩の励ましがあった。絶えず自分を気にかけてくれていた」

 ちょっと手を抜くと、不思議とすぐに見透かされ、「おい!」と注意される。自分のことなど、見ていないようで、実はするどく監視もしてくれていた「兄貴分」。そんなありがたい存在が、職場から消えたという。

「当時は宣伝担当。ま、いいか、って感じで作った企画書が、だれからも咎められずに、あっさりと通過したときは、自分で唖然とした。もう、自分を見てくれる人はいなくなったと、思った」


■議論や工夫が活発化

 フラット化の見直しは、こうした「先輩~後輩関係」の復活をねらっている。木下副社長の警告から3カ月後。トヨタは07年7月に「小集団化」を導入した。改革に先駆けて、いくつかの部署を「モデル職場」にして、半年間の検証もしている。

 その一つ。新車進行管理部は、新車の切り替え日程づくりや進行管理を担当する部署だ。そこで、車種ごとに小集団を編成してリーダー役を置いたところ、議論や工夫は活発になり、効率化を図れたという。

 第1エンジン技術部では、スタッフ2~3人に対して2人のチーフをおくという手厚い小集団化をした。

「その結果、意外なところで若手スタッフが業務につまずいていることに気づき、早期に軌道修正のアドバイスができた」

 と、期待以上の効果があったと報告している。

 フラット化の見直しを進めた人材開発部の元スタッフ、本間英章第1企業広報グループ長はいう。


■「核にあるのは、TBPだろう」

 TBPとは、主に事務部門の人材育成のためにトヨタが導入した訓練プログラム「トヨタ・ビジネス・プラクティス」のことだ。さまざまな問題解決力を養うための研修で、難題をケーススタディーで与えて、乗り越える方法を考えさせる。問題提起から実行・評価までのプロセスをまとめ、教材なども整備している。

 「TBPは、絶え間ないカイゼンを進めることを旨とする『トヨタウェイ』を、実践するための方法です。するどい質問や意見が飛び交い、みんなボコボコにされる。厳しい真剣勝負を通じて、一人前に鍛え上げられていく」

 これを研修の場だけにとどめず、日々の仕事の現場へと落とし込み、日常的に取り組んでいける組織づくりが、今回のフラット化の見直しなのだと、本間さんはいう。


■きっかけは不祥事

 個人がばらばらに仕事をするのではなく、職場の状況に応じた小集団をつくり、リーダーのもとで仕事に取り組む。TBPと同じように、先輩と後輩の絆で結ばれた「強い共同体意識」によって、難問を解決していくことを目指すという。

 リーダーは、自分の後輩や部下にあえて難しめの目標を与え、適切なフォローをしながら能力を伸ばしていくことが求められる。人事評価においても、「人材育成」という期待役割がはっきり明記された。

 三井物産も、いったんは導入した成果主義をベースとする人事制度を、価値観の共有や人材育成といったソフト面も評価されるように、06年に大幅な改定をした。

 きっかけは不祥事だ。東京都などのディーゼル車規制に絡んで、粒子状物質除去装置(DPF)という製品のデータを改竄し、より高い性能があるように装って販売していた。04年に発覚し、刑事事件に。関与した社員は懲戒解雇処分。三井物産は、社外専門家を交えた問題検討の委員会を設置し、再発防止策をまとめた。

 その一つが、成果主義の見直しだ。

「社員に誤った判断をさせる原因は、業績を数字のみで評価するような会社のシステムにあったのかもしれません。これは取り除く必要があります」

 槍田松瑩社長が、社外の有識者との話し合いで、こう表明している。委員会は「業績結果重視からプロセス重視へ」とする答申をまとめ、改革に移した。


■結果よりプロセス重視

 それまでは、組織業績評価は100%、売り上げなどの数字による定量評価だった。これを20%に減らし、残りの80%は定性評価に変えた。「社会の信頼を高めたか」「総合力の発揮に努めたか」といった、プロセスの質を評価する。また、その評価方法も、相対評価から絶対評価へと変更した。

「わたしたちは商社です。稼ぎは確かに大切だ。でも、その評価は2割ぶんですよ、ということ。稼ぎの性質や正当性、プロセスのほうを大きく評価します」

 と、改革を担当した人材開発室の瀧口斉室長はいう。それまでの評価方法では、他人を蹴落としてまで自分の評価を高めようとするような、誤った競争が起きてしまったという。働く意欲や喜びを生み出す制度ではなかったのだ。

 社員の一人は、こう嘆く。

「本当に、『競争するんだから教えられない』といって、同僚にも仕事のやり方を教えない社員まで現れた」

 社内で実施した社員満足度の調査でも、不満がはっきり表れたという。改革は、働く意欲の立て直しでもあった。

「つまり、数字には表れない『よい仕事』を、きちんと後押しする制度に変えたのです」

 と瀧口室長。ともすれば、それまでは取引先に嫌われてでも単年度の業績を追い求めていたが、そんなことをしても逆効果だとはっきりさせた。そして、3年や5年といった中長期の視点に立てるように、評価制度を作り直していった。

■人の「実力」は測れない

 成果主義との決別を徹底しているのが、YKKグループだ。「役割を軸とした人事制度」と名づけている。グループ人事企画センター長の寺田弥司治常務は、はっきり断言する。

「結局、人の『実力』は測れないということです。成果主義では、本当にだめなのです」

 YKKでは2000年に、いったん『成果・実力主義』と呼ぶ制度を導入する。このときも、「成果」よりは「実力」に重点を置いていた。旧来の職能資格制度に変わり、職位にとらわれずに人材を評価しようという狙いがあった。

 ところがいざ運用してみると、単年度の数字による成果ばかりで人材を評価してしまい、プロセスを無視する傾向が出てきたという。とても「実力」を評価しているとはいえず、ただの目先の成果主義に陥った。

「さんざんの試行錯誤を繰り返して、たどり着いた結論は何か。それは、自分たちが行動基準の最高位に位置づけている『公正』という視点を、人材評価でも中心に据えることでした」

 と寺田さん。そして、この公正さを見る軸が、「役割」というわけだ。つまり、意外なことにYKKは、旧来的な「職能資格制度」(能力主義)という原点に戻っていく。成果よりも能力を重視し、それを「役割」として公正に評価しようと目指す。

 いわゆる「出世ライン」も複線化した。それぞれが求められる役割をはっきりさせるためだ。従来の制度では、たとえば職人気質の優秀な技術者であっても、その高い評価ゆえに、かえって不慣れな管理職をやらされ、つぶれてしまう不合理があった。


■入社10年までは年功制

 新しい制度では、管理職層を二つに分ける。組織管理や運営を担う「マネジメント職群」と、技術開発や営業などのプロフェッショナルを追求する「専門専任職群」だ。そうやって役割をはっきりさせて、等級を与えて評価する。短絡的な成果とは、無縁のシステムだという。

 多くの企業で、成果主義の弊害がはっきりしてきた。改善に動きだす会社が、少しずつだが現れている。

 住友商事も、06年に職能資格制度を廃止し、成果主義を強化した。だが、入社10年目までの新人には、これを適用しない。10年間は、旧来型の年功制によって給与が上がっていく。

「10年目以下は、プロの商社人となるための準備期間」

 と、同社は位置づける。短期的な成果などにとらわれず、しっかりと土台を築くためだ。

 人材育成をサポートするための「住商ビジネスカレッジ」という企業内大学も開設した。新人から理事までの階層別の研修プログラムのほか、海外への留学制度など、幅広いメニューを準備している。

 ところで、こうした大企業とはまったく異なった人材観をもって、人を育てている会社もある。「社員が成果を上げるのは、むしろ会社の責任」という考え方だ。串焼きチェーンの「くふ楽」などを展開するKUURAKU GROUPは、08年採用で、

「就職希望者に、全員内定」

 という奇想天外な離れ業をやってみせた。会社説明会に参加した卒業予定者に、「当社で働きたい人は」と問いかけ、手を挙げた29人全員に、その場で内定を出したのだ。

 そこに表れているのは、

「どんな人材も、われわれが一流にしてみせる」

 という自信と覚悟であるといえる。茶髪にピアスの若者たちが、仕事に生き甲斐を見つけていく。「3年で3割が辞める」といわれる時代にあって、同社の3年目の退職率は5%以下という。

 人材評価とはなにか。グループの福原裕一社長はいう。

「可能性を信じ、仲間に迎え入れ、挑戦させ、認めること。埋もれ、曇っていた人間が、働くことで生き返る。すべての人間は平等です」

 福原さんにとっての成果主義とは、会社が社員を評価するのではなく、むしろ社員から会社が評価される仕組みだ。社員の成長が、会社の評価だ。

 多くの組織が、成果主義に呪縛されている。抜け出そうとする試みが、始まっている。
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by sakura4987 | 2008-04-17 11:40

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