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◆【正論】防衛大学校名誉教授・佐瀬昌盛 コソボ独立の見えざる背景



 (産経 2008/4/11)


 ≪国際法の諸則は高尚だが…≫

 セルビア共和国のコソボ自治州の独立宣言からほぼ50日、独立承認国数が増えている。日本も承認に踏み切った。他方、セルビア擁護のロシアはコソボ独立を国際法違反と決めつけ、だからコソボの国連加盟見通しは立たない。ロシアほど激しくはないが、中国もコソボ独立に反対している。

 ところで、ではコソボ独立の国際法上の準則は何かとなると、わが国の報道は皆無に近い。いや、そんな議論は不要だ、国連憲章第1条2の「人民の自決の原則」(俗に言う民族自決権)がそれに決まっているじゃないか、との声があろう。それは謬論(びゅうろん)ではない。が、ことはしかし簡単ではない。この問題の議論は、将来の国際秩序の根幹にかかわるものだからだ。

 憲章第1条を念頭に国連総会は1966年、2種の国際人権規約を採択した。その第1条はともにこうだ。「すべての人民は、自決の権利を有する。この権利に基づき、すべての人民は、その政治的地位を自由に決定し、並びにその経済的、社会的及び文化的発展を自由に追求する」

 1990年代のセルビアによる「民族浄化」の煉獄(れんごく)、それを排除した99年春のNATO(北大西洋条約機構)によるセルビア空爆、同年6月の国連安保理決議1244下での9年間という曲折に照らせば、「人民の自決の権利」こそがコソボ独立の根拠たることは自明である。だが、2月17日発出の長文の独立宣言にはこの原則への言及が全くない。これはなぜだ。

 ≪「人民自決」は強調できず≫

 他面、独立宣言には、コソボ問題で国連事務総長特使を務め、ほぼ1年前に苦心の報告をまとめたアハティサーリの名が8回も登場する。つまり、独立宣言はコソボを将来的にはセルビアともどもEU(欧州連合)の翼で抱擁するとのアハティサーリ構想に導かれたのだ。

 ところで、委曲を尽くしたアハティサーリ案にも、輝かしい「人民の自決の原則」への言及は皆無である。だから、独立宣言はアハティサーリ案ともどもに崇高な「人民の自決の権利」への裏切りだと叫ぶ急進的原理主義組織が、コソボにある。ただ、その報道はわが国にはない。

 独立宣言派やアハティサーリは「人民の自決の原則」を否定したのか。無論、そうではない。彼らは同原則の強調ではなく、非強調の道を選んだまでだ。では、なぜ非強調なのか。国連憲章中のいくつかの理念は、個々にはいかに高尚なものだろうと、脉絡(みゃくらく)なくそれぞれを強調すれば、今日では結果として深刻な相互矛盾を生む。好例が、憲章第1条1の「国際の平和及び安全」の維持と同条2の「人民自決」原則の関係だ。後者の絶叫は前者を危うくする。

 15年前、ブトロス・ガリ国連事務総長は国際社会がボスニア紛争処理を間違うと、アフリカだけでも200の国家が出現しかねず、国連は機能しなくなるとの懸念を語った。同じころ、クリストファー米国務長官は、異なるエスニック集団が一国内で同居する方法を見いださないと、世界は「5000ほどの国家を抱えてしまう」と嘆いた。

 このおぞましいシナリオはまだ退役していない。その回避のため、「人民自決原則」の非強調という知恵が、現代世界にとり必要なのだ。

 ≪個別に「最適解」を探す努力≫

 ロシアのコソボ独立反対の論拠は結局、前述の安保理決議1244がセルビアの「領土保全」を謳っているではないかというにある。確かに「領土保全」は国連憲章やCSCE(欧州安保協力会議=当時)のヘルシンキ宣言などの国際法規範で重視される原則だ。が、絶対的な「領土保全」思想は、そもそも領土関係の変更を理論的に排除しない「人民自決原則」と微妙な緊張関係に立つ。ならば、ここでも純粋原則それぞれの強調ではなく、むしろ非強調に難題処理の実際的方策を求めるほかあるまい。

 六十数年前の国連憲章成立時はおろか、1966年の国際人権規約採択時においても、今日の世界に見るような既存国家からの分離独立志向の蔓延(まんえん)といった事態は予見されていなかった。憲章第1条1「国際の平和及び安全の維持」と同2「人民の自決の原則」とは調和関係にあるはずだった。しかし、そういう牧歌的な時代はとうに終わった。さりとて、それ自体は高尚な後者の原則の廃止は、いまさら不可能である。では、どういう方策があり得るか。

 国際政治の場が無原則であってはならない。が、そこでの現実問題は同じものが2つとはなく、すべて個別的だ。ならば、原則を忘却せず、しかし原則を絶叫するのではなく、個別主義的に最適解を探すこと。世界各地域の分離独立志向を扱うにはこれしかない。
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by sakura4987 | 2008-04-17 12:16

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