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◆【正論】高崎経済大学教授・八木秀次 宮中祭祀廃止論に反駁する



 (産経 2008/6/5)

 http://sankei.jp.msn.com/culture/imperial/080605/imp0806050311000-n1.htm


 ≪■原武史教授の提言≫

 目の前の些事(さじ)に目を奪われ勝ちだが、わが国の根幹にかかわる危機は確実に進行している。皇室の危機のことだ。

 皇室を巡る危機は大きく2つある。1つは言うまでもなく、皇位継承問題だ。幸いにして秋篠宮家に悠仁親王殿下が誕生して男系・女系を巡る皇室典範改定の危機はひとまず去った。だが、悠仁親王殿下が皇位を継承される頃にはすべての宮家が消滅する。旧宮家の皇籍復帰など皇族の数を増やす措置が必要だろう。

 2つ目の危機はいっそう深刻だ。最近、皇太子妃殿下のご病気の原因として宮中祭祀(さいし)に違和感を持たれていることが指摘され、そこから宮中祭祀の大幅な簡略化ないし廃止が唱えられるようになった。宮内庁も天皇・皇后両陛下の健康問題を理由に、少なくとも簡略化の方向にもっていきたい意向だ。

 宮中祭祀廃止論の主唱者である原武史・明治学院大学教授は今の皇太子殿下・妃殿下が天皇・皇后になられる時代には、お堀の外からは見えない宮中祭祀より、もっとダイレクトに、例えばネットカフェ難民(低所得のため住居がなくインターネットカフェで寝泊まりしている若者)やプレカリアート(就労の不安定な労働者を意味する造語)などを皇居に招いて食事を振る舞うなどの「救済」をしてはどうかと提案する(『現代』5月号)。

 ≪■創られた伝統ではない≫

 しかし、宮中祭祀は皇室の存在理由そのものだ。天皇はその始まり以来、一貫して「国平らかに民安かれ」と祈る祭祀王であり、祭祀をしない天皇など語義矛盾でもある。『日本書紀』には皇祖神・天照大神が祭祀を行う記述が散見されるし、初代・神武天皇も「天神地祇を敬ひ祭る」存在として記述されている。欽明天皇の時代に仏教を導入することの是非が議論された際にも天皇の役割を「恒に天地社稷の百八十神を以て、春夏秋冬、祭拝りたまふことを事とす」との記述が見える。

 今日の体系的な祭祀の基礎が完成したのは、「延喜式」(927年)であり、律令時代には祈年祭、月次祭、新嘗祭が重視された。歴代天皇の祭祀に対する基本姿勢は第84代・順徳天皇の『禁秘抄』にある「凡そ禁中の作法、神事を先にし、他事を後にす」との言葉に尽きている。宮中の作法はまず神事すなわち祭祀があり、その他のことは後回しということだ。

 原氏は今日の宮中祭祀は「祭祀を『国体』の根幹と見なす後期水戸学の影響」であり、明治になって確立したものだと主張する(『昭和天皇』岩波新書)。「創られた伝統」であるがゆえに廃止も可能だということだ。この論は意外にも浸透しつつあるが、以上に見た通り、宮中祭祀は何も明治になって「創られた」ものではない。応仁の乱以降は中絶した儀式もあったが、第119代・光格天皇の御代や明治になって再興され、また新たな祭祀が創出され、明治41年の皇室祭祀令で法的な整備がされた。戦後は皇室の「私事」とされたが、基本的にはこれを引き継いだものだ。

 昭和天皇、今上天皇はことのほか宮中祭祀にご熱心であり、原氏はそこに違和感を覚えているようだが、それは皇祖皇宗のご姿勢そのままに「祈る」存在としての天皇のお務めに忠実であるということに他ならない。

 ≪■新種の天皇制廃絶論≫

 宮中祭祀の簡略化ないし廃止が唱えられるようになったのは今が初めてではない。既に昭和40年代の初めあたりから、入江相政侍従(後の侍従長)を中心に動きがあり、入江は昭和天皇の高齢を理由に新嘗祭の廃止や元旦の四方拝の簡略化などを画策し、一部は実現させている。その背景には入江自身の思想とともに、「無神論者」を自称した富田朝彦宮内庁次長(後の長官)の就任や、政教分離をテーマにした津地鎮祭訴訟に過度に反応して皇室から宗教色を排除しようとした宮内庁官僚の動きが指摘されている(メールマガジン「斎藤吉久の『誤解だらけの天皇・皇室』」)。なお、今上天皇が宮中祭祀にご熱心なのは、入江らの動きへの反発であり、簡略化された祭祀を再興しようとのご意志の反映とも考えられる。

 最近の簡略化ないし廃止の動きが過去のこのような動きとどのように関係するのかは定かではないが、日本の伝統に違和感を覚える一部の外務官僚が宮内庁に影響力を拡大していることと無関係とは思えない。また、原氏の背景も気になるところだ。

 繰り返すが、宮中祭祀は皇室の存在理由そのものだ。皇室から「祈り」を奪う動きは、本人の意識はともかく、新種の天皇制廃絶論と断ずる他はなかろう。
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by sakura4987 | 2008-06-10 16:30

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