◆これが「でたらめ出勤簿」 社保庁ヤミ専従
(世界日報 2008/5/23)
http://www.worldtimes.co.jp/special2/yamisenju/080525.html
年金記録の管理で問題となっている社会保険庁で、休職許可を得ないまま組合活動に専念していた悪質な「ヤミ専従」職員のいることが同庁の調査報告で分かった。だが、その内容は氷山の一角にすぎない。労組は全国的に組織されているのに、東京、大阪、京都に三十人程度しかヤミ専従がいなかったというのはおかしい。本紙はこのほど、ヤミ専従者による架空の出勤簿と、でたらめな勤務評定記録書(いずれもコピー)を入手したが、労組と幹部職員との不当な関係は相当に根深く、法に抵触する犯罪行為の可能性すらあることが判明した。再調査をして徹底的にウミを出し切らなければ国民の年金管理を任せることはできない。
(編集部)
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仕事せずに評定「A」
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本紙が入手した架空の出勤簿コピー。社保庁の実態を全く反映していない勤務評定記録書(写真上)とヤミ専従者が押印していた出勤簿(写真下)。氏名は黒塗りで消されている
本紙が入手したヤミ専従者による架空の出勤簿のコピーとは、勤務実態がないのに仕事をしたことにした出勤簿のことである。
コピーは、職名が「厚生労働事務官」となっているが、氏名が分からないよう氏名欄と押印をすべて黒塗りで消してある。ただ、ヤミ専従の職員が押印した出勤簿であることが衆院決算行政監視委員会で確認されている。
これは自民党の葉梨康弘衆院議員がこのほど同委員会に提示したもの。葉梨議員は本紙とのインタビューの中で、「仕事をしないで、だいたい月に一度事務所に顔を出し、一カ月分の出勤簿に押印していく」と指摘するとともに、「刑法の有印公文書偽造に抵触する可能性が大きい」と語った。
また、ある社会保険事務所の「勤務評定記録書」(平成十二年七月一日から同十三年六月三十日の定期評定)のコピーを見ると、五人の一般職員のうち一人だけがA評価を得ている。この職員(男性)がヤミ専従の組合員で、「仕事の結果」「仕事の仕方」「仕事に対する態度」のすべてがAで、「誠実さ」や「辛抱強さ」などが評価され、仕事の適性についても「適している」の欄にチェックが入っている。
全く不当な評定だが、これを東京社会保険事務局長が実施権者として確認印を押している。葉梨氏によると、仕事をしなくていい組合幹部の人事先に関して、(1)数人はまず総務課や本局の幾つかの課が引き受ける(2)多くは出先の比較的暇な社会保険事務所に配置する(3)配置した時、本局の人事係長が事務所長に「今度組合の幹部が行くから」と電話をする――という。「こうしたずぶずぶの関係と言える三層構造に徹底的にメスを入れないとウミは出し切れない」(葉梨氏)と言えよう。
「刑法に抵触も」葉梨衆院議員
内部調査では限界
本局・事務所・労組が“癒着”/超過勤務時間もでっち上げ
本紙が自民党の葉梨康弘衆院議員に行ったインタビューの一問一答は以下の通り。
――社会保険庁による年金記録のずさんな管理については、今後も追及されなければならないが、それとは別に、労働組合の責任者や管理職側は、ヤミ専従を行ってきた実態を国民に説明し、国会などの公式の場で謝罪をすべきではないか。
どんどんやるべきだとは思っている。そのためには、事実関係をもっと調査しなければならない。ただこの問題は、刑事事件になる可能性がある。それを呼び出して国会で問いただしても限界がある。事件としてしっかり捜査してもらうことも必要だと思う。
●年金の管理も疑問
また、今の政府の調査体制でいいのか。われわれも独自に党で調査をしているので、そこで得られた内容をもっと国会で明らかにしていきたい。
そのことの意味は、今の年金記録のずさんな管理、という問題にとどまらない。これからどういう職員が今後の年金記録を管理していってくれるのかということにつながる。労組だけでなくヤミ専従を容認あるいは推奨してきた人たちはたくさんいる。そうした自分たちの給与の記録を改竄(かいざん)するような人たちが、新しい機構に生き残っていくとすれば、われわれの年金が今後、きちんと管理されていくのかという疑問に結び付くのではないか。
――社保庁職員の服務違反に関する調査報告書が四月三十日、提出されたが、社保庁内部による調査だけに疑問点が多い。第一に、全国的な組織である社保庁なのに、なぜ、ヤミ専従は東京十七人と大阪十二人、京都一人しかいないという結果が出たのか。
当然、ほかの所にもいた可能性はある。しっかり調査をしないといけないと思う。しかし、果たして今の調査体制でどこまでできるのか。
葉梨 康弘(はなし・やすひろ)昭和34年生まれ。東大法学部卒。警察庁入庁。平成15年、衆議院初当選。北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会理事、自民党国会対策副委員長、公務員給与改革断行を求める若手議員の会事務局長などを務める。茨城3区。2期目。
例えば、調査を実施した服務関係調査班は、東京社会保険事務局にあっては、事務局長が主査となり、総務部長、総務課長が主要な調査員として入っている。だが、今の東京社会保険事務局の総務課長も自ら、事務所長当時、ヤミ専従に給料を払っていたことを認めている。実質的にヤミ専従を推奨した人間が、調査員となってヤミ専従を調べたって、泥棒が泥棒を調べるようなものだ。これではまともな調査ができるわけがない。
●組合加盟90%以上
―調査はまた、平成十六年以前の七年間に絞って行っている。労組の委員長は記者会見で七億五千万円を返還すると言っていたが、ヤミ専従はもっと前から行われていたのではないのか。いつからヤミ専従が始まり、総額でいくらの年金保険料を組合に還流あるいは私的に流用したのか。
今のところ、給与の記録が保管されている期間ということだけで、やっているようだ。話を聞いてみると、もっと前からヤミ専従が行われていたというのは明らかだが。今の調査の中身でそこまで明らかになるとはとても思えない。
―それと、調べた対象が約六千七百人いたが、組織ぐるみ的にやってきたような人に聞いてもどれだけ正確に実態を把握できるのかも極めて疑問だが。
全くその通り。実態として多くの都道府県プロパーといわれる人たちは、ほぼ例外なくヤミ専従にかかわっている。自分たちがかかわったものについて、根こそぎ明らかにしろと言っても、どうしたって甘えが出てくる。例えば、東京での採用者は、組合と一体だ。だから、組合員は東京採用の人たちをいかにごまかすかを考えているのだ。全国で90%以上が組合に加盟しているので、全部グルとも考えられる。
―どういう調査体制を組むのが望ましいか。
やはり外から客観的に見ないとだめだろう。それをどうするのかは今後の課題だ。行政の責任でやるときにそれを内部調査だけで完結させてしまったら、大したものは出てこないだろう。実態解明なくして社保庁改革はない。
●有印公文書偽造だ
―党の調査では、かなり実態にメスを入れているようだ。具体的に何が出てきたのか。
刑法一五五条に抵触する可能性の大きい有印公文書偽造と国家公務員法一〇八条に違反する諸実情が確認できたと考えている。
例えば、全く架空のでっち上げの出勤簿が作られていたことだ。架空の超過勤務の時間もでっち上げられていた。つまり、だいたい月に一度事務所に顔を出し、仕事をしないで一カ月分の出勤簿に押印していく。超過勤務として夜に業務説明を行ったとしているが、その内容は新しい業務を始めるので組合もそれに対応してほしいといった程度のことを話し合ったものだ。
ある職員の給与例を挙げてみよう。その人は、平成十五年にヤミ専従ということで総務課に在籍していながら仕事はしていなかった。それなのに、この年の九月の俸給は、三十七万五千五百円。そして、扶養手当が四万一千円、調整手当が四万九千九百八十円、住居手当が千円、通勤手当が一万八千五百十円。それに超過勤務手当三万三百三十円が加算され、合計五十一万六千三百二十円も支払われている。
―でたらめな勤務評定についても問題のようだが。
その通りだ。仕事をしていない職員に対してAランクの評定をしているのはどう考えてもおかしい。ある社会保険事務所では、S、A、B、C、Dというランク付けをしている。Aランクとは、仕事に対する態度、仕事の仕方、結果が評価され、基本的には特別昇給することのできる職員に付けられると聞いている。月に一度しか顔を出さず、たばこを吸って架空の出勤簿を作る犯罪行為をした結果がAというのだ。しかも、それを事務所長が推奨しているというのはどういうわけか。これは共犯関係にあると言える。
●給与4万円アップ
Aと評価されたある職員の給与例を紹介しよう。A評価されたのは、平成十五年の七月だった。その年の十月の基本給が二十九万六千九百円で、支給総額が先ほどの諸手当や不当な超過勤務も入れて三十八万七百六十一円だった。それが一カ月後の十一月には、支給総額が四十二万三千百五十三円に跳ね上がっていた。ヤミ専従をしながら、つまり仕事をせずに、ひと月に四万円も給料が増えていた。
これは、組合員だけでなくそれと各都道府県のプロパーたちが癒着していたことを表している。こういう関係にもメスを入れねばならない。
―これでは職場に服務規律があるなどとは考えられない。
こういう背景があって、年金記録のずさんな管理とか標準報酬の改竄問題などが起きたのだ。自分たちの給料すら改竄して得ているくらいだから、国民の年金などの書類を改竄するなんて、朝飯前に違いない。
―こうして考えてみると、東京、大阪、京都にしかヤミ専従がいなかったというのはやはりおかしい。
ある大規模県では、休職専従やヤミ専従を問わず、組合活動で専従にかかわっていた人間は一人もいないという報告が組合から上がっている。それをそのままにしていてはいけない。公金詐取の時効は七年あるのでまだ間に合う。単に当時の給料を返納しただけでは問題は片付かない。刑事告発すべきはして徹底的にウミを出し切らなければ失われた信頼は回復されない。
―労組の性格上、他の省庁でも同じようなことをやっているのではないか。公務員制度改革も本格化しているときでもあるが。
情報があればそれは調べていきたい。いずれにせよ、自民党としても鋭意調査をして真相を明らかにし、国民に伝えて改善していくことが肝要だと考えている。
(聞き手=政治部・早川一郎)
(サンデー掲載:5月25日)